著者
伊関 憲
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S3-1, 2017 (Released:2018-03-29)

硫化水素は自然界に広く存在する毒性ガスで、腐乱臭を呈し空気よりやや重い。火山帯や温泉で発生する他にも、下水道、ゴミ処理場、石油精製工場などでも発生する。硫化水素は人体に対して吸入濃度により様々な症状を発現する。チトクロムオキシダーゼ阻害の作用だけではなく神経毒としての作用があり、高濃度の硫化水素を吸入すると中枢神経系へ素早く移行する。特に呼吸中枢を含む、脳幹に選択的に取り込まれ、1000ppm以上を吸入した場合、意識消失、呼吸停止を来たし死亡する。 硫化水素中毒の原因は、自然災害、労働災害、自殺に分けることができる。自然災害の典型的な被害は温泉地や火山帯での事故である。火山地帯で無風、曇りなどの天候と窪地の条件により硫化水素が高濃度になり、立ち入った観光客などが被害に遭っている。温泉では2014年に北海道足寄温泉での硫化水素事故以来、環境省では入浴施設での規制を行っている。しかし、源泉では依然として高濃度の硫化水素の中で勤務が行われ、温泉管理者に対しての対策が取られていない。 労働災害ではマンホールでの硫化水素の事故が年間数例発生している。現場では高い硫化水素濃度だけではなく低酸素環境のため、死亡者が発生する。このような環境で作業する場合には酸素濃度18%以上、硫化水素濃度が10ppm以下であることが求められている。 自殺については、日本国内で2008年に硫化水素自殺が頻発した。警察庁の発表では2008年1月から11月での自殺者は1007名になったとされている。これは硫化剤の六一〇ハップ(または石灰硫黄合剤)と酸性洗剤のサンポールを混ぜて発生させている。日本では下火になったものの、この硫化水素自殺は海外に波及し、アメリカやイギリスでも同様の事例が頻発している。
著者
新藤 充
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S17-5, 2017 (Released:2018-03-29)

インドネシアでかつて生産されていた発酵食品、テンペボンクレックは時として重篤な食中毒事故を引き起こした。ボンクレキン酸(BKA)はBurkholderia Cocovenenansからその原因毒素として単離、構造決定された小分子である。BKAはミトコンドリアの膜タンパク質であるアデニンヌクレオチド輸送担体(ANT)に強く結合し、その機能を阻害することでATPの放出を抑制することが知られている。近年、BKAがミトコンドリア内膜の透過性遷移を阻害し細胞死を抑制することも報告され、バイオツールとして重要な化合物となっている。しかしバクテリアからの生産量が少なく、純粋なBKAの供給量がきわめて少ないことから、詳細な生物作用に関しては断片的な報告しかなされていない。そこで我々はBKAの効率的かつ実践的な新規合成法を検討し、3つのフラグメントを各々合成し最終段階で結合させる収束型全合成に成功した。この合成BKAを用いて細胞死抑制活性に関する細胞試験の実験系を確立し、さらにこの合成法を基盤として構造活性相関研究を行い、3つのカルボン酸が炭素鎖の適切な位置に配置されていることが生物活性発現に重要であることを明らかにした。しかしこの全合成法は効率的とはいえ30工程強を要することから、大量供給には工程数の削減が必須である。そこで化学構造の単純化を考え、半分以下の工程数で合成でき十分な活性を示す誘導体を合成することに成功した。安価で大量合成可能なANT阻害剤の開発の可能性が拓かれたと考えている。これら合成BKAを分子生物学者へ供与することにより、PPARγの選択的活性化作用やWarburg効果によるがん細胞特異的な細胞障害作用などBKAの生物活性に関する興味深い新知見も得られている。本シンポジウムでは有機合成屋がこういった毒性学に関わっている姿をご紹介したい。
著者
池中 良徳 宮原 裕一 一瀬 貴大 八木橋 美緒 中山 翔太 水川 葉月 平 久美子 有薗 幸司 高橋 圭介 加藤 恵介 遠山 千春 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-20, 2017 (Released:2018-03-29)

