著者
佐藤 紀子 雨宮 有子 細谷 紀子 飯野 理恵 丸谷 美紀 井出 成美
出版者
千葉看護学会
雑誌
千葉看護学会会誌 (ISSN:13448846)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.1-11, 2018-09

[抄録] 本研究の目的は,介護予防事業従事者(以下従事者とする)が活用できる「高齢者のエンパワメントに着目した介護予防支援ガイド」(以下ガイドとする)を作成し,ガイドを活用した従事者間の振り返りの内容からガイドの有効性を検討することである。まず,先行研究で明らかにした高齢者のエンパワメントに影響を及ぼす支援内容を精錬化させ,7項目21の支援内容からなる支援指針を作成した。ガイドは,この支援指針を含む6つの項目で構成した。作成したガイドを活用して,3施設で3か月間介護予防事業を実施してもらった。開始から1か月,2か月,3か月の時点において,従事者間でガイドを用いて支援の振り返りを行ってもらい,その内容をデータとした。振り返りの内容と変化から,1.従事者が高齢者のエンパワメントの視点から有効な支援ができたか,2.ガイドを活用した従事者間の振り返りによって,改善点を見出すことができたかの観点から有効性を検討した。その結果,「高齢者の理解」,「従事者と参加高齢者との関係性」,「他者との相互作用の場の提供」,「高齢者が継続的に介護予防に取り組める環境整備」というエンパワメント支援に求められる視点から実践の質を高められることが確認できた。また,本ガイドは「支援の方針の共有」「できている,あるいは不十分な支援を確認」「支援の必要性や重要性への気づき」「課題と今後の方向性の明確化」という振り返りを促進するものであり,実践の改善点を見出すことに有効であったといえる。[ABSTRACT] The purpose of this study was to create a "long-term care prevention support guide focused on the empowerment of elderly people"( hereinafter, "care guide") that can be used by long-term care prevention practitioners, and to investigate the efficacy of this care guide based on the reflections of practitioners who used the care guide. The first step involved refining the details of support that influence the empowerment of elderly people revealed in earlier research and subsequently creating a support guideline based on 21 types of support organized into 7 items. The care guide was formed of six of the items included in this support guideline. The created care guide was then used in the long-term care prevention activities of practitioners at three different facilities for three months. At one, two and three months after introducing the care guide, practitioners working at the three facilities were asked to reflect on support using the care guide. The details of these reflections were then rendered as data. The details of and changes in reflections were used to examine the efficacy of the care guide in terms of the success of(1) the care guide in effectively motivating practitioners to act from the perspective of empowering elderly people, and(2) reflections in improving the practices of practitioners who used the care guide. The results confirmed that the care guide was able to enhance the quality of practices required to support empowerment, such as "understanding elderly people," "relationships between practitioners and participating elderly people," "providing a place for interaction with others," and "providing an environment where elderly people can continuously work on long-term care prevention." Further, the care guide was also able to enhance the reflections, such as "sharing support strategies," "verifying feasible or inadequate support," "recognizing the necessity and importance of support," and "clarifying challenges and future objectives." This confirmed the efficacy of the care guide since practitioners were able to reflect on support in a way that enabled them to improve their practices.
著者
細谷 紀子 佐藤 紀子 杉本 健太郎 雨宮 有子 泰羅 万純
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.606-616, 2022-08-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
27

目的 本研究は,全国市区町村における災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実態とその実施に関連する要因を明らかにし,災害時の共助,すなわち住民相互の助け合いを推進するための平常時における保健師活動に示唆を得ることを目的とする。方法 2019年1月1日現在,全国市区町村(特別区含む,政令指定都市は本庁を除き各区を対象)のうち,2019年中に災害救助法の適用があった市区町村を除く,1,463市区町村を対象に郵送式による無記名自記式質問紙調査を行った。回答は統括的な役割を担う保健師に依頼した。調査項目は市区町村概要,保健師の活動体制,防災に関する活動基盤,災害時の共助を意図した活動の実施状況である。得られたデータを用いて,災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実施を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行い,関連する要因を検討した。結果 541件の回答があり(回収率37.0%),主要な項目に欠損値があった6件を除く535件の回答を分析した(有効回答率36.6%)。保健師の活動体制は地区担当制と業務担当制の併用が81.7%,地域防災計画策定への保健師の関与有は31.6%であった。「災害時の共助を意図した平常時の保健師活動」のうち,避難行動要支援者等への「個別支援」実施有は223(41.7%),自主防災組織等の「住民組織への支援協働」実施有は186(34.8%),その他の「共助を意図した活動」実施有は160(29.9%)であった。未実施の理由は,防災対策が「事務分掌外」であること,「住民組織との接点がない」などが上位に挙がった。ロジスティック回帰分析の結果,災害時の共助を意図した平常時の保健師活動の実施には「保健師の活動体制が地区担当制であること」「地域防災計画策定への保健師の関与があること」「災害対策に関する保健師活動マニュアルの作成があること」などが有意に関連していた。結論 災害時の共助を意図した平常時の保健師活動として個別支援は4割,それ以外は3割の実施であり,十分に行われていない実態が示された。担当地区をベースにした地区活動のあり方を見直すこと,地域防災計画策定への保健師の関与と災害対策に関する保健師活動マニュアルの作成に向けた統括保健師の役割発揮および外部支援の必要性が示唆された。
著者
吉岡 京子 藤井 仁 塩見 美抄 片山 貴文 細谷 紀子 真山 達志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.12, pp.876-887, 2021-12-15 (Released:2021-12-24)
参考文献数
39

