著者
河野 裕彦 木野 康志 秋山 公男 関根 勉 菅野 学
出版者
東北大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

トリチウム壊変が引き起こすDNAの鎖切断過程を探索するため,密度汎関数強束縛法に基づいた反応動力学シミュレーションを行った。反応時の電荷の変化を定量化するマリケン電荷と各原子のエネルギーの変化を定量化する原子分割エネルギーを使った。トリチウムがβ壊変後Heとして脱離すると,電荷再配置の後,実質的にトリチウムが引き抜かれたDNAは中性となって,ラジカル的な性質を持つ。この条件下では,糖の3'C あるいは5'Cにトリチウムがある場合,隣接するリン酸基のP-O結合が切断することがわかった。この反応は1本鎖切断で終わっており,修復が困難な2本鎖切断に至る可能性は極めて低いことがわかった。
著者
河野 裕彦 菱川 明栄 小関 史朗 加藤 毅 菅野 学 伏谷 瑞穂 松田 晃考
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

電子・原子核波束計算法を用いて,COやN2のレーザー場中の多電子ダイナミクスやアト秒パルスを発生する高次高調波のレーザー制御法を提案した。また,実験グループは,理論の予想通りCO2の等価な2つのC-O結合の一方だけを2色レーザーパルスの形状によって選択的に切断させることに成功し,化学反応制御の新たな可能性を示した。さらに,反応動力学計算を用いて,XFELによる多価カチオン生成とそのクーロン爆発を使った時間分解分子イメージングに対するシミュレーション法を確立して,ヨードウラシルなどに適用した。そのほか,分子ベアリングやDNA鎖切断の実時間シミュレーションを行い,それらの動力学を明らかにした。
著者
菅野 学
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

アキラル芳香族分子に円偏光レーザーパルスを照射してπ電子の芳香環に沿った回転を誘起できる。このときのπ電子の回転方向は円偏光レーザーの角運動量(偏光軸の回転方向)で一意に決定される。これに対し、採用第1,2年度目において、角運動量を持たない直線偏光レーザーパルスによってキラル芳香族分子のπ電子回転を実現できることを示した。このときのπ電子の回転方向は分子の空間的配置に対する直線偏光レーザーの偏光方向に依存して分子内座標系で決定される。π電子回転が分子の振動周期と同程度の数10fsほど持続すると、π電子回転と分子振動が互いに影響を及ぼし合う可能性がある。そこで、採用第3年度目において、直線偏光レーザーパルスと相互作用するキラル芳香族分子のモデル2,5-dichloropyrazine(DCP)を用いた非断熱核波束動力学シミュレーションを行った。DCPは厳密にはキラルでないが、π電子の感じるポテンシャルが環に沿った回転方向に依存するために直線偏光レーザーパルスによるπ電子回転制御が可能である。DCPは最適構造において点群C_<2h>に属し、光学許容擬縮退^1Bu励起状態を持つ。この^1Bu状態の線形結合がπ電子回転の近似的角運動量固有状態|+>と|->を与える。|+>または|->の一方を支配的に生成すればπ電子は芳香環を回転する。^1Bu状態を結合させる既約表現A_gの基準振動モードである環呼吸振動と環変形振動のモードを自由度とした2次元ポテンシャル曲面上の非断熱核波束動力学シミュレーションにより、分子振動の振幅がπ電子の回転方向に著しく依存することを明らかにした。また、この振幅の違いが断熱ポテンシャル曲面の間の非断熱遷移過程における核波束の干渉効果に起因することを示した。この結果から、フェムト秒スケールの分子振動を分光学的に観測することでアト秒スケールのπ電子の回転方向を特定できると期待される。