ネオニコチノイド系殺虫剤は、哺乳類における体内蓄積性は短く、昆虫とヒトのニコチン受容体に対する親和性の違いから、ヒトに対する毒性は相対的に低いため、一定の基準以下であれば、日常生活においてその毒性は無視できると考えられている。しかし、日本では諸外国と比べ数倍~数十倍と果物や野菜、茶葉における食品残留基準値が高く設定されていること、また、記憶・学習などの脳機能に及ぼす影響をはじめ、発達神経毒性には不明な点が多いことなどから、健康に及ぼす懸念が払拭できていない。とりわけ、感受性が高いこどもたちや化学物質に過敏な人々の健康へのリスクを評価するためには、ネオニコチノイドが体内にどの程度取り込まれているかを把握することがまず必要である。そこで本調査では、長野県上田市の松くい虫防除が行われている地域の住民のうち、感受性が高いと考えられる小児(3歳~6歳)から尿を採取し、尿中のネオニコチノイドおよびその代謝物を測定することで、曝露評価を行う事を目的とした。当該調査では、松枯れ防止事業に用いる薬剤(エコワン3フロワブル、主要成分:Thiacloprid)の散布時期の前後に、46人の幼児から提供された尿試料中のネオニコチノイドとその代謝産物を測定した。また、同時に大気サンプルもエアーサンプラーを用いて採取し、分析に供した。分析した結果、Thiaclopridは検出頻度が30%程度であり、濃度は<LOD ~ 0.13 µg/Lであった。この頻度と濃度は、Dinotefuran(頻度、48~56%;濃度、<LOD ~ 72 µg/L)やN-dm-Acetamiprid(頻度、83~94%;濃度<LOD~18.7 µg/L)など今回検出された他のネオニコチノイドに比べて低い値であった。次に、尿中濃度からThiaclopridの曝露量を推定した結果、幼児一人当たり最大で1720 ng/日(平均160 ng/日)と計算された。また、分析対象とした全ネオニコチノイドの曝露量は最大640 µg/日であり、中でもDinotefuranの曝露量は最大450 µg/dayに達した。一方、これらの曝露量はADIに比べThiaclopridで1%未満(ADI;180 µg/日)、Dinotefuranで10%程度(ADI;3300 µg/日)であった。
著者
黒田 悦史 石井 健
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.EL2, 2017 (Released:2018-03-29)

アジュバントはワクチンに添加されている免疫増強剤であり、ワクチンの種類によってはなくてはならないものです。現在日本で認可されている主なアジュバントはアルミニウム塩(アラム)であり、安全性が高いアジュバントとして多くのワクチンに添加されています。しかしながら、アラムがどのような作用機序で免疫系を活性化するのかについては不明な点が多く残されています。またアラムのみならず、多くの粒子状物質(尿酸塩結晶やシリカなど)もアジュバントとして働くことが知られていますが、その作用機序も詳細には明らかにされておりません。さらに最近話題になっているPM2.5などの大気中の微細粒子もアジュバント作用を介してアレルギー性炎症などを誘導していると考えられています。 近年の免疫学の発展により、T細胞やB細胞を主体とする獲得免疫の誘導には、マクロファージや樹状細胞を主体とする自然免疫の活性化が必須であることが明らかにされています。そのためアラムを含めた粒子状物質の多くが何らかの形で自然免疫を活性化すると考えられています。最近になり、アジュバント活性を有する粒子状物質の多くが免疫細胞の細胞死を誘導し、そこから遊離される死細胞由来因子(内因性デンジャーシグナル)が自然免疫の活性化に重要であることが報告されてきています。 このように、ある種のアジュバントはそれ自身がアジュバントとして機能するのではなく、細胞死を介して内因性のアジュバント(内因性デンジャーシグナル)を誘導する「アジュバント誘導物質」として働くと考えられます。このような観点から毒性研究は医薬品の副作用の研究だけでなく、新規アジュバントの探索/開発という点においても重要であると言えます。本教育講演では、アジュバントによる細胞死やデンジャーシグナルを介した免疫活性化のメカニズムについて私たちの研究成果を含めながら紹介したいと思います。
著者
有馬 隆博
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S23-3, 2017 (Released:2018-03-29)

