- 著者
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松本 明子
井原 庸
油野木 公盛
細井 栄嗣
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
- 巻号頁・発行日
- pp.177, 2013 (Released:2014-02-14)
宮島には餌づけによって市街地周辺に約 500頭のニホンジカが生息する.島外との個体の移出入がない閉鎖個体群で,生息密度が高く餌資源制限の状態にあると考えられる.体格の小型化と成長の遅延がみられるほか,繁殖開始齢が上昇し多くのメスが 4歳以上で初産を迎える.ほかの地域のニホンジカと比べて成長に要する時間が長く,育児期間が長期化している.また,子ジカの体重はばらつきが大きく,同じ時期に約 3倍の差があることがわかっている.そのため,性成熟していない複数齢の子ジカが母ジカとともに行動している場合や,1歳への授乳が散見されるなど,育児様式が多様化している.また,繁殖コストのうち哺乳は妊娠に比べて多大なコストがかかることが知られ,金華山では栄養状態の悪化により隔年繁殖を招いている.同様に栄養状態が悪いといわれる宮島でも授乳中の母ジカの体重が 10%程度低下する場合もあり,幼獣にも母ジカの栄養状態の影響と考えられる成長の遅滞が観察された.そこで,翌年の繁殖への投資やタイミングに影響を与える子ジカの成長パターンや死亡率を明らかにし,出生時期や性による違いを検討した.さらに,子ジカに対する授乳行動の性差についても成長や死亡率との関連から考察した.また,ニホンジカのような体サイズに性的二型がある種では,体の大きいオスのほうが栄養の要求量が大きく成長速度が速い反面,脆弱性と結びついている可能性が指摘されている.金華山などでは初期のオスの死亡率が高いことが指摘されている.宮島においても 0歳から 1歳までと 1歳から 2歳までの子ジカの死亡率を推定し,性による違いがあるかを検討した.