著者
熊江 隆 荒川 はつ子 鈴川 一宏 石崎 香理 内山 巌雄
出版者
日本体力医学会
雑誌
体力科學 (ISSN:0039906X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.189-199, 1997-04-01
被引用文献数
2 3

本研究においては慢性疲労の予防を主眼として, 簡便・迅速な肉体疲労度評価法を開発するための基礎的検討をある大学に所属する箱根駅伝の選抜選手を被験者として行った.<BR>インフォームドコンセントを得てから, 夏期合宿の直前の7月から翌年2月までの8ケ月において, 約一ケ月間隔で8回の, 1) 身体的特性; 体重及びインピーダンス法による体脂肪量等, 2) 血清生化学検査; ドライケミストリー法と従来法による6項目の検査, 及び3) 主観的疲労度; 自覚症状しらべとPOMS, の調査を行った.<BR>ドライケミストリー法と従来法による血清生化学検査の結果は非常に良く一致し, ドライケミストリー法を用いても従来法と変わらない検査結果が得られることが明らかとなった.また, 練習量の多い夏期合宿の前後でみると血清酵素活性と主観的疲労度の変化に関連性がみられた.しかし, 全調査期間を通してみると関連性は認められず, 血清酵素活性と主観的疲労度の変化が逆になる傾向を示す被験者の存在が認められた.<BR>これらの本研究の結果より, 持久性の強い運動が慢性的に繰り返されている場合には, 主観的な疲労の調査だけでは肉体的な負荷を見過ごす可能性が考えられ, 肉体的な疲労状態を客観的に推定することが競技成績の向上や運動による障害の防止も含めて重要であろうと思われる.したがって, 微量の血液から簡便で迅速に検査が行え, 結果を調査現場で直ちに被験者や指導者に伝えることができるドライケミストリー法による血清酵素活性の検査は肉体疲労度の評価として有用であると思われ, オーバートレーニング状態への推移を予防する上でも非常に有効であろうと考えられる.
著者
熊江 隆 荒川 はつ子
出版者
独立行政法人国立健康・栄養研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の学術的な特色・独創的な点として、生体内では抗酸化的な酵素や物質が相補的・複合的に作用していると考え、血清の総抗酸化能(TAA)の測定・評価方法に関して検討を行い、方法を確立した。また、貪食細胞の活性酸素種(ROS)の産生を比較可能とする測定方法を確立した。ラットを用い、肺胞洗浄液(BALF)中の抗酸化物質濃度等を測定し、BALF中のタンパク質濃度は急性的な酸化的ストレスの、またチオバルビツール酸反応物(TBAR)濃度は中長期的な酸化ストレスの良い指標となると考えられた。さらに、肺胞マクロファージ(AM)のROS産生能とAM培養上清中のサイトカイン(IL-1β、IFNγ、及びTNFα)濃度を測定し、強制あるいは自発的な運動負荷の違いによる影響を明らかにした。ヒトを対象とした実験として、市民ランナーのマラソン前後で測定を行った。マラソン後には好中球数が増加し、IL-6、IL-8、及びG-CSF濃度も著明に増加していた。これらのサイトカインが好中球の動員に関与していると考えられる。さらに、マラソン完走者の好中球機能及びCD11bとCD16の発現を測定したが、レース後に好中球機能は低下し、その機能低下はCD16の発現減少に伴うと推察された。好中球数の増加は、機能低下に対する補償的な反応とも考えられる。女子大学生の長距離選手を被験者とし、持久的な運動負荷が繰り返される夏期合宿において血清の抗酸化物質濃度とTAA及び血漿中サイトカインを測定した。TAAと血清中抗酸化物質等との相関関係を検討したが、TAAとTBARの間にのみ正の強い相関関係が認められた。サイトカインの変動より、合宿によって全身の炎症性の反応はむしろ抑えられ、Th2活性を抑制した可能性が考えられる。また、運動習慣による血清中抗酸化物質等への影響を地域在住の高齢者を対象に調査研究を行ったが、男性の運動習慣あり群ではTAAとTBARの間に正の相関関係が認められた。本研究で確立した血清TAAは酸化・抗酸化の状況を示す良い指標になると思われる。
著者
熊江 隆 荒川 はつ子 内山 巖雄
出版者
国立公衆衛生院
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ラットを用いた基礎的研究の成果を多くの学会に報告した。Wistar系ラットでは、成熟後の22週齢から45週齢において非特異免疫能に変化が認められた。さらに、通常飼育の対照群と強制運動群及び自発的運動群の体重に著明な違いが認められたが、隔離ストレス群と対照群の体重はほとんど差がなかった。また、肺胞マクロファージの活性酸素産生能には、これらの群間でほとんど差が認められなかった。肺における生体内活性酸素バランスをみるために、ミトコンドリア及びミクロソーム分画におけるスーパーオキシド産生、抗酸化機構としてスーパーオキシドディスムターゼ活性等の測定を行ったが、これらの群間でほとんど差が認められず、成熟後からのストレス負荷では生体内活性酸素バランスへの影響が小さいように思われた。また、肺胞マクロファージ活性をみる目的で行った蛍光測定に関する研究成果はLuminescenceに掲載された。一方、食事調査方法の開発、競技選手の食習慣等の調査成績、さらに心理的調査に関する知見はEnviron.Health Prevent.Med.、臨床スポーツ医学、体力・栄養・免疫学雑誌に掲載された。また、大学駅伝選手における好中球の活性酸素種産生能の変化を検討した結果はInt.J.Sports.Med.に掲載され、ジョギング愛好家のNatural Killer細胞活性と好中球の活性酸素種産生能の変化を検討した成果はJ.Phys.Fit.Nutr.Immunol.に掲載された。さらに、血清より生体内活性酸素バランスを評価する方法として、活性酸素種の消去能力をみる総抗酸化能の測定方法を確立し、その機序や大学駅伝選手における変化について学会で報告した。一方、65歳以上の地域住民を対象者とし、運動習慣の有無による生体内活性酸素バランスの違いを血清の抗酸化物質量や総抗酸化能等を測定して検討したが、男女共に運動習慣の影響は認められなかった。