著者
蔵本 築 桑子 賢司 松下 哲 三船 順一郎 坂井 誠 岩崎 勤 賀来 俊 峰 雅宣 村上 元孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.267-273, 1978-05-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
16
被引用文献数
5

脳出血, 脳梗塞に伴う心電図変化の成因を検討する目的で, 発作前1カ月内及び発作後の心電図, 臨床検査成績が得られ, 剖検上確認された老年者脳出血18例, 脳梗塞29例について, 発作前後の心電図, 臨床検査成績, 血圧の変化, 剖検による冠狭窄度, 脳病変の部位, 大きさ等を対比検討した.発作前後の心電図変化は脳出血88.9%, 脳梗塞89.7%に認められST, T変化がそれぞれ61.1%, 69.0%と高頻度に見られ, 高度な虚血性変化は脳梗塞で多く見られた. 不整脈は脳出血55.6%, 脳梗塞41.4%に見られ, 発作時の心房細動出現は脳梗塞にのみ10.3%に見られた. 期外収縮は脳出血に多く上室性22.1%, 心室性11.1%, 脳梗塞ではそれぞれ10.3%, 3.4%であった.脳卒中発作前後のヘマトクリット上昇は脳梗塞で大きい傾向があり, 虚血性ST, T変化を示した群では脳出血2.44±0.57, 脳梗塞6.04±1.74の上昇を示し, 著明なヘマトクリットの上昇による冠微小循環の障害が虚血性ST, T変化を斉すことを示唆した.脳卒中発作時の収縮期血圧上昇は脳出血では52.5±8.9mmHgで心電図変化の程度に拘らず200mmHg以上の高値を示したが脳梗塞では8.7±10.4とその変動は僅かで血圧上昇が心電図変化の原因とはいえなかった.冠動脈狭窄の程度は脳出血, 脳梗塞共各心電図変化群の間に狭窄指数の差が見られず, 虚血性心電図変化が太い冠動脈の狭窄によるものではないことを示した. 一方心筋梗塞の合併は脳出血5.6%に比し脳梗塞で50.0%と有意に高頻度であった.脳病変の部位, 大きさでは外側型脳出血に虚血性ST, T変化の多い傾向が見られたが, 脳梗塞では中大脳動脈領域の梗塞に於ても心電図変化に一定の傾向はなく, 部位による特徴は認められなかった. また両群共病巣の大きさと心電図変化には一定の傾向は見られなかった.脳出血, 脳梗塞の虚血性心電図変化は病巣の部位, 大きさ, 冠硬化, 血圧上昇等とは関連が認められず, ヘマトクリット上昇による冠微小循環の障害がその一因と考えられた.
著者
坂井 誠 濱松 晶彦 久保木 謙二 蔵本 築 黒澤 晋一郎
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.447-455, 1994-06-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

心房細動による塞栓症の一次予防の観点から老年者心房細動40例 (固定性33例, 発作性7例, 平均年齢76歳, 基礎疾患: 弁膜症15例, 非弁膜症25例) を対象に経食道心エコー (TEE) 法による心房内血栓の検出と凝固線溶分子マーカーの動態, 血栓のワーファリン溶解効果について検討した. 凝固線溶分子マーカーとして以下の9項目を測定した. FDP-E, Thrombin-ATIII複合体 (TAT), Plasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1), α2PI複合体 (PIC), D-dimer, t-PA, free tPA, tPA・PAI-1複合体, Prothrombin fragment 1+2. また, 動脈硬化性疾患を有しない洞調律21例 (平均年齢75歳) を対照として同様にこれらのマーカーを測定した.TEEにて左房内血栓は心房細動例中14例, 35% (心耳内8例, 心房内6例) に認められ, 弁膜症 (57% vs 27%), 心房内モヤモヤエコー (79% vs 42%) を血栓を認めない例に比し高頻度に有した. 左房径, 左室収縮能と血栓の有無には関連がなかった. 心房内および大動脈壁在血栓 (6例) を有する例は対照群に比しFDP-E, D-dimer, PICの有意の上昇を認め, マーカー9項目中4項目以上の異常を有する頻度が高かった. マーカーからみた心房内と大動脈血栓に対する sensitivity 90%, specificity 65%, predictive accuracy 72%. 左房内に大血栓を有する6例中4例ではワーファリン投与後, 血栓の消失と凝固線溶分子マーカーの正常化を認めたが, 血栓非溶解例でも凝固線溶分子マーカーは低下した. 血栓非溶解例のワーファリン投与前のtPA, PAI-1, tPA・PAI-1複合体値は溶解例に比べ高かった.以上より, 心房内血栓例は凝固線溶分子マーカーの異常を有し, TEEによる心房内および大動脈壁在血栓の検出と凝固線溶分子マーカー測定の組合わせは心房細動例における塞栓症発現ならびに血栓のワーファリン溶解効果を早期にスクリーニングしうる可能性がある.
著者
岩崎 勤 松下 哲 折茂 肇 白木 正孝 萬木 信人 加藤 洋一 高橋 龍太郎 蔵本 築 村上 元孝 野間 昭夫 岡部 紘明
出版者
一般社団法人 日本動脈硬化学会
雑誌
動脈硬化 (ISSN:03862682)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.87-91, 1981-04-01 (Released:2011-09-21)
参考文献数
13
被引用文献数
1

