著者
藤本 泰文 速水 裕樹
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.79-83, 2018-10-24 (Released:2018-10-24)
参考文献数
15

宮城県北部に位置する伊豆沼・内沼(38˚43’N,141˚07’E)で,2018 年7 月24 日にタナゴAcheilognathus melanogaster を捕獲した.2006 年以来12 年ぶりの再確認であった.タナゴは東日本の太平 洋側を分布域とする在来種で,宮城県では絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)に選定されており(宮城県環境生活部自然保護課 2016),それぞれの地域個体群の保全が重要となっている(Nagata et al. 2018).伊豆沼・内沼では防除活動によるオオクチバスの減少にともない,魚類相の回復が始まっており,今回の再確認は防除活動の成果の一つだと考えられることから,その状況について報告する.
著者
藤本 泰文 福田 亘佑
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
pp.22-015, (Released:2022-12-26)
参考文献数
38

Although overfishing has been recognized as a major factor threatening the existence of rare freshwater fishes, no case studies exist on the impact of collection pressure by fish enthusiasts and traders. In 2021, a habitat of reintroduced Acheilognathus typus, a species rarely seen the previous year, was visited every day by such enthusiasts. A monitoring survey indicated subsequently that the mean number of captured A. typus had decreased from 25.0 individuals/day in July 2021 to 1.6 individuals/day in October, the October 2021 figure being about one-tenth of that for September-October 2020. In addition, the standard length of A. typus in 2021 (56.8–59.5 mm) was greater than in 2020 (47.2 mm), possibly due to a thinning effect caused by the reduced fish numbers. During the period surveyed, some 50 to 100 fish enthusiasts and traders visited the habitat, apparently collecting thousands of A. typus by fishing or in bait traps. Such collecting pressure has clearly driven the reintroduced population of these rare fish to significantly low levels within a short period.
著者
斉藤 憲治 三塚 牧夫 麻山 賢人 藤本 泰文
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.107-120, 2021-06-30 (Released:2021-06-30)
参考文献数
47
被引用文献数
1

池干しによる駆除の2 年後に見られたオオクチバスMicropterus salmoides 稚魚が駆除の失敗によるものか再度の違法放流によるものなのか推定した.繁殖,成長,死亡についての過去の資料を参照しつつ,池干し時の残存個体または違法放流個体のサイズと数を逆算した.池干し時の捕り残しと仮定した場合,全長35cm 程度の成魚であれば8 尾弱または体長14cm 程度の0 才魚であれば 90 尾弱と推定された.池の干し上げの状況からこの数の捕り残しは現実的でない.池干しのおよそ1 年後の違法放流と仮定すると,調査で確認された稚魚が出現するには,全長38cm 程度を約5 尾または22cm 程度を約8 尾が放流されたと推定された.
著者
藤本 泰文 星 美幸 神宮字 寛
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.81-90, 2009 (Released:2017-11-10)
参考文献数
13
被引用文献数
13

定期的に調査を行なっていた宮城県北部の溜め池にオオクチバスが侵入した.すぐに捕獲作業を行ない,82個体のオオクチバスを捕獲した.環境調査の記録から,オオクチバスが侵入して13日が経過した段階で捕獲したと考えた.胃内容物を調査した結果,オオクチバスは1個体あたり3.0個体の水生生物を捕食していた.溜め池に生息する水生生物の個体数推定を行ない,オオクチバスによる水生生物に対する捕食数と捕食率を算出した.その結果,オオクチバスは溜め池に生息した13日間で,溜め池に生息する約9,000個体の水生生物のうち,タナゴ1,687個体,トウヨシノボリ400個体,エビ類718個体,アメリカザリガニ267個体を捕食したと推定された.これは生息個体数のそれぞれ37.9%, 31.0%, 35.0%, 21.2%に相当する.侵入初期のオオクチバスによる水生生物への影響を報告した事例はこれまでになく,本研究の結果は,オオクチバスが水生生物を大量に捕食する性質を持ち,今回のように生息する水生生物の約1%に相当する個体数が侵入した場合においても,強い捕食圧を与え,その水域の水生生物を急減させることを示した.
著者
芦澤 淳 藤本 泰文
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.27-40, 2012 (Released:2017-11-10)
参考文献数
26
被引用文献数
4

2010年5月から9月に,小型のため池において,カニ籠,手網,塩ビ管を用いてアメリカザリガニを捕獲した.捕獲個体数から生息個体数を推定した結果,調査開始時における2009年以前に新規加入した個体(以下,大型個体)の生息個体数は,1,886個体と推定された.2010年に新規加入した個体(以下,小型個体)の生息個体数は,3,192個体と推定された.週2回程度の捕獲作業を4箇月半繰り返した結果,大型個体と小型個体は,それぞれ1,885個体,3,176個体捕獲された.調査終了時における大型個体と小型個体の生息個体数は,それぞれ1個体,16個体と推定され,生息個体数を低密度に抑制することができた.ため池内の捕獲とともに,周辺地域からの侵入個体を捕獲した結果,ため池の流入部及び周縁部で,合計1,050個体が捕獲された.以上の結果から,小型のため池においてカニ籠,手網,塩ビ管を用いてアメリカザリガニの個体数抑制が可能であった.ただし,ため池の周辺にアメリカザリガニが生息している場合,侵入防止対策や周辺地域も含めた防除を行なう必要があった.
著者
藤本 泰文 久保田 龍二 進東 健太郎 高橋 清孝
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.213-219, 2012 (Released:2013-04-24)
参考文献数
27
被引用文献数
7 3

