著者
多田 邦尚 藤原 宗弘 本城 凡夫
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.59, no.11, pp.945-955, 2010 (Released:2011-01-14)
参考文献数
46
被引用文献数
19 21

近年,瀬戸内海では高度経済成長期の1970年代あるいは1980年代と比較すると水質はかなり改善されてきたが,その一方では,イワシやアサリなどの漁獲量は低迷を続けている.特に,2003年以降,養殖ノリの生産量は,海水中の栄養塩濃度低下(栄養塩異変)により著しく不作が続いている.本稿では,著者らの実施してきた瀬戸内海の水質環境に関する研究について紹介するとともに,海水中の栄養塩濃度の低下に直接影響を受けるノリ養殖に注目し,瀬戸内海の近年の無機三態窒素の濃度低下やノリ不作のメカニズムについて考察した.その結果,栄養塩異変の原因として,(1)長期的に見た河川からの栄養塩負荷量の減少,(2)海水の有光層(光合成可能深度)の増加に伴う植物プランクトンの栄養塩消費量の増加,(3)成層強度低下による夏季の底層水中の栄養塩濃度の減少,及び(4)底泥からの栄養塩溶出量の低下の可能性が考えられた.
著者
松岡 聡 吉松 定昭 小野 哲 一見 和彦 藤原 宗弘 本田 恵二 多田 邦尚
出版者
日本海洋学会
雑誌
沿岸海洋研究 (ISSN:13422758)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.77-84, 2005-08-26
被引用文献数
13

2002年度冬季,香川県沿岸では例年にないノリの不作が起き,ノリの生産金額は,平年の6割にまで減少した.ノリの色落ちが認められた水域の分布を詳細に検討したところ,特に不作であった海域は小豆島の北部および南西部海域であり,この地区の生産金額は平年の3割程度であった.過去12年間における年間ノリ生産量と漁期中の積算降水量との間には,正の相関関係が認められ,陸上からの栄養塩の供給がノリ生産量に大きく影響していることが考えられた.ノリ色落ち被害が顕著であった海域を対象に海洋観測を行った結果,色落ち被害の発生直後の2003年1月では,対象海域の塩分は33psu以上と例年よりも高く,栄養塩濃度もNO_3濃度が例年と比較して,3μM未満と低かった.このことから,例年に比べて,対象海域への陸域からの栄養塩の供給が少なかったことが考えられた.一方,2003年の梅雨期の6月には,対象海域の塩分は低く,栄養塩濃度も高かった.さらに,ノリの生育がほぼ正常であった翌年の1月では,2003年1月に比べて塩分は低く,栄養塩濃度も高くなっていた.以上の結果から,2002年度にノリの色落ちは,秋期の降水量が少なかった事が主な原因と考えられ,ノリの色落ち被害が顕著であった海域のノリ生産には,岡山県側の旭川・吉井川河口域(岡山水道)からの栄養塩供給が重要な影響を及ぼしていることが考えられた.
著者
山本 昌幸 栩野 元秀 山賀 賢一 藤原 宗弘
出版者
公益社団法人日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.362-367, 2002-05-15
被引用文献数
5 5

1997年4月から1998年9月に瀬戸内海中央部において,たも網により1661塊の流れ藻をすくい,それに随伴していた幼稚魚22科34種10816尾を採集した。流れ藻1塊あたりの幼稚魚の採集尾数と採集された魚類の種数は春に増加し,6月に最高値を示し,秋冬に減少した。春の優占種はクロソイ,メバル,クジメ,夏はアミメハギ,ヨウジウオ,ウマヅラハギ,カワハギ,秋はニジギンポ,アミメハギ,ヨウジウオ,冬はクジメであった。これまでの報告と比較した結果,本海域の幼稚魚相は太平洋より日本海に類似していた。