著者
米田 晃敏 日浦 政明 烏山 司 本間 雄一 柴田 道彦 蒲地 正幸 原田 大
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.363-369, 2018-07-20 (Released:2018-07-27)
参考文献数
16
被引用文献数
1 1

アセトアミノフェンの内服薬であるカロナールⓇの過量投与による肝障害の報告は多数あるが,静注剤であるアセリオⓇの過量投与による肝障害の報告例は少ない.今回我々は,周術期疼痛管理におけるアセリオⓇの過量投与による昏睡型急性肝不全の一例を経験した.アセリオⓇ投与開始から3日目に著明な肝障害を来しており,経過からアセトアミノフェンの薬物性肝障害と診断し,N-acetylcystein(NAC)や薬物吸着療法を開始した.その後III度の肝性脳症が出現したため,アンモニアなどの小分子量物質の除去と人工肝補助を目的に高流量血液濾過透析(high-flow CHDF)を開始し,速やかな改善が得られた.アセリオⓇの使用は静注剤である利便性から今後も臨床現場での使用頻度は増加すると思われるが,薬物中毒による昏睡型急性肝不全は救命率が低く,使用時には用法・用量を守り肝障害の出現に注意する必要がある.
著者
金澤 綾子 内田 貴之 相原 啓二 蒲地 正幸
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.19-23, 2020-01-01 (Released:2020-01-01)
参考文献数
10

症例は77歳,女性。腰椎固定術後,入院中にショックとなりICUに入室した。入室時は心拍数50 /minの高度徐脈,血圧測定不能の状態であった。採血上,イオン化マグネシウム(iMg2+)2.34 mmol/Lの高マグネシウム(Mg)血症を認め,これがショックの原因と考えられたことから,緊急血液透析を導入した。血中Mg濃度の低下とともに徐脈は改善し,ICU入室3日目にはショックを離脱した。本症例においてはICU入室25日前より麻痺性イレウスの診断で酸化Mg製剤の内服が開始された経緯があったが,血中Mg濃度は徐々に上昇したのではなく,ICU入室当日に急激に上昇していた。この急激な濃度上昇は,イレウスに伴って腸管粘膜からのMg吸収が亢進したためと推測された。酸化Mg製剤の投与に際しては,腸管からの吸収促進の病態がある場合には慎重に行う必要がある。
著者
長田 圭司 伊佐 泰樹 二瓶 俊一 原山 信也 相原 啓二 蒲地 正幸
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.16-19, 2013-03-28 (Released:2013-05-02)
参考文献数
6

症例は49歳,男性。大量のインスリンを自己注射し自殺をはかり,心肺停止状態で搬送された。低血糖と判断し心肺蘇生を継続しながらただちに50%ブドウ糖液20 mlの静脈内投与を行った。その直後の大腿(動脈血)から採取した血糖値は1262 mg/dlと高値を呈していた。しかし,その5分後に採取した血糖値は33 mg/dl,さらにその4分後では305 mg/dlと短時間の間に激しく変動した。心肺蘇生時における循環時間の遅延により,ブドウ糖の血管内不均等分布を起こしたことが原因と考えられた。心肺蘇生中は,循環時間の遅延がブドウ糖投与後の血糖測定値に大きな影響を与えることを念頭に置くべきである。
著者
中村 倫太郎 二瓶 俊一 松本 泰幸 伊佐 泰樹 長田 圭司 原山 信也 相原 啓二 蒲地 正幸
出版者
日本蘇生学会
雑誌
蘇生 (ISSN:02884348)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.20-23, 2020-04-01 (Released:2020-04-13)
参考文献数
15

当初軽症と判断したが,症状が遷延し治療に難渋した脂溶性有機リン中毒症例を経験した。症例は30代女性。脂溶性有機リンを内服し救急搬送された。来院時コリンエステラーゼ(ChE)は低値だが,症状から軽症と判断された。対症療法のみで経過を診たが第3病日に流涎,呼吸困難感が出現し気管挿管施行。第4病日に症状改善し抜管するも,第6病日に症状が再燃し再挿管施行。第9病日再抜管。第12病日に頻呼吸・呼吸困難感が出現し再々挿管。この時点までChE値低値持続していたが,徐々にChE値が改善。第20病日抜管し,その後状態が安定した。本症例の経験から,脂溶性有機リン中毒症例では,ChE低値が持続する症例の人工呼吸器離脱は慎重に行うべきである。
著者
蒲地 正幸 重松 昭生 渡辺 浩行
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