近年我が国の晩婚化、少子化の社会情勢と、医療技術の進歩により、既婚者の15−20%が不妊治療を受けている。また、そのおよそ40%は、男性不妊(精子異常)で、過去10年間で患者数は約25倍に増加していることが報告されている。一方、以前よりエストロゲン様作用を有する環境由来化学物質が、ヒトの性腺(生殖細胞)に影響を及ぼし、オスのメス化、精子数減少などに影響を与え、種の存続に関わる事が社会的話題となったが、その関連性については、十分な科学的根拠がないため、未だ明らかにされていない。環境由来化学物質は、エピジェネティックな修飾により、遺伝子発現に影響を及ぼすことが知られている。エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列の変化を伴わない、遺伝子発現制御に関わる後付けの修飾である。主たる修飾として、DNAのメチル化、ヒストンのアセチル化やメチル化が知られている。このエピジェネティックな修飾は、生殖細胞形成過程では、『細胞の記憶』として遺伝子刷り込み機構(ゲノムインプリンティング)として知られている。インプリンティングとは、特定の親由来の遺伝子が選択的に発現する現象で、哺乳類の正常な発生、分化に必須な現象である。また、この機構の破綻は、先天性疾患に限らず、乳幼児の行動、性格異常、成人疾患にも影響を与える。本学会では、男性不妊症患者を対象に化学物質としてPCBに注目し、ヒト精子へどのような影響を与えているのか、精子の形態と機能の両面から解析を行い、その関連性について発表したい。
著者
植田 康次 青木 明 岡本 誉士典 神野 透人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-145, 2017 (Released:2018-03-29)

必須微量元素であるとともに毒性元素でもあるセレン(Se)の細胞毒性の一旦は活性酸素種(ROS)によるもので、こうした酸化ストレスに対し細胞は生体防御因子グルタチオン(GSH)の増産で応じる。一方、GSHによるSeの代謝過程で生成するセレンジグルタチオン(GSSeSG)には細胞障害性が知られており、GSHの代謝動態がSe毒性に及ぼす影響は単純ではない。われわれは、過剰なSeに対する生体防御反応として誘導されるGSH代謝動態の亢進がSeの細胞障害性を増強してしまう可能性を検証した。 亜セレン酸(H2SeO3)がMCF-7細胞の生育を阻害しない濃度(5 µM)において、GSSeSGはROSに起因する8-オキソデオキシグアノシンを増加させ、アポトーシスを誘導した。同濃度域ではH2SeO3はほとんど細胞内に取り込まれないにもかかわらず、GSSeSGはSeを蓄積させることがICP-MSを用いた元素分析により明らかになった。GSSeSGの取り込み経路としてシスチン輸送体であるxCTの関与を想定しxCT阻害剤スルファサラジンを前処理したところ、GSSeSGによる細胞内Se増加量が50%程度減少した。xCTに対するsiRNAを用いた発現抑制によってもGSSeSGによるSe取り込みは40%程度にまで低下した。GSHからシスチンへの分解反応を開始するγ-グルタミン酸転移酵素(γGT)の特異的阻害剤によりSe取り込みが減少した。 Seの毒性から生体を防御するために発動されたGSHの代謝動態亢進が、GSH合成の律速段階であるシステインの取り込み増加にともない、よりいっそうのSeを細胞内に蓄積させるという望ましくないフィードバックループを形成してしまう可能性が示された。GSHはSe以外にも様々な金属と相互作用することが知られており、今回明らかになった機序が各種金属の毒性増強にも加担していることが示唆される。
著者
藤野 智史 別府 匡貴 村上 聡 早川 磨紀男
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-178, 2017 (Released:2018-03-29)