Effects of γ-oryzanol on the serum HDL, LDL and total cholesterol (ch) and Triglyceride were studied in 17 cases whose age was 47 years old to 82 years old (mean age was 71.2 years old). Three hundred mg/day of γ-oryzanol was given for 4 months.Serum HDL-ch was 50.0±2.3 (m±SE) mg/dl before γ-oryzanol and 53.7mg/dl 3 months later but HDL-ch which was below 50mg/dl before treatment increased significantly (p<0.01) from 43.3mg/dl to 50.4mg/dl 2 months later. HDL-ch below 45mg/dl increased significantly (p<0.01) from 41.3mg/dl (mean) to 50.0mg/dl (mean) 2 months later. LDL-ch decreased significantly (p<0.01) from 158.8mg/dl to 134.8mg/dl after γ-oryzanol. HDL-ch×10/LDL-ch showed significant changes (p<0.01) (from 3.26 to 4.14) 2 months later. Total-ch did not change and between 203mg/dl and 208mg/dl. Triglyceride did not show significant changes.It is suggested that γ-oryzanol alters the metabolism of HDL-ch and LDL-ch and increases serum low HDL-ch.
著者
蔵本 築 松下 哲 三船 順一郎 坂井 誠 村上 元孝
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.115-120, 1977-03-30 (Released:2009-11-24)
参考文献数
12
被引用文献数
1

老年者肺炎12例に於て肺炎と同時または稍遅れて前壁中隔硬塞を思わせる心電図変化を認めた. すなわちV1-V3, V4のQSまたはrの減高, ST上昇, 冠性Tが出現し, 肺炎の軽快と共に異常Qは約一週間, 陰性Tは1カ月以内に正常化し, その後剖検し得た8例にはいずれも前壁中隔硬塞を認めなかった. 臨床所見では狭心痛はなく, 呼吸困難, 咳痰, チアノーゼ, 意識障害等が見られ, 肺炎は2葉以上にわたる広範な病巣を示し, 胸膜癒着または胸水を伴った. 検査所見ではGOTの軽度上昇を4例に認めたにすぎず, BUNの一過性上昇, CRP強陽性, PO2低下と共にヘマトクリットは全例4~9%の著明な上昇を示した.剖検し得た8例では肺気腫を6例, 気管支炎を7例に, 剖検時肺炎を6例に認めた. 陳旧性後壁硬塞及び後壁心外膜下出血を各1例に認めた. 左冠動脈前下行枝の50%以上狭窄を7例に認め, 心筋小胼胝を5例に認めた.急性心筋硬塞様心電図の発現機序として慢性肺疾患によるQRS軸の後方偏位, 肺炎に伴う急性右心負荷, hypoxia, 中等度の冠硬化などの上にヘマトクリット, 血液粘度の上昇等が加わって心筋に広範な一過性虚血性変化を来たすものと考えた.