著者
藤井 富美子
出版者
大阪市立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

トリグリセリドを主成分とする皮脂よごれの洗浄に脂質分解酵素リパーゼを応用すると, リパーゼはトリグリセリドをより極性の高いジグリセリド, モノグリセリド, および, 遊離脂肪酸に加水分解し, 界面活性剤による除去を容易にすることが明らかにされている. しかし, 一方において, リパーゼに界面活性剤が共存すると, リパーゼ活性は著しく阻害されることも知られている. そこで, 本研究ではリパーゼを実用洗浄系に応用するために, リパーゼ・界面活性剤複合系での油性よごれの洗浄に及ぼすリパーゼの洗浄効果を検討した. 得られた研究成果の概要はつぎのとおりである.各種のリパーゼ・界面活性剤複合系について, 電気伝導度, 表面張力, 可溶化, ならびに, 吸着等温線などの溶液物性を測定した結果, リパーゼは界面活性剤と結合して複合体クラスターを形成し, そのクラスターはリパーゼの加水分解作用の関与しないスクアランのような炭化水素よごれを可溶化することによって洗浄に寄与することが明らかになった. 一方, リパーゼの加水分解作用をうけるトリオレインのようなトリグリセリドよごれではリパーゼ・界面活性剤複合系において, リパーゼ活性が存在する界面活性剤の低濃度領域では, トリグリセリドはリパーゼの加水分解作用により除去される. しかし, リパーゼ活性がほとんど失なわれる界面活性剤の高濃度領域では, トリグリセリドはリパーゼ, 界面活性剤複合体クラスターベの可溶化によって除去される. ここで, トリグリセリドの洗浄ではリパーゼの加水分解作用は可溶化よりもより効果的である. したがって, リパーゼ, 界面活性剤複合系によるトリグリセリドの洗浄では, リパーゼの活性阻害作用の小さい界面活性剤を選択することが重要であり, AOS, AES系のほうが, SDS, LAS系にくらべて適しているという結論を得た.
著者
所 康子 藤井 富美子 皆川 基
出版者
一般社団法人 日本繊維製品消費科学会
雑誌
繊維製品消費科学 (ISSN:00372072)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.125-132, 1984

牛血液を用いて, 浸漬法により血液人工汚染布を作製し, 各種布に対する血液たん白質付着量および血液たん白質汚れの水に対する溶解性, およびその溶解性に及ぼす温度およびpHの影響について検討を行った.<BR>布に対する血液たん白質付着量は, 血液たん白質濃度に比例して増加し, 疎水性繊維織物に対する付着量は, 親水性繊維織物よりも多くなる.同じたん白質濃度においては, 血清たん白質付着量は全血たん白質より多くなる.<BR>布に付着した血液たん白質の水に対する溶解性は, 薄膜状に布に付着している血液たん白質は溶解しにくく, 一方, 層状に付着しているものは分散されやすい.<BR>血液たん白質汚れは絹二羽重, ナイロンモスリン, ポリエステルモスリンから溶解されやすく, 一方, 綿カナキン, アクリルモスリンから溶解されにくい.<BR>血液たん白質汚れの水に対する溶解性は, 80℃で著しく減少し, 血液たん白質の等電点のpHで, その溶解性は極小となる.
著者
樫野 悦子 藤井 富美子
出版者
The Japan Society of Home Economics
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.8, pp.533-539, 2005-08-15 (Released:2010-03-10)
参考文献数
24

3種類のシクロデキストリン(α-, β-, γ-CD)を用い, 油性物質として, コレステロール, トリオレイン, アルキル鎖長の異なる飽和脂肪酸のラウリン酸, ミリスチン酸, パルミチン酸, ステアリン酸, 及び不飽和脂肪酸のオレイン酸の7種類を用いて, CDによる油性物質の包接について検討した.CDを水に溶解し, 油性物質をエタノールに溶解した後, 両者を混合して包接し, 包接された油性物質を溶媒に溶解してTLG-FID法により, それぞれの油脂成分を定量した.α-CDは, オレイン酸を包接するがコレステロール, トリオレインを包接しなかった.β-CDは, コレステロールを包接した.γ-CDは, オレイン酸, コレステロール, トリオレインを包接した.これらの結果よりCDは油性物質を選択的に包接することがわかった.α-CDによる脂肪酸の飽和包接量及び結合定数は, 脂肪酸の鎖長の増加につれて増大し, 鎖長が長いほど安定な包接化合物となった.一方, β-CDとコレステロールの系での飽和包接量は, β-CDの水に対する溶解度が低いため少ないが, 結合定数は大きく, コレステロールはβ-CDに安定に包接された.しかし, γ-CDと油性物質の系では, γ-CDの断面積が大きすぎるため, その包接量は全体に少ないことがわかった.