オオクチバスとブルーギルは,日本各地に移殖された外来魚で,ため池はその主要な生息場所となっている.本研究では,オオクチバスおよびブルーギルのため池からの用排水路を通じた移出状況を調査した.私たちは宮城県北部に位置する照越ため池の用水路と排水路に,ため池から流出した魚類を捕獲するトラップを設置した.4 月下旬から 7 月下旬の調査期間中,これらの外来魚は用水路と排水路の両方から何回も流出しており,その流出のタイミングは,それぞれの水路の通水期間に限られていた.体長 125 mm の成魚のブルーギルも流出していた.ため池の魚類生息数を池干しによって調査した結果,ため池に生息する外来魚のうち,オオクチバスは 4. 0%,ブルーギルは 7. 1%が流出していたことが示された.外来魚の流出は繰り返し生じ,生息個体数の数%が流出していたことから,外来魚の流出は稀な現象ではなく一般的な現象である可能性が高い.この結果は,ため池が下流域への外来魚供給源となっていることを示す.周辺地域への被害拡大を防ぐためにも,ため池の外来魚の駆除は重要だと言える.
著者
長谷川 政智 森 晃 藤本 泰文
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.59-66, 2016 (Released:2017-04-07)
参考文献数
10
被引用文献数
4

宮城県北部の河川・水路ならびにため池で2014~2015年に淡水エビ類の分布調査を実施した.調査の結果,在来種のスジエビPalaemon paucidens に酷似したエビを確認し,同定したところ,その形態的特徴から,外来種のPalaemonetes sinensis であることを確認した.今回,2箇所の調査地でP.sinensis の生息を確認し,再生産して定着していることも確認した.宮城県においてP.sinensis の発見とその定着を確認した報告は初めてである.
著者
嶋田 哲郎 藤本 泰文
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.S7-S9, 2009 (Released:2009-06-08)
参考文献数
9

2009年5月1日に内沼で捕獲されたオオクチバス(全長506mm,体重2.4kgのメス)の胃内容物から鳥類1羽,アメリカザリガニ3匹が発見された.未消化の羽毛の大きさや色彩パターン,上嘴や脚の色や形態,露出嘴峰長やふ蹠長などから,捕食された鳥類はオオジュリンと考えられた.
著者
上田 紘司 藤本 泰文
出版者
一般社団法人 日本昆虫学会
雑誌
昆蟲.ニューシリーズ (ISSN:13438794)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.153-164, 2022-12-25 (Released:2022-12-25)
参考文献数
30

宮城県北部の伊豆沼・内沼の周辺に位置する2つの池において,絶滅危惧種に指定されているオオセスジイトトンボParacercion plagiosum(トンボ目:イトトンボ科)の季節消長,繁殖期および生息環境を調査した.オオセスジイトトンボは,両池において6月上旬から8月中旬まで確認され,個体数のピークは6月下旬であった.繁殖行動(タンデム連結・交尾器の結合・産卵)は6月下旬から8月上旬にかけて両池で確認された.2つの池の水生植物の構成種は異なり,両池とも水際にはヨシPhragmites australisやミクリ属の1種Sparganium sp.など数種の抽水植物,水面には浮葉植物のヒシ類Trapa spp.が確認された.しかし,浮遊植物のイヌタヌキモUtricularia australisは一方の池でのみ確認された.本種の産卵は,ヒシ類が優占する池ではすべてヒシ類で行われたが,ヒシ類とイヌタヌキモが混生する池では,産卵行動の70%がイヌタヌキモで行われた.このことから,イヌタヌキモへの産卵はヒシ類と比較して本種の適応度を高める何らかの要素を持つ可能性を示唆した.伊豆沼・内沼では,富栄養化により沼の広い範囲をハスNelumbo nuciferaやヒシ類が優占する水環境となっており,イヌタヌキモが生育するような環境は貴重となっている.この個体群を保全していくには調査池の環境管理や伊豆沼・内沼で実施されている湖岸植生帯の復元活動が重要となるだろう.
著者
藤本 泰文 福田 亘佑
出版者
一般社団法人 日本魚類学会
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.111-118, 2023-04-25 (Released:2023-04-30)
参考文献数
38

