著者
羽佐田 紘大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.88, no.2, pp.118-137, 2015-03-01 (Released:2019-10-05)
参考文献数
53
被引用文献数
4 5

濃尾平野で得られた合計2,701本のボーリング柱状図の土質区分とN値によって,沖積層を基底礫層,下部砂層,中部泥層,上部砂層,沖積陸成層,人工改変層に区分した.この層序区分と218点の14C年代値によって,地層境界面および等時間面標高データベースを作成した.これらのデータベースを基に,GISを用いた空間解析を行い,沖積層の3次元構造と堆積土砂量を復原した.その結果,中部泥層よりも下位面には谷地形が認められること,その谷地形はデルタの前進に伴う中部泥層や上部砂層の堆積によって埋積されていったことが明らかになった.また,1,000calBP以降は,沖積陸成層の堆積域が現在の三角州まで達し,陸上デルタが広範囲に拡大した.過去6,000年間の堆積土砂量は約211015gと推定される.特に,1,000calBP以降に急激な増加が認められる.これは,流域における農耕や森林伐採といった人為的影響によって土砂生産量が増加したことに起因すると考えられる.
著者
羽佐田 紘大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.187-210, 2021-07-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
121

濃尾平野,矢作川下流低地の堆積土砂量を基に,木曽三川・庄内川および矢作川流域における完新世中期以降の侵食速度を1,000年ごとに求めた.過去6,000年間の侵食速度は,木曽三川・庄内川流域で0.29~0.55mm/yr,矢作川流域で0.15~0.29mm/yrと算出された.流域の平均傾斜から推定した侵食速度は,それぞれ0.45,0.16mm/yr,また,体積計算範囲外側の土砂堆積を考慮した侵食速度は,それぞれ0.37~0.64,0.26~0.48mm/yrとなった.これらの値には桁が異なるほどの違いはないことから,低地の堆積土砂量から流域の長期的な侵食速度の傾向をある程度見出すことが可能であると指摘できる.ただし,矢作川流域の各侵食速度の差については,三河湾の土砂堆積の過大評価や山地に分布する花崗岩類の崩壊のしやすさが影響した可能性がある.体積計算範囲外側における土砂堆積の考慮の有無にかかわらず,両流域の侵食速度は1,000年前以降が最大であった.これは流域での森林伐採などの影響によると考えられる.
著者
藤本 潔 羽佐田 紘大 谷口 真吾 古川 恵太 小野 賢二 渡辺 信
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

1.はじめに<br><br>マングローブ林は、一般に潮間帯上部という極めて限られた環境下にのみ成立することから、温暖化に伴う海面上昇は、その生態系へ多大な影響を及ぼすであろうことが予想される。西表島に隣接する石垣島の海面水位は、1968年以降、全球平均とほぼ同一の年平均2.3mmの速度で上昇しつつある(沖縄気象台 2018)。すなわち、ここ50年間で11.5cm上昇した計算となる。近年の上昇速度が年10mmを超えるミクロネシア連邦ポンペイ島では、マングローブ泥炭堆積域で、その生産を担うヤエヤマヒルギ属の立木密度が低下した林分では大規模な表層侵食が進行しつつあることが明らかになって来た(藤本ほか 2016)。本発表は、本年2月および8月に西表島のマングローブ林を対象に実施した現地調査で見出された海面上昇の影響と考えられる現象について報告する。<br><br>2.研究方法<br><br>筆者らは、西表島ではこれまで船浦湾のヤエヤマヒルギ林とオヒルギ林に固定プロットを設置し、植生構造と立地環境の観測研究を行ってきた。今回は、由布島対岸に位置するマヤプシキ林に新たに固定プロット(幅5m、奥行70m)を設置し、地盤高測量と毎木調査を行った。プロットは海側林縁部から海岸線とほぼ直行する形で設置した。地盤高測量は水準器付きポケットコンパスを用い、cmオーダーで微地形を表記できるよう多点で測量し、ArcGIS 3D analystを用いて等高線図を作成した。標高は、測量時の海面高度を基準に、石垣港の潮位表を用いて算出した。毎木調査は、胸高(1.3m)以上の全立木に番号を付し、樹種名、位置(XY座標)、直径(ヤエヤマヒルギは最上部の支柱根上30cm、それ以外の樹種は胸高)、樹高を記載した。<br><br>3.結果<br><br> 海側10mはマヤプシキのほぼ純林、10~33mの間はマヤプシキとヤエヤマヒルギの混交林、33~50mの間はヤエヤマヒルギとオヒルギの混交林、50mより内陸側はほぼオヒルギの純林となっていた。70m地点には立ち枯れしたシマシラキが確認された。立ち枯れしたシマシラキは、プロット外にも多数確認された。<br><br> マヤプシキは直径5㎝未満の小径木が46%、5~10cmが37%を占める。20m地点までは直径10cm未満のものがほとんどを占めるが、20~33mの間は直径10cmを超えるものが過半数を占めるようになる。最大直径は23.3cm、最大樹高は5.7mであった。ヤエヤマヒルギはほとんどが直径10cm未満で、直径5cm未満の小径木が74%を占める。最大直径は47m付近の13.8cm、最大樹高は5.7mであった。オヒルギは直径5cm未満の小径木は少なく、50~70mの間では直径10cm以上、樹高6m以上のものがほぼ半数を占める。最大直径は19.9cm、最大樹高は11.1mに達する。<br><br>地盤高は、海側林縁部が標高+28cmで、内陸側に向かい徐々に高くなり、45m付近で+50cm程になる。45mより内陸側にはアナジャコの塚であったと思われる比高10~20cm程の微高地が見られるが、一般的なアナジャコの塚に比べると起伏は小さい。この林の最も内陸側には、起伏の大きな現成のアナジャコの塚が存在し、そこではシマシラキの生木が確認された。立ち枯れしたシマシラキはアナジャコの塚であったと思われる起伏の小さな微高地上に分布していた。<br><br>4.考察<br><br> シマシラキはバックマングローブの一種で、通常はほとんど潮位の届かない地盤高に生育している。立ち枯れしたシマシラキはアナジャコの塚上に生育していたが、近年の海面上昇に伴いアナジャコの塚が侵食され地盤高を減じたため、冠水頻度が増し枯死した可能性がある。船浦湾に面する浜堤の海側前縁部にはヒルギモドキの小群落が見られるが、近年海岸侵食が進み、そのケーブル根が露出していることも確認された。このように、全球平均とほぼ同様な速度で進みつつある海面上昇に対しても、一部の樹種では目に見える形での影響が現れ始めていることが明らかになった。<br><br>参考文献<br>沖縄気象台 2018. 沖縄の気候変動監視レポート2018. 藤本潔 2016. 日本地理学会発表要旨集 90: 101.