著者
荻野 達史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.2-20, 2007-06-30 (Released:2010-03-25)
参考文献数
23
被引用文献数
8

「ひきこもり」支援施設とは,社会的諸活動から撤退していた青年たちが,自宅に限定されがちな生活から,主として就労・就学の場へと生活の場を広げていくことを援助する施設である.こうした施設は一種の「居場所」といえ,その機能は,住田(2004)によれば,利用者のきわめて否定的な自己定義を書き換え,行動上の変化をもたらすことにある.本稿は,ある支援施設におけるフィールドワークに基づき,施設利用者の自己アイデンティティが肯定的に変容する条件とその限界について分析したものであり,以下の諸点を明らかにした.ひきこもり経験者たちが,対人的な交流の場に定着し,肯定的な自己アイデンティティを構築する上で,施設の場が高度な相互行為儀礼を備えた空間であることは機能的である.しかし,その儀礼性の高さが,新たな自己物語のリアリティを支えるのに必要な「他者性」を支援空間から減退させるために,肯定的アイデンティティは強度を持ちえない.また,施設内の高度な儀礼性に自覚的になるほど,「外部社会」は対照的に,彼ら/彼女らの面目にもっぱら損傷を与える空間として思念されやすくなる.そして,その結果,外部社会へのアプローチは躊躇され,そのことがまた外部社会の一枚岩的に否定的なイメージを再生産させていることが予測される.ただし最後に,社会理論的視点からみた,相互行為儀礼の遂行能力自体の価値を確認し,本稿の含意を確認する.
著者
荻野 達史
出版者
The Japan Sociological Society
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.311-329, 2006-09-30 (Released:2010-04-23)
参考文献数
51
被引用文献数
4

「社会運動の今日的可能性」を探るために, 後期近代における「個人化」の趨勢に注意を向けた場合, 2つの問いが導かれる. (1) 個人化の状況は, 理論的にみて, いかなる社会的運動を要請しているのか (2) 経験的には, その要請に見合う運動が展開されているのか本稿はこれらの問いに答える試みである.第1の問いに対しては, 個人化に関する議論に, Honneth (1992=2003) の承認論を合わせて検討することで, Cornell (1998=2001) のいう「イマシナリーな領域」への取り組みが求められることを導き出す.すなわち, 自己アイデンティティの構築に重い負荷をかける個人化状況は, ときに著しく損壊した自己信頼の再構築と, 志向性としての「自己」を「再想像」するための時空間を創出する取り組みを要請するこの課題は, Giddens (1991=2005) のライフ・ポリティクスの議論でも十分に意識化されていないため, 本稿では “メタライフポリティクス” として定位した.第2の問いに対しては, 1980~90 年代以降に注目を集めるようになった「不登校」「ひきこもり」「ニート」といった「新たな社会問題群」に取り組んできた民間活動に照準した.とくにそれらの活動が構築してきた「居場所」の果たしている機能とそのための方法論を検討し, 理論的課題との整合性を確認した.また, 同時に運動研究史上の位置づけを明確にした
著者
荻野 達史
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

(1)日本における産業精神保健の歴史を詳細に記述し整理することができた。これは、この領域については先行研究がないため、新たな課題への研究上の基礎を築くものである。(2)この問題の中核的な社会的背景となる個人化についての研究を進めた。具体的にはU. BeckのIndividualizationの翻訳プロジェクトを立ち上げ、来春には刊行の予定である。(3)小中学校教員のメンタルヘルスに関する調査票調査を教員組合と協力して実施した。高い回収率を達成でき、分析を継続している。
著者
荻野 達史
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.311-329, 2006-09-30

「社会運動の今日的可能性」を探るために, 後期近代における「個人化」の趨勢に注意を向けた場合, 2つの問いが導かれる. (1) 個人化の状況は, 理論的にみて, いかなる社会的運動を要請しているのか (2) 経験的には, その要請に見合う運動が展開されているのか本稿はこれらの問いに答える試みである.<BR>第1の問いに対しては, 個人化に関する議論に, Honneth (1992=2003) の承認論を合わせて検討することで, Cornell (1998=2001) のいう「イマシナリーな領域」への取り組みが求められることを導き出す.すなわち, 自己アイデンティティの構築に重い負荷をかける個人化状況は, ときに著しく損壊した自己信頼の再構築と, 志向性としての「自己」を「再想像」するための時空間を創出する取り組みを要請するこの課題は, Giddens (1991=2005) のライフ・ポリティクスの議論でも十分に意識化されていないため, 本稿では "メタライフポリティクス" として定位した.<BR>第2の問いに対しては, 1980~90 年代以降に注目を集めるようになった「不登校」「ひきこもり」「ニート」といった「新たな社会問題群」に取り組んできた民間活動に照準した.とくにそれらの活動が構築してきた「居場所」の果たしている機能とそのための方法論を検討し, 理論的課題との整合性を確認した.また, 同時に運動研究史上の位置づけを明確にした