Although overfishing has been recognized as a major factor threatening the existence of rare freshwater fishes, no case studies exist on the impact of collection pressure by fish enthusiasts and traders. In 2021, a habitat of reintroduced Acheilognathus typus, a species rarely seen the previous year, was visited every day by such enthusiasts. A monitoring survey indicated subsequently that the mean number of captured A. typus had decreased from 25.0 individuals/day in July 2021 to 1.6 individuals/day in October, the October 2021 figure being about one-tenth of that for September-October 2020. In addition, the standard length of A. typus in 2021 (56.8–59.5 mm) was greater than in 2020 (47.2 mm), possibly due to a thinning effect caused by the reduced fish numbers. During the period surveyed, some 50 to 100 fish enthusiasts and traders visited the habitat, apparently collecting thousands of A. typus by fishing or in bait traps. Such collecting pressure has clearly driven the reintroduced population of these rare fish to significantly low levels within a short period.
著者
上田 紘司 芦澤 淳 藤本 泰文 嶋田 哲郎
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.21-37, 2016 (Released:2017-04-07)
参考文献数
21
被引用文献数
1

宮城県北部の伊豆沼・内沼およびその周辺地域において2014年にトンボ目の成虫を対象とした定性調査を行なった.本調査では,10科37種のトンボ目成虫の生息が確認され,このうち3種は新たに確認された.過去の調査では合計10科44種のトンボ目成虫が確認されている.過去の調査で確認され,今回の調査で確認されなかった10種のうち7種は,宮城県レッドリスト又は環境省のレッドデータブックで絶滅危惧種に指定されている種であった.これらの結果から伊豆沼・内沼およびその周辺地域には,30種以上のトンボ目が生息可能な環境が現在も残ってはいるものの,環境変化に弱い絶滅危惧種からトンボ目が姿を消しつつある状況にあると言える.
著者
藤本 泰文 川岸 基能 進東 健太郎
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.13-25, 2008 (Released:2017-11-10)
参考文献数
37
被引用文献数
9

伊豆沼・内沼と集水域内の流入河川や池で魚類相を調査した.合計12科36種の魚類の生息を確認した.集水域の魚類相は,東日本固有種であるゼニタナゴ,タナゴ,シナイモツゴやギバチなどを含む,純淡水魚類を中心に構成されていた.開放水域である伊豆沼・内沼と流入河川では,かつて高密度に生息していた在来の小型魚種の生息数は僅かであった.一方,外来魚であるオオクチバスは数多く生息し,その影響が示唆された.池ではオオクチバスの生息の有無によって,魚類相に大きな違いがみられた.在来魚の生息種数は,オオクチバスが生息していない池で多かった.これらの池では,ここ十数年の間に伊豆沼・内沼から姿を消した数種の在来種を再確認した.開放水域である伊豆沼や河川の魚類相は,オオクチバスの侵入による影響が著しく,閉鎖水域である池では,在来魚が保存されているケースがあることが示された.本研究の結果は,集水域を単位とした魚類調査が,在来魚の再確認や防除が望ましい外来魚の分布の把握を通じ,その集水域での魚類相の復元に寄与する可能性を示した.
著者
長谷川 政智 池田 実 藤本 泰文
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.47-60, 2015 (Released:2017-11-10)
参考文献数
15
被引用文献数
2

外来種となるカワリヌマエビ属Neocaridina spp.と在来種のヌカエビParatya compressa improvisaの生息状況を宮城県北部の河川・水路ならびにため池で調査した.調査した河川・水路の114箇所のうち57.0%にあたる65箇所でカワリヌマエビ属の生息を確認した.一方,ヌカエビは44箇所(38.6%)でしか確認されず,また,1地点あたりの捕獲数もカワリヌマエビ属の半分以下であった.ため池では,カワリヌマエビ属が出現した池は56箇所のうち11箇所と少なかったが,ヌカエビは36箇所で確認された.一般化線型混合モデルによる検定と合わせて分析した結果,どちらのタイプの水環境でも,ヌカエビ生息地にカワリヌマエビ属が侵入した場合には,ヌカエビの生息に負の影響を及ぼす可能性が示された.したがって,今後も宮城県においてカワリヌマエビ属の分布は拡大し,ヌカエビの分布は縮小することが示唆される.
著者
藤本 泰文 久保田 龍二 進東 健太郎 高橋 清孝
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.213-219, 2012
被引用文献数
3 1

オオクチバスとブルーギルは,日本各地に移殖された外来魚で,ため池はその主要な生息場所となっている.本研究では,オオクチバスおよびブルーギルのため池からの用排水路を通じた移出状況を調査した.私たちは宮城県北部に位置する照越ため池の用水路と排水路に,ため池から流出した魚類を捕獲するトラップを設置した.4 月下旬から 7 月下旬の調査期間中,これらの外来魚は用水路と排水路の両方から何回も流出しており,その流出のタイミングは,それぞれの水路の通水期間に限られていた.体長 125 mm の成魚のブルーギルも流出していた.ため池の魚類生息数を池干しによって調査した結果,ため池に生息する外来魚のうち,オオクチバスは 4. 0%,ブルーギルは 7. 1%が流出していたことが示された.外来魚の流出は繰り返し生じ,生息個体数の数%が流出していたことから,外来魚の流出は稀な現象ではなく一般的な現象である可能性が高い.この結果は,ため池が下流域への外来魚供給源となっていることを示す.周辺地域への被害拡大を防ぐためにも,ため池の外来魚の駆除は重要だと言える.