著者
緒方 政則 川崎 貴士 佐多 竹良 小原 剛 南立 宏一郎 緒方 政則
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

手術侵襲・麻酔薬が、自然免疫において中心的な役割を持っている食細胞(単球・マクロファージ、好中球)の機能に与える影響を検討することが今回の研究目的である。食細胞の機能活性化はミトコンドリアによるエネルギー産生によるところが大きい。ミトコンドリアの呼吸鎖により産生されるATPは、食細胞機能を活性させることが近年報告されている。そこで、ミトコンドリアのエネルギー産生、活性化、形態に与える手術侵襲・麻酔薬の影響を検討することにした。麻酔薬が単球、好中球のミトコンドリア機能に与える影響について検討した。様々な濃度の局所麻酔薬(リドカイン、メビバカイン、ブプバカイン、ロビバカイン)とともに、健常成人から採取した末梢血から分離した単球、好中球を数時間培養した。培養後、貪食能、細胞内ATP濃度測定、蛍光標識されたマーカーによるミトコンドリア機能評価、ミトコンドリア形態評価をおこなった。リドカインは、貪食能を有意に低下させた。更に、リドカインは、細胞内ATP濃度や、ミトコンドリア膜電位をコントロールに比べて、有意に低下させ、アポトーシスをひきおこした。他の局所麻酔薬は、このような作用は認められなかった。リドカインは、ミトコンドリア機能を低下させて、自然免疫を抑制する作用があることがわかった。更に、静脈麻酔薬について、同様の研究を行った。プロポフォールは、濃度依存性に好中球ミトコンドリア機能を低下させる傾向が見られたが、有意な差は認められなかった。また、手術中の胸部硬膜外麻酔により、上腹部開腹術で、周術期の自然免疫能低下を抑制するかどうか調べた。手術侵襲により、TNF産生能、貪食能は有意に低下したが、殺菌能は低下しなかった。胸部硬膜外麻酔でも、全身麻酔と同様に、手術侵襲による自然免疫能低下がおこった。好中球アポトーシス及びミトコンドリア機能に関しては、個人差が大きく、現在も研究中である。
著者
井上 義崇 川崎 貴士 阿部 謙一 緒方 政則 蒲地 正幸 佐多 竹良
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.196-201, 2001-05-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1 1

術中出血量が4,000ml以上であった成人16症例について,血漿イオン化カルシウム(iCa)濃度および血漿イオン化マグネシウム(iMg)濃度の変動とその補正のあり方を検討した.iCa濃度(mmol・l-1)は術中補正が行われたにもかかわらず,0.71±0.13まで低下し,手術終了時にほぼ正常値に復帰した.iMg濃度(mmol・l±)は0.46±0.06から0.19±0.07まで下がり,手術終了直後は0.27±0.07,術後1日目には0.38±0.06まで回復した.これらの血清電解質濃度の低下には,血液成分の希釈による影響が大きいことが示唆された,大量出血時には循環血液量の補充に用いた製剤の種類と量に応じたCa2+およびMg2+の補充を考える必要があり,電解質維持を考慮した製剤の検討が望まれる.
著者
緒方 政則 川崎 貴士 南立 宏一郎
出版者
産業医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

暑熱環境によるエンドトキシン(LPS)の感受性変化と致死率について興味深い結果が得られた。実験1.暑熱環境による致死率と体温変化エンドトキシン感受性マウス(C3H/HeN)とエンドトキシン非感受性マウス(C3H/Hej)の2群に分け、人工気象室にて、42℃、湿度50%で2から3時間飼育し、室温(27℃)に戻した。(結果)LPSに反応する遺伝子を有するC3H/HeNマウスとLPSには反応しない遺伝子を持つC3H/HeJマウスに暑熱環境下で熱暴露すると、C3H/HeJマウスが生存率を有意に改善した。この両群のマウスの熱暴露後の両群の直腸温を径時的に測定すると、両群ともに、体温上昇が急で、41℃以上の異常高体温に至ったマウスが死亡していることがわかった。また、41℃以上(異常高体温)と41℃未満(適応群)で熱暴露後の生死についてカイ二乗検定すると、有意に異常高体温が死に関与していることがわかった。これらの結果より、LPS遺伝子も生死に関与するが、異常高体温を引き起こす因子が生死に関与していることが推察された。実験2.暑熱環境によるエンドトキシン(LPS)の感受性変化エンドトキシン感受性マウス(C3H/HeN)を2群に分け、人工気象室にて、42℃、27℃の2群に分け、湿度50%で2時間飼育し、致死量以下および致死量のLPSを投与し、その後3日間、生死を観察した。(結果)42℃で2時間暑熱環境下に曝した後に、エンドトキシン(LPS)を投与すると、熱非暴露群に比べて、エンドトキシンの感受性が高まることがはじめて明らかにした。また、経時的にサイトカインであるIL-6,TNFを測定すると、TNFは両群ともに、有意な差は認めなかったが、IL-6は、熱暴露群の方が有意に高かった。