著者
松井 典子 真田 弘美 須釜 淳子 松尾 淳子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

リンパ節郭清術後のがん患者にしばしばみられるリンパ浮腫は,決定的な治療方法がないために,がん術後患者のQOL低下に大きく影響を与える.近年,動物を対象とした実験で,振動刺激がリンパ流の亢進やリンパ管新生に寄与するため,振動刺激がリンパ浮腫の予防や治療に適応できる可能性が示唆されたが,ヒトを対象とした検討は行われていない.そこで,本研究では,(1)リンパ浮腫専門院を受診した患者の診療録および問診表からリンパ浮腫の実態を明らかにした上で,(2)健常人を対象に振動刺激がリンパ流に与える影響の検討を実施した.研究I乳癌術後に発症するリンパ浮腫の実態調査[方法]2003年にリンパ浮腫専門院を受診した乳癌術後患者221名の診療録および問診表から,患者属性・受診前の状況・受診時の浮腫・浮腫の経過について情報を収集した.[結果]対象者を手術時期(1984年以前,1985-1999年,2000年以降)に分けて比較したところ,手術時期が早い患者ほど,重症例が多かった.重症度別に周囲径を評価したところ,一ヵ月後および三ヵ月後の治療効果に有意差はみられなかった,[考察]重症度により治療効果の差はみられるものの,その効果には手術時期による差異はみられなかった.したがって,術後年数が長いリンパ浮腫患者に対しても適切な介入が有効であることが示唆された.研究II振動刺激が健常女性のリンパ流に与える影響[方法]健常女性(38歳)を対象とした振動刺激時のリンパ流をICG皮下注射により評価する[結果]振動刺激前は健常人を対象としたものの,リンパ流の停滞が観察された,また,振動刺激後にリンパ流速が顕著に早まることが観察された.[考察]リンパ流速の評価方法について検討が必要であるものの,健常人を対象とした振動刺激はリンパ流速の改善に一定の効果があることが期待された.
著者
谷野 祐子 小野 恵美 朝比奈 七緒 大塚 志乃ぶ 森谷 美智子 藤井 美穂子 松井 典子
出版者
日本母性衛生学会
雑誌
母性衛生 = Japanese Lournal of Maternal Health (ISSN:03881512)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.90-96, 2007-04-01
参考文献数
17
被引用文献数
1

父親対象の産前産後の育児指導受講の有無が,1ヵ月後の育児参加に与える影響を明らかにするために,児の1ヵ月健康診査で来院した父親99名を対象に無記名式質問紙調査を行った。その結果64名から有効回答が得られ,産前・産後の育児指導の受講状況別に比較検討したところ,次の結果が得られた。1.産前に育児指導を受講した父親35名のうち,産後指導を受講した父親21名(60.0%)であった。また,産後指導の受講の有無にかかわらず,父親の育児態度は高かった。しかし,産後指導を受講した父親のほうが育児技術を実施していた。2.産前の育児指導を受講しなかった父親29名のうち,産後指導を受講した父親は8名(27.6%)であった。また,産後指導の受講の有無と,父親の育児態度や育児技術実施状況に関連はみられなかった。以上より,父親の育児参加を高めるためには,産後の育児指導を受講するだけでは効果が不十分であり,産前からの継続的な受講が有効であることが示唆された。
著者
杉山 智子 松井 典子 深堀 浩樹 須貝 佑一
出版者
順天堂大学
雑誌
医療看護研究 (ISSN:13498630)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-9, 2008-03

本研究は,アルツハイマー型中期認知症患者にADLケアを行うときに生じる抵抗に際した望ましい認知症ケアのあり方を検討することを目的とした。老人病院認知症病棟に入院中の自立歩行可能なアルツハイマー型中期認知症患者7名とケアスタッフ20名を対象に患者1人あたり各40時間の参加観察法を実施した。ケア開始時に抵抗がみられた場面のうちケアの完了時に患者の笑顔が伴った場面のケアを「満足できたケア」,伴わなかった場面のケアを「満足できなかったケア」,ケアが完了できなかった場面のケアを「中断したケア」とし,声かけ,ケア所要人数ならびに時間について,統計学的分析を行い,それぞれのケアの特徴を検討した。各ケアとケア所要時間との関連では,排泄,身支度,食事で「満足できたケア」は「満足できなかったケア」よりもケア達成までの時間が有意に長かった。また声かけとの関連では,「満足できたケア」の方が「満足できなかったケア」よりも,ケア中の日常会話が有意に多く観察された。ケア抵抗時におけるかかわりにおいて,時間をかけ,日常会話を取り入れてケアを行うことで患者が満足できる,すなわち望ましいケアの実現に結びつくと考えられた。