1.フォスファチジルコリンとコレステロ―ルとを用い,ロータリーエバポレータ(Haake-Buckler社)にてCL2MDPリポソームを作製した.2.CL2MDPをラットの気管内に投与して肺胞内MFを枯渇させた群とCl2MDPを含まないリポソームを気管内投与した群とにわけて,エンドトキシンによる肺血管透過性の変化について調べた.エンドトキシンの腹腔内投与による肺血管透過性亢進はCl2MDP投与群において抑制されることをエンドトキシン投与後24時間目に^<125>Iと^<51>Crを用いたdouble isotope methodで肺血管外水分量を測定することで確認した.3.次にCl2MDPを血管内投与した場合,肺胞MFの数には影響を与えず,血管内MFはほぼ完全に枯渇する事を確認した.しかしエンドトキシンの腹腔内投与による肺血管外水分量の増加は,気管内投与した場合と逆にCl2MDP投与群おいてコントロール群に比較して高度であった.4.今回の実験においてエンドトキシンショック時の肺障害には肺胞マクロファージが強く関与していることが示唆されたが,Cl2MDPを全身投与することによってエンドトキシンによる肺血管外水分量の増加が増強されたことの理由は不明である.現在,血中のサイトカインやエンドトキシンの動態,またマクロファージ以外の細胞の関与について研究中である.
著者
長門 優 岩本 謙荘 原山 信也 岩田 輝男 二瓶 俊一 谷川 隆久 相原 啓二 蒲地 正幸
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.521-525, 2008-10-01 (Released:2009-04-20)
参考文献数
9

尿管結石症から敗血症性ショック,播種性血管内凝固症候群となり救命できなかった一例を経験した。症例は85歳女性。尿路感染症を疑われ近医に入院したが,翌日にショックとなり当院に紹介された。当院搬送時すでに多臓器機能不全の状態であった。血中エンドトキシン値の上昇と,CTにて左尿管結石,左水腎症を認め,結石嵌頓による敗血症と診断した。呼吸循環管理に加え,経尿道尿管カテーテル留置,エンドトキシン吸着および持続血液濾過透析を行ったが,ICU入室2日目に死亡した。血液・尿培養のいずれからもEscherichia coli(E. coli)が検出された。当院で過去5年間に経験した尿管結石症から敗血症へ移行した10症例のうち,死亡例は本症例のみであった。原因として,高齢であったこと,全身性炎症反応症候群が遷延し重症化したことに加え,抗生物質によりグラム陰性菌からエンドトキシン遊離が助長された可能性が考えられた。
著者
井上 義崇 川崎 貴士 阿部 謙一 緒方 政則 蒲地 正幸 佐多 竹良
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.196-201, 2001-05-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
18
被引用文献数
1 1 1

術中出血量が4,000ml以上であった成人16症例について,血漿イオン化カルシウム(iCa)濃度および血漿イオン化マグネシウム(iMg)濃度の変動とその補正のあり方を検討した.iCa濃度(mmol・l-1)は術中補正が行われたにもかかわらず,0.71±0.13まで低下し,手術終了時にほぼ正常値に復帰した.iMg濃度(mmol・l±)は0.46±0.06から0.19±0.07まで下がり,手術終了直後は0.27±0.07,術後1日目には0.38±0.06まで回復した.これらの血清電解質濃度の低下には,血液成分の希釈による影響が大きいことが示唆された,大量出血時には循環血液量の補充に用いた製剤の種類と量に応じたCa2+およびMg2+の補充を考える必要があり,電解質維持を考慮した製剤の検討が望まれる.
著者
二瓶 俊一 岩本 謙荘 後藤 慶 原山 信也 毛利 文彦 相原 啓二 蒲地 正幸
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.35-40, 2008 (Released:2009-06-11)
参考文献数
20
被引用文献数
1

産業保健と救急医療のかかわり:二瓶俊一ほか.産業医科大学病院救急・集中治療部―産業保健活動は,職場環境や作業方法により発生する健康障害のリスクを適切にコントロールすることが主要目的である.しかしリスクの低減によっても災害や病気を防げないことがある.事業所内で発生した災害や病気に対する初期対応は,産業保健スタッフにとって大変重要な仕事である.適切な初期対応により,災害や病気からの救命率を上げることも可能であり,発生した災害や病気に対するマネジメント=救急危機管理は,産業保健遂行上,大変重要である.従って,産業保健と救急医療の間には緊密な関係がある. (産衛誌2009; 51: 35-40)
著者
蒲地 正幸 内田 荘平 撫中 正博
出版者
産業医科大学学会
雑誌
産業医科大学雑誌 (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.443-450, 2001-12-01

タイで自動車事故により頸髄損傷をきたした患者を人工呼吸管理を行いながら日本まで搬送した.患者は55歳, 男性.タイへ出向中の自動車会社の社員.交通事故により頸髄損傷をきたし, 救急病院に搬送された.牽引整復後, 頸椎固定術が施行された.受傷後約1ヵ月が経過した時点で状態が安定し, 日本へ搬送することになった.神経学的には第5頸髄レベル以下の完全麻痺であり, 自発呼吸はみとめられるが十分な1回換気量が得られないため搬送中も人工呼吸管理が必要と判断された.人口呼吸器, 酸素ボンベ, 吸引器, モニター等を現地の搬送アシスタント会社に手配してもらい, 日本から持ち込んだ医療器具を併用して無事, 日本まで搬送することができた.飛行時間約6時間, 現地の病院を出発してから約11時間の医療搬送であった.重症患者の国際搬送, 航空搬送に必要とされる知識, 技術, 問題点について学ぶことができた.