著者
菊池 浩光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.119, pp.105-138, 2013-12-25

古来から,心的外傷になるような衝撃体験は日常生活の中にあったはずで,神代の「古事記」の中にも外傷体験と思われるエピソードが見出される。本論では,わが国で人びとが心的外傷体験をどのように受けとめて対処してきたのかについて論じる。 明治期以降,日本は急速に近代化を進め,鉱工業や土木業が隆盛になり,労働災害後の,とりわけ頭部外傷を伴うさまざまな症状への対応が求められるようになった。すでに西欧で議論されていた心的外傷概念は,「外傷性神経症Traumatische Neurose」や「災害神経症Unfallsneurose」として移入された。これらの疾患は,現在のPTSD の近似概念と考えられてきたが,ヒステリーや器質的疾患が含まれるなど多義を擁して統一見解に至らず,また,多くの医家には賠償欲求が引き起こす心因性のものとして受けとめられていた。わが国では,戦前,戦後を通して心的外傷研究には関心が寄せられず,阪神・淡路大震災(1995)の発生で初めて注目を集めるようになった。
著者
菊池 浩光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.83-111, 2012-12-26

人が衝撃的な出来事に遭遇すると心的外傷を生じることがある。心的外傷は,被害者と社会との間に理解が困難な裂け目をつくり出す。1980 年に心的外傷の特徴的な症候群がPTSD と診断されるようになり,心的外傷被害者の認知や救済に大きな役割を果たしてきた。しかし,被害者は医学的な症状だけに苦しんでいるのではなく,社会から正当に理解されず,孤独に追いやられて重い気持ちでひっそりと生きなくてはならないという生きづらさにも苦しんできたのである。 心的外傷が社会に正しく認知されないのは,外傷の伝達の困難性に由来している。それは,伝える側に「語ることの抵抗や困難」があるだけではなく,伝えられる側にも「聴くことの抵抗や困難」といった問題がある。双方の伝達困難な理由を明らかにして,改めて被害者の苦悩を考えたときに,外傷がもたらす「過去の自分との離断」と「社会との離断」という二つの離断が生きづらさの根底にあると考えられる。
著者
芦原 睦 荒木 登茂子 松野 俊夫 江花 昭一 坂野 雄二 鈴木 理俊 菊池 浩光
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.44, no.10, pp.745-753, 2004-10-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

医療における心理士の資格について議論されて久しい. 本学会においても, 1995年の第36回日本心身医学会総会(末松弘行会長)の際にワークショップ「臨床心理の現状と今後の課題」で取り上げられて以来, ほぼ毎年議論が続けられている. さらに, 2000年6月にはコメディカルスタッフ認定制度委員会が発足し, 具体的な医療心理士(仮称)制度の制定と運用に関する議論を重ねてきた. 同委員会の2001年12月までの活動報告は, 本誌42巻8号「医療における心理士の資格-現状と現実的問題点を含めて」に記載したので参考にされたい. 今回は, その後の議論を含め, 第44回日本心身医学会総会(石津宏会長)での, パネルディスカッションにおける各パネリストの発表をもとにした総説としたい. まず, 医療心理士の現状と研修という点から, 心理士と医師の各々の立場から述べた松野論文と江花論文を掲載したい.
著者
渋谷 節子 斉藤 巌 菊池 浩光 高岡 和夫
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.55-65, 2006-01-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
19

われわれは1991年以降, 末期癌告知や余命告知後に失意や無力感に陥った癌患者に対して, 心理的介入として受容的なカウンセリングとサイモントンのイメージ療法にバイオフィードバック法を併用した.これまでイメージ療法を行った36名のアンケート調査では, イメージ療法の効果について, 「心身とも楽になった」23名(63.9%), 「症状が軽減した」17名(47.2%), 「生きる希望をもった」16名(44.4%), また治療意欲では, 「期待ができるので続けたい」18名(50%), 「積極的に治療したい」18名(50%)などの結果が得られた.心理テストでは17名のうち13名(76.5%)に抑うつが認められたが, イメージ療法後ではこのうち11名(84.6%)に抑うつの改善が得られた.これらの結果から, イメージ療法は末期癌患者に対する心理的介入として有効であることが示唆された.また, これらの療法が著効し, 癌性骨髄症から回復した末期癌患者についても併せて報告する.