著者
吉田 博則 脇山 真治
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.54, pp.121-128, 2010-11-10

TV-CMでは、その導入部分でストーリー展開の間に、商品ラベルデザインに関連する映像が挿入されることが多い。商品ラベルデザインは、生活者が他の商品と見分ける上で重要な要素であり、店頭で並んだときの商品の顔に当たる部分である。本研究は、TV-CMの商品ラベルデザインの映像において、商品想起を高める表現手法の要因を明らかにすることを目的とする。そのために第一段階として、既存のTV-CMにおける商品ラベルデザインに関連する表現手法を考察した。その結果、商品想起を高める表現手法には、次のような4つのタイプの傾向がみられた。(1)商品ラベル部分を実写で紹介する。(2)商品ラベルから連想するイメージを合成エフェクトで強調する。(3)商品名ロゴタイプをタイトル文字としてレイアウトする。(4)商品デザインの一部を登場人物の日常空間に展開する。次に第二段階として、それらの中で最も基本的な(1)商品ラベル部分を実写で紹介する映像、つまり商品ラベル映像の効果について、認知心理学に基づく記憶実験を実施した。本実験では、既存のTV-CM映像ではなく、要素を簡略化した商品ラベル映像を3タイプ用意した。動きが全くない(1)フィックスタイプ、ラベル部分が序々に大写しになる(2)ズームインタイプ、カメラを振り込んで正面にラベルを捉える(3)パンニングタイプである。無意味なカタカナ2文字がデザインされた商品ラベル映像にこれらの表現手法を割り振り、どの表現が商品想起に優位であるか再認実験を行なった。その結果、パンニングは、フィックスよりも、商品想起において劣っていた。パンニングは被験者に対して左右に動くため、商品名の識別に支障をきたしたと考えられる。一方、ズームインは商品ラベル部分が序々に迫ってくる前後の動きである。これは商品ラベルを強調する表現手法であり、フィックスより有効であると予測したが、その逆の傾向であった。商品想起を基準に表現手法を評価すると、商品ラベル映像においては、最もシンプルなフィックスが効果的であることがわかった。
著者
青木 卓也 妹尾 武治 中村 信次 藤井 芳孝 石井 達郎 脇山 真治
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.255-265, 2020-09-30 (Released:2020-09-30)
参考文献数
46

Visually induced illusory self-motion perception is named “Vection”. In this article, we investigated the history of vection. There have been a lot of contents and technology using and relating to vection, e.g. analogue contents, movies, animations, 3D computer graphics (3D CGs), Games, and VR contents. We introduced these things in chronological order. The readers will be able to understand the history of vection very briefly.
著者
脇山 真治
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.30-37, 2021 (Released:2021-05-01)

展示映像とは見本市や博覧会等のイベント、博物館等の文化施設などに使われる映像の総称である。映画は世界共通の技術仕様があり、その限りでは後年のオリジナル上映も可能である。社会的評価も確立しており、研究対象としても多くの保存資料が活用されている。しかし展示映像には世界標準が存在せず、イベントで使われる一回性の映像という認識が強く、ほとんど保存されることはない。展示映像は映画とほぼ同じような歴史をもち、また同時代の展示手法や表現技術の最先端を擁していながらこれらがなぜ保存されていないのか。その理由を明らかにすることが本研究の目的である。さらに将来的には展示映像のアーカイブの実現へ向けた課題の抽出を遠望して本研究をスタートさせた。 展示映像は映画の発明の直後、1900年のパリ万国博覧会から登場している。映画が登場の当初から今日に至るまで国際的にアーカイブが進んでいるのと対照的に、展示映像はほとんど残されずにきた。それは展示映像が映像と音響だけでなく、スクリーンデザイン、上映空間の形状、特殊効果などのビジュアルデザインの総合として存在しており、そのすべての構成要素を何らかの方法で残さない限り、アーカイブとして完結しないという困難な対象でもある。本研究では日本万国博覧会(1970年:以降日本万博)、国際科学技術博覧会(1985年:以降つくば科学万博)、東京国際フォーラム等で制作された作品の追跡調査から、その理由を明らかにした。その着目点は上映システムが複雑であること、一つの作品の中に複数の素材・仕様が混在していること、保存のための推進組織がないこと、作品ごとに独自のシステムが計画されており標準化したアーカイブシステムが構築できないことなど、8つの側面である。 展示映像は同時代の最も先端的なコンテンツと技術を統合した作品だが、ことに「イベント映像」の側面が強いという特徴から、再演・再現は当初から前提にない。しかしながら、一方では、優れた作品が博覧会の期間を超えて保存され、擬似的な再演でも可能ならば、博覧会に参加できない多くの人々に、作品のコンセプトやメッセージを継続的に配信することができ、何よりも将来の展示映像の研究者、制作者にとって有益な資料となると思われる。
著者
脇山 真治
出版者
九州大学大学院芸術工学研究院
雑誌
芸術工学研究 (ISSN:13490915)
巻号頁・発行日
no.7, pp.1-16, 2007-03-30

