著者
芦澤 淳 藤本 泰文
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.27-40, 2012 (Released:2017-11-10)
参考文献数
26
被引用文献数
4

2010年5月から9月に,小型のため池において,カニ籠,手網,塩ビ管を用いてアメリカザリガニを捕獲した.捕獲個体数から生息個体数を推定した結果,調査開始時における2009年以前に新規加入した個体(以下,大型個体)の生息個体数は,1,886個体と推定された.2010年に新規加入した個体(以下,小型個体)の生息個体数は,3,192個体と推定された.週2回程度の捕獲作業を4箇月半繰り返した結果,大型個体と小型個体は,それぞれ1,885個体,3,176個体捕獲された.調査終了時における大型個体と小型個体の生息個体数は,それぞれ1個体,16個体と推定され,生息個体数を低密度に抑制することができた.ため池内の捕獲とともに,周辺地域からの侵入個体を捕獲した結果,ため池の流入部及び周縁部で,合計1,050個体が捕獲された.以上の結果から,小型のため池においてカニ籠,手網,塩ビ管を用いてアメリカザリガニの個体数抑制が可能であった.ただし,ため池の周辺にアメリカザリガニが生息している場合,侵入防止対策や周辺地域も含めた防除を行なう必要があった.
著者
芦澤 淳 長谷川 政智 高橋 清孝
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.83-93, 2017 (Released:2017-11-10)
参考文献数
24

アメリカザリガニProcambarus clarkii が生態系に及ぼす被害を防止するために,本種の駆除活動が各地で行なわれている.アメリカザリガニの駆除活動においては,餌で誘引する罠を用いた捕獲が一般的に行なわれている.罠に使用する餌には生餌(魚肉、牛レバー)が使用されることが多いが,生餌の価格は高く,保管にコストがかかることが問題である.また,これまでに国内で行なわれた罠の餌に関する研究においては,生餌以外の餌についてアメリカザリガニに対する誘引効果が示されたが,これらの餌には誘引効果や費用の面で課題がある.そこで,本研究では,アメリカザリガニの捕獲罠に使用する餌について,誘引効果や費用対効果がより高い餌を明らかにすることを目的とし,配合飼料(ドッグフード,マス用飼料,およびコイ用飼料)と,従来から使用されている生餌および糠団子の間で,アメリカザリガニに対する誘引効果および費用対効果を比較した.その結果,マス用飼料によるアメリカザリガニの誘引効果は,生餌および糠団子と同程度であったが,ドッグフードの誘引効果は糠団子よりも高かった.また,ドッグフードとマス用飼料の費用対効果は,どちらも生餌よりも高かった.これらの結果から,ドッグフードはアメリカザリガニの誘引効果と費用対効果がともに高い餌といえた.また,脂質含量が少ないコイ用飼料については,ドッグフードに比べて費用対効果がやや劣るものの,誘引効果はドッグフードおよびマス用飼料と同程度であった.以上より,アメリカザリガニの捕獲罠に使用する餌としては,誘引効果と費用対効果の面ではドッグフードが適していたが,油膜の発生による生態系への影響が懸念される場合には,コイ用飼料を使用することで,アメリカザリガニを効率よく捕獲できるだろう.
著者
芦澤 淳 久保田 龍二 高橋 清孝
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.75-86, 2018 (Released:2018-07-23)
参考文献数
38
被引用文献数
4

アメリカザリガニによる生態系等への被害防止には、罠を用いた駆除が実施されてきたが、捕獲効率の向上を目的とした罠の選択や設置方法に関する十分な検討は行われていない。本研究は、捕獲個体の大きさと数、及び捕獲効率を指標に、籠網、アナゴカゴ、カニカゴ、網モンドリの効果的な使用方法を検討した。アメリカザリガニの捕獲個体数は、4 種類の罠すべてにおいて、罠設置後の時間経過と共に増加し、一旦ピークに達した後、減少した。試験期間全体では、籠網とアナゴカゴによる捕獲個体数が多かったが、罠を設置してから5 時間以内であれば、網モンドリによる捕獲個体数も籠網及びアナゴカゴと同程度に多かった。長時間の設置で餌の誘引効果が減少すると、罠からの脱出が生じたが、その程度は入口が開いている罠で高く、閉じている罠で低かった。そのため、アメリカザリガニの捕獲効率は罠の種類と設置時間によって異なり、0.2 日後には網モンドリで、1 日後と3 日後にはアナゴカゴで、7 日後には網モンドリ以外の罠で高かった。そこで、餌による誘因効果の経時的変化と罠からの脱出し易さを考慮して検討した結果、アメリカザリガニが高密度に生息している場合には、網モンドリを用いて数時間おきに1日2回以上の捕獲を行うこと、生息密度が低下し捕獲効率が低下した段階でアナゴカゴに切り替え長期間設置することで、効率的な捕獲が実現できると考えられた。
著者
上田 紘司 芦澤 淳 藤本 泰文 嶋田 哲郎
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-37, 2016 (Released:2017-04-07)
参考文献数
21
被引用文献数
1

宮城県北部の伊豆沼・内沼およびその周辺地域において2014年にトンボ目の成虫を対象とした定性調査を行なった.本調査では,10科37種のトンボ目成虫の生息が確認され,このうち3種は新たに確認された.過去の調査では合計10科44種のトンボ目成虫が確認されている.過去の調査で確認され,今回の調査で確認されなかった10種のうち7種は,宮城県レッドリスト又は環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている種であった.これらの結果から伊豆沼・内沼およびその周辺地域には,30種以上のトンボ目が生息可能な環境が現在も残ってはいるものの,環境変化に弱い絶滅危惧種からトンボ目が姿を消しつつある状況にあると言える.