- 著者
-
藤井 美穂子
- 出版者
- 一般社団法人 日本助産学会
- 雑誌
- 日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
- 巻号頁・発行日
- vol.28, no.2, pp.183-195, 2014 (Released:2015-05-30)
- 参考文献数
- 22
- 被引用文献数
-
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目 的 本研究では,生殖補助医療(以下ART)によって双胎妊娠した女性が不妊治療期から出産後6か月頃までに母親となっていくプロセスを明らかにした。方 法 研究デザインは,ライフストーリー法である。研究参加者はARTによって双胎妊娠し,妊娠8か月以降に胎児に先天的な奇形や異常がない。加えて,妊娠8か月の時点で母親に合併症がなく,今後の妊娠・出産経過が順調であると推測できた妊婦4名である。データ収集は,半構成的面接と参加観察法によって行った。面接や参加観察は,①産科外来通院中,②出産後の産褥入院中,③子どもの1か月健診時頃,④子どもの3か月健診時頃⑤子どもの6か月頃の5時点で縦断的に実施した。結 果 本研究では,子どもをもつことで夫と家族になる夢を叶えたAさんのライフストーリー,子どものために強い母親になろうとするBさんのライフストーリー,子どもを失った苦しみから立ち直ろうとするCさんのライフストーリー,母親となったことをなかなか実感できないDさんのライフストーリーが記述された。考 察 本研究の参加者の全員は,妊娠期に母親となることを否認するが,出産後に妊娠期から母親の準備をしていたかのように物語を書き替えることで,妊娠期に胎児と過ごした時間を取り戻していた。また,不妊治療中に自尊心が傷つき辛かった体験を想起して現状を「良かった」と意味づけていた。研究参加者は,未解決な過去を肯定的に意味づけることで過去を受容して母親としての人生を歩もうとする物語を語った。 しかし,その裏で,出産後も拭いとることができない不妊というスティグマによる傷ついた物語が母親となる物語に影を落としていた。ART後に双胎妊娠した女性の母親となっていく物語は,不妊治療期から育児期へと続く語りによって書き直されていくが,その根底には,不妊による傷ついた物語が継続していたと考えられた。不妊治療期から育児期までの女性の体験を理解し,個々の女性の体験に即して継続的に支援する必要性が示唆された。