- 著者
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菊地 滋夫
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 民族學研究 (ISSN:24240508)
- 巻号頁・発行日
- vol.64, no.3, pp.273-294, 1999-12-30 (Released:2018-03-27)
- 被引用文献数
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東アフリカ海岸地方後背地における緩やかなイスラーム化は, この地域に顕著に見られる憑依霊信仰と密接に関連している。しかし, すべての精霊が, それによって憑依された者にイスラームヘの改宗を要請するというわけではない。ある一群の精霊が他と比較して格段に強力かつ危険と見なされており, これらによって憑依された人々が, 心身の病状の悪化を避けるべく, 多少なりともイスラーム的な生活を送ることを余儀なくされるのである。他方, イスラームヘの改宗者たちのなかには, 病院における病気治療の失敗や, 学校教育からの疎外といった経験に言及する人々がいる。本稿では, カウマ社会における改宗者たちへの聞き取り調査に基づいて, 改宗の意味づけに一定のパターンを認めうることを示すとともに, イスラームヘの改宗が求められる憑依霊と, 病院や学校教育からの疎外という経験が相応する歴史的関係の一端を解きほぐすべく検討を試みる。