目的 本研究の目的は,保健師が策定に参画した保健医療福祉計画(以下,計画とする。)の実行段階における住民との協働に関連する要因を解明し,地域全体の健康レベルの向上に貢献できる保健活動への示唆を得ることである。方法 研究の概念枠組みとしてPlan-Do-Check-Act(以下,PDCAとする。)サイクルを用いた。本調査で焦点を当てた計画の実行段階は「Do」に相当するため,調査項目は「Plan」の段階の内容を中心に構成し,計画の実行段階における住民との協働をどの程度取り入れたか,回答者の属性,計画策定への参画状況,組織要因,計画策定の際に用いた方策を含めた。調査対象者は,地方自治体に勤務する常勤保健師のうち,保健師活動指針が発出された2013年以降に計画策定に参画した経験を有する者とした。協力意思を示した220地域(36都道府県,41保健所設置市,153市町村)に2,185人分の調査票を2019年10月~11月に郵送した。二項ロジスティック回帰分析により,住民との協働を取り入れたことと独立変数との関連について検討した。結果 1,281人から回答を得た(回収率58.6%)。2013年以降に計画策定の経験がなかった203人と欠損値の多かった50人を除く1,028人について分析した(有効回答率47.0%)。計画の実行段階で住民との協働を「全く取り入れなかった」と回答した者は125人(12.2%),「あまり取り入れなかった」者は293人(28.5%),「少し取り入れた」者は482人(46.9%),「とても取り入れた」者は128人(12.4%)だった。二項ロジスティック回帰分析の結果,係長級以上の職位に就いていること,健康増進計画の策定への参画,住民へのアンケート調査やグループワークの実施,ワーキンググループや計画策定委員会の委員への住民の参加,すでに発表されている研究成果の活用,ターゲット集団の設定および計画実施の進捗管理の実施が,住民との協働を取り入れたことと有意に関連していた。結論 保健師が,計画の実行段階における住民との協働を進めていくためには,地域の健康・生活課題解決に向けて住民の声やエビデンスに基づく計画を策定し,確実に実行されるように進捗管理を行う必要性が示唆された。
著者
細谷 紀子
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-06-28

生殖細胞と癌細胞において特異的に発現する「癌精巣抗原」が体細胞における染色体不安定性の誘導に果たす役割を解明するため、癌精巣抗原であるシナプトネマ複合体形成分子SYCP3とSYCE2について、体細胞を用いた機能解析を行った。我々は既に、シナプトネマ複合体形成分子SYCP3が体細胞において遺伝性癌抑制遺伝子産物BRCA2と複合体を形成して相同組換え修復によるDNA二本鎖切断修復を阻害して染色体不安定性を誘導することを報告している。前年度までに、SYCP3とBRCA2の複合体形成によって相同組換え修復が抑制されるメカニズムを明らかにするために、BRCA2におけるSYCP3との相互作用部位の解析を進め、BRCA2のN末側とC末側の2箇所に、SYCP3との相互作用領域があることを同定した。今年度は、引き続き、SYCP3およびBRCA2の組換え蛋白の作製を行い、in vitro binding assayにより、SYCP3とBRCA2のN末端が直接結合することを明らかにした。シナプトネマ複合体形成分子SYCE2については、前年度までに、体細胞においてDNA損傷応答の活性化とDNA二本鎖切断修復の亢進をもたらすことが示唆されていた。今年度、DR-GFPアッセイやDNA二本鎖切断末端結合解析を行い、SYCE2が相同組換え修復と非相同末端結合の両経路の修復効率を上昇させることを明らかにした。また、DNA損傷応答が活性化する背景を調べるために、SYCE2発現細胞におけるヒストンの翻訳後修飾やクロマチン構造の変化の有無について解析を進めた。