著者
森田 十誉子 山崎 洋治 湯之上 志保 細久保 和美 武儀山 みさき 藤井 由希 石井 孝典 高田 康二 冨士谷 盛興 千田 彰
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.255-264, 2012-08-31 (Released:2018-03-15)
参考文献数
34

目的:集団健診における歯周病のスクリーニングには,CPIが通常用いられているが,検査に時間を要し,受診者の負担も大きいことから,簡易な検査法が求められている.本研究では,検査紙を用いた唾液検査と自覚症状を尋ねる質問紙調査との組合せによる歯周病スクリーニング法の有効性を検討した.材料および方法:対象は,某事業所の歯科健診を受診した成人のうち,本試験への参加に同意が得られた468名(平均年齢36.6歳,男性362名,女性106名)とした.唾液検査に用いた試料は,蒸留水で軽く洗口した後の吐出液とし,検査指標はヘモグロビン,タンパク質,白血球および濁度とした.ヘモグロビン,タンパク質および白血球は,検査紙を用いて専用反射率計により測定し,濁度は660nmの吸光度により求めた.質問紙調査項目としては,自覚症状(12項目),喫煙習慣および年齢とした.歯周病の臨床検査はCPI測定により行い,歯周ポケットの有無により分類し評価した.各唾液検査指標については,t検定により歯周ポケット有無との関連性を検討し,さらに,ROC曲線から感度,特異度を算出して検出感度(感度+特異度)の高い唾液検査指標を検討した.自覚症状の項目については,χ2検定により歯周ポケット有無と関連がある項目を検討した.さらに,唾液検査と質問紙調査を組合せたときの感度および特異度を算出することにより,最適な組合せを検索した.結果:1.唾液検査指標のヘモグロビン,タンパク質,白血球および濁度のいずれにも歯周ポケット有無と有意な関連性が認められ,ヘモグロビンが最も高い検出感度を示した.2.自覚症状12項目のうち,「歯をみがくと歯ぐきから血がでることがある」「歯ぐきが赤っぽい,または黒っぽい」「歯と歯の間に食べものがはさまりやすい」「ぐらぐらする歯がある」「固いものが噛みにくい」の5項目を組合せることにより高い検出感度を認めた.さらに,喫煙習慣,年齢を加えることにより検出感度は高まった.3.唾液検査と質問紙調査の組合せでは,ヘモグロビンが陽性,または,自覚症状5項目,喫煙習慣,年齢の計7項目のうち,4項目以上該当の場合に最も高い検出感度を示した.結論:検査紙を用いた唾液検査と自覚症状を尋ねる質問紙調査の組合せは,産業歯科保健活動の現場で活用できる簡易な歯周病スクリーニング法として有効であることが示唆された.
著者
藤井 由希 関根 千佳 山田 清 高田 康二 山川 悦子 内藤 真理子
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.2-10, 2010-01-30
被引用文献数
2 2

職域で年に一度行われる個別対応型口腔保健活動の長期参加集団に,口腔に関連したQOLをはじめとする参加者側からの主観的な健康評価およびそれに関係する要因について短期参加集団との比較を行い,長期参加集団の特性を調査した.それによって口腔保健活動長期参加の主観的な口腔健康評価とそれに関連すると考えられる要因について検討した.対象は近畿圏同一企業内健康保険組合に所属する30-49歳男性の長期参加者(10年以上の参加者284名)と短期参加者(0-2回参加者530名)である.口腔関連QOLはGeneral Oral Health Assessment Index(GOHAI)を用いて評価し,他に主観的な健康感(全身および口腔),気になること(自覚症状)の有無,歯科保健行動,口の健康管理や健康保持に対する自信など,関連が予想される要因を保健活動時に調査した.全体および40-49歳群でGOHAIスコアが長期参加群で有意に高く(全体長期群:中央値55.0,短期群:53.5,P<0.01),主観的口の健康感,口で気になること(自覚症状)の有無の3項目で,短期参加群に比較して長期参加群で良好な結果が得られ,主観的な口腔の健康評価が高い結果が得られた.口腔保健行動では歯間清掃用具の使用,歯科医院への定期健診以外の訪院において長期群の実施率が有意に高かった.本結果から,定期的な健診を含む職域における口腔保健活動の長期継続参加が,口の健康管理の充実を促し,受診者の主観的な口腔健康評価を向上させる可能性が示唆された.今回は断面研究であるため,今後,経年的研究で検証していく必要がある.