著者
荒瀬 尚
出版者
大阪大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2013-04-01

MHCクラスII分子は様々な自己免疫疾患の感受性に最も強く関与している分子である。しかし、特定のMHCクラスII分子がどのように疾患感受性を決定するかは長年明らかになっていない。一方、我々は、細胞内のミスフォールド蛋白質を細胞外へ輸送する分子としてMHCクラスII分子を同定した。さらに解析を進めることによってクラスIIに提示されたミスフォールド蛋白質は、抗原特異的なB細胞を活性化する。そこで、関節リウマチや抗リン脂質抗体症候群等の自己免疫疾患で認められるいくつかの自己抗体を解析すると、それらは、MHCクラスII分子に提示されたミスフォールド蛋白質(抗体重鎖やβ2グライコプロテインI)に対して高い親和性を示すことが判明した(Jin et al. PNAS 2014, Tanimura et al. Blood 2015)。さらに、MHCクラスII分子に提示されたミスフォールド蛋白質に対する自己抗体の結合性は、MHCクラスII分子による関節リウマチ等の自己免疫疾患の感受性と高い相関を示すことが判明した(Jin et al. PNAS 2014)。これらのことから、細胞内のミスフォールド蛋白質がMHCクラスII分子によって、細胞外へ輸送されると、その複合体が異物として異常な免疫応答を誘導するのではないかという今までに考えられてきたのとは異なる新たな自己免疫疾患の発症機構が明らかになった。すなわち、MHCクラスII分子に提示されたミスフォールド蛋白質は、自己抗体の標的分子として、自己免疫疾患の発症に関わるという新たな自己免疫疾患の分子機序が明らかになった。
著者
谷村 憲司 蝦名 康彦 渥美 達也 山田 秀人 荒瀬 尚
出版者
日本生殖免疫学会
雑誌
Reproductive Immunology and Biology (ISSN:1881607X)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.24-32, 2016 (Released:2018-08-05)
参考文献数
10

抗リン脂質抗体症候群(APS)は、抗リン脂質抗体(aPL)を有する患者が血栓症や妊娠合併症を呈する症候群である。APSでは、他の自己免疫疾患と同様に疾患感受性の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスII(HLA-II)アレルが存在することが知られているが、その機序は不明である。また、健常人の血清中にも存在するβ2-グリコプロテインI(β2GPI)が、何故、APS患者におけるaPLの主要抗原となり得るのか? についても不明である。 一方で、荒瀬らは、関節リウマチ(RA)患者の血清中にHLA-II分子と変性IgGの複合体に対する自己抗体が存在し、それがRAの病態に関連していることを報告した。今回、ミスフォールドβ2GPIとHLA-II複合体がAPSの病態と関連するかを調べた。 β2GPIのみを293T細胞に遺伝子導入しても細胞表面にβGPI は発現しなかったが、β2GPI とHLA-IIの両方を遺伝子導入するとβ2GPI が細胞表面に発現することを確認した。さらに、免疫沈降によって、細胞表面でHLA-II分子とβ2GPIが複合体を形成していることを明らかにした。また、HLA-IIと共沈降したβ2GPI の分子量からHLA-IIに結合したβ2GPIはペプチドではなく、full-lengthのβ2GPIであることが分かった。次に、ヒト抗カルジオリピン・モノクローナル抗体(EY2C9)と患者血清中の自己抗体がリン脂質非存在下で、APS感受性アリルのHLA-II(HLA-DR7)とβ2GPIの複合体を認識することが分かった。APS患者の83.3%(100/120人)において、β2GPI/HLA-DR7複合体に対する自己抗体が陽性であり、抗カルジオリピン抗体、抗β2GPI 抗体のそれぞれが陰性であるAPS患者の約50%でβ2GPI /HLA-DR7複合体に対する自己抗体が陽性となった。続いて、APS患者と健常人の流産絨毛を用いて、proximity ligation assay(PLA)を行った。APS患者の流産絨毛では、脱落膜の血管内皮細胞にMHCクラスIIとβ2GPIの共発現を認めたが、健常人の流産絨毛では認められなかった。最後に、EY2C9がβ2GPI/HLA-DR7複合体を発現した293T細胞に対して特異的に補体依存性細胞傷害を発揮することを証明した。
著者
荒瀬 尚 白鳥 行大
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.153-160, 2004 (Released:2005-06-17)
参考文献数
22

NK細胞はウィルス感染細胞や腫瘍細胞に細胞障害性を持つ細胞として, 生体防御において重要な機能を担っていると考えられている. NK細胞の標的細胞認識機構は長年不明であったが, 最近, ようやくある種のNK細胞レセプターが特異的にウイルス産物を認識することが明らかになってきた. さらに, NK細胞レセプターは, 活性化と抑制化からなるペア型レセプターを形成するが, それらによるウィルス感染細胞の認識パターンがウィルスに対する感染抵抗性を決定していることが判明した. そこで, 本稿ではNK細胞によるウィルス感染細胞の認識機構を中心に, 最近の知見をふまえ紹介する.
著者
荒瀬 尚 香山 雅子 末永 忠広 平安 恒幸
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々は、ミスフォールドしたMHCクラスI分子を細胞外へ輸送する分子としてMHCクラスII分子をクローニングした。そこで、他の蛋白質を解析したところ、卵白リゾチームや抗体の重鎖、さらに、リポ蛋白質の一つであるβ2GP1がMHCクラスII分子に結合することで、細胞外へ輸送され、関節リウマチや抗リン脂質抗体症候群で産生される自己抗体の特異的な標的抗原になっていることが判明した。一方、ミスフォールド蛋白質輸送分子を明らかにするために、細胞表面のミスフォールド蛋白質に会合している分子の検索を行った。その結果、質量分析によって、いくつかの候補分子が同定された。
著者
荒瀬 尚
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

マラリアの制御には宿主免疫応答が非常に重要な役割を担っている一方、マラリア原虫には様々な免疫制御機構が存在すると考えられている。一方、我々は、持続感染するヘルペスウイルス等のウイルスには抑制化レセプターを介した免疫逃避機構が存在することを明らかにしてきた。しかし、ウイルスと同様に宿主免疫機構と密接な相互作用をするマラリア原虫に同様な分子機構が存在するかどうかは明らかになっていない。そこで、本研究では、マラリア原虫による抑制化レセプターを介した新たな免疫逃避機構を追求した。その結果、マラリア原虫感染赤血球に抑制化レセプターのリガンドが発現していることが明らかになった。さらに、リガンド分子の同定を試みたところ、マラリア原虫由来の分子がリガンドであることが判明し、マラリア原虫の新たな免疫逃避機構であると考えられた。