There is a method of dividing a screen into the expression technique of TVCM and showing it two or more images simultaneously. It is the so-called "Split-Screen." It is used for looking forward to the trial of graphic design with emphasis of the goods characteristic, extension of an image, a figurative expression, and so on. For the background according to which a split screen is introduced into TVCM, social and technical backgrounds, such as increase of the amount of information, improvement in the speed of action or thinking, and enlargement of the accuracy of a television set, can be considered. Furthermore, restrictions of the time given to TVCM and demands from a sponsor are also one of the reasons. Moreover it is also a fact that the environment of the work which can perform screen division and composition easily has been improved. However, a "Split-Screen" must not cause a audience's visual confusion, and it must carry out usage which considered the message and expressional adjustment, and the suitable effect of communication of TVCM.
著者
脇山 真治
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.27-34, 2014 (Released:2018-12-03)

スプリット・スクリーンとはひとつの画面を任意に分割して、複数の映像を組み込んだもので、映画表現の様式のひとつとして考案された。これはマルチ映像の一種でありながらマルチ映像史の中での位置づけは明確でない。本研究は一般的には映画表現のひとつとして認知されているスプリット・スクリーンがどのような系譜をたどってきたか明らかにすることを目的とした。これをとおしてマルチ映像史の一端を整理することができると考える。 このテーマに関する先行研究や調査資料はほとんど存在せず、スプリット・スクリーンを使った作品リストもない。したがって現在入手可能な映画作品を視聴することをとおして史的整理を行った。 スプリット・スクリーンの原初的形態は特撮映画の嚆矢とされるメリエス映画に見ることができる。合成技術も未熟な時期にすでに複数の映像を1画面に焼き込む表現が試みられている。その後はトーキーが登場するまではサイレント映画の表現の試行と拡張としてつかわれてきた。『ナポレオン』(1927)はサイレント末期の「トリプル・エクラン=3面マルチスクリーン」映画として知られるが、ここにもスプリット・スクリーンは使われている。 第二次世界大戦後に開催された万国博覧会は映像展示が主流となる。この状況は劇場映画にも影響を与えた。1960年から1980年代の映画は万国博覧会のマルチ映像の隆盛と呼応するようにスプリット・スクリーンが活用される。『華麗なる賭け』(1968)、『絞殺魔』(1968)などは代表例である。この時期のブライアン・デ・パルマ監督作品の多くにスプリット・スクリーンが挿入される。 1990年代には映画のデジタル化がはじまる。この時期から再びスプリット・スクリーンをつかった映画が増える。画面の分割と複数の素材の取り込みなどの作業はデジタル化によって容易にかつ映像の精度を落とすことなく可能になった。2000年代に入ってからのスプリット・スクリーンはこのデジタル技術が大きく影響していると思われる。この表現を取り入れた作品数も映画発明からの100年間を上回る勢いである。 本研究では、スプリット・スクリーンはサイレント期、万博の映像展示併走期、デジタル期と大きくは3つの時代区分ができることを示した。
著者
吉田 博則 脇山 真治
出版者
芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
no.54, pp.129-136, 2010-11-10

TV-CMを構成するショットは、大きく2つに分けられる。ストーリー要素と商品関連要素である。ストーリー要素には、状況設定、ドラマ展開、登場人物、シナリオ、会話、ナレーション、音楽などがある。商品関連要素には、商品の外観、商品ラベル部分、商品の中身、商品機能イメージ、商品の使用場面、商品効果表現、商品ディスプレイショット、商品名台詞ナレーション、商品名音楽などがある。本研究の目的は、TV-CMのストーリー要素が、商品好感度に与える影響を検証することにある。本研究において、ストーリー要素を構成するショットを、ストーリー関連ショットと呼ぶ。本研究の実験では既存のTV-CMコンテンツは使わず、ストーリー関連ショットと商品外観映像をつないだ短い実験映像を制作して用いた。(1)人物から商品へ。(2)食事から商品へ。(3)動物から商品へ。いずれも商品には、無意味なカタカナ2文字の商品名が記されている。ストーリー関連ショット(0.5秒)と商品外観映像(1秒)がオーバーラップ(1秒)によってつながっている。オーバーラップ(略称O.L)とは、前者から後者へ画面が全体で変化していく場面転換のことである。[figure]前者の人物群(現場監督、ビジネスマン、ジョガー)、食事群(カレー、ハンバーガー、サラダ)、動物群(犬、猫、アヒル)は、いずれもTV-CMに登場する機会が多い構成要素である。これらの材料をもとに、認知心理学に基づく嗜好テストを実施した。このようなストーリー関連ショットに対する印象が、後続する商品外観映像の商品好感度に影響するのであろうか。そもそもこの両者に因果関係があるのだろうか。商品好感度を高める要因について、実験する目的や比較する要素を限定て一定のし指針をだすことができればと考えた。