<背景> 細胞の脱分化・初期化は、老化した細胞や酸化的障害をうけた細胞を“正常化”する手段として期待される。我々は以前、胆汁酸をリガンドとする核内受容体 farnesoid x receptor (FXR) が分化を制御する転写因子 hepatocyte nuclear factor-4 alpha の発現を促進することを見出した。このことはFXRの制御は細胞の脱分化や初期化につながる可能性を示しており、老化細胞、障害細胞の“正常化”の観点から、詳細な検討が必要である。<結果> ヒト近位尿細管細胞HK-2をFXRの合成リガンドGW4064で処理し、細胞初期化マーカーOct3/4の発現レベルを調べた。その結果、Oct3/4レベルはGW4064により顕著に低下した。一方、コレステロール代謝制御においてFXRと共役する核内受容体である liver x receptor の合成リガンドGW3965でHK-2細胞を処理したところ、FXR リガンド処理時と同様に Oct3/4レベルは顕著に低下した。<考察> これらのことから、FXRとLXRはヒト近位尿細管細胞HK-2 の分化に関与する可能性がある。今後、両核内受容体の活性を負に制御した際に細胞の初期化がみられるかどうか検討を行う必要がある。また、両核内受容体による分化制御機構や共役の有無についても解明が待たれる。
著者
武田 知起
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.SY2, 2017 (Released:2018-03-29)

環境化学物質が次世代の健全な発育を障害する可能性については、長年にわたり国内外で危惧されている。これらの多くは、ホルモンのアゴニストやアンタゴニスト、いわゆる内分泌撹乱作用によって毒性作用を示すと考えられてきた。しかし、ホルモン受容体への親和性は、内在性ホルモンと比べると遥かに小さい物質が殆どであるため、障害性の全てを受容体への作用のみで結論づけることは難しいと思われる。さらに、ホルモン作用の亢進や抑制がどの種の障害にどのように直結するのかは殆ど理解されていない。 ホルモンは、発達期において組織の分化や成熟を制御する生理活性物質として重要である。しかし、このような視点での発達期に着目した研究は、これまで十分に行われていなかった。演者は、発達期におけるホルモン作用の撹乱が内分泌撹乱物質による次世代影響の根底にあるとの仮説の検証を目指し、ラットを用いた解析研究を行ってきた。具体的には、代表的な内分泌撹乱物質であるダイオキシンの妊娠期曝露が胎児~新生児期の内分泌系に及ぼす影響を解析すると共に、成長後の障害との関連性を検証した。種々の解析の結果、ダイオキシンは出生前後に脳下垂体 luteinizing hormone (LH) の発現抑制によって生殖腺の性ホルモン合成を低下させること、ならびにこの一過的な影響が成長後に見られる性成熟障害の一端を担うとの新規毒性機構が実証された。本成果は、化学物質による次世代影響が胎児期の一過的影響を起点に生じることを明確に示すものであり、毒性学的研究における新たな展開として重要と考えられる。引き続き、障害の全容解明を目指し、胎児期の性ホルモン低下が神経成熟に及ぼす影響に着目した研究を実施している。 演者は最近、上記の成果を基盤とする次世代影響の in vivo 評価法への応用に向けた取り組みも展開中である。すなわち、di(2-ethylhexyl)phthalate (DEHP)、ビスフェノールA (BPA)、臭素系難燃剤および重金属等の十数種類の内分泌撹乱物質につき、妊娠ラットへの単回経口投与による胎児脳下垂体-生殖腺系への影響を調査した。その結果、DEHP、BPAおよびBPAF (フッ素化BPA) が、胎児精巣における性ホルモン合成能を低下させうることを見出した。さらに、現実の曝露に即した妊娠期飲水曝露法を用いた検討の結果、CdCl2 および Pb(OCOCH3)2 も同様に性ホルモン合成系の発現を低下させる事実が判明した。しかし、これらの化合物には、いずれも胎児期の LH発現抑制作用は見られず、多くの内分泌撹乱物質がダイオキシンと異なる機構で胎児の性ホルモン撹乱作用を発揮する可能性が浮上した。多種多様な化学物質が存在する現代社会において、各々が異なる機構で生体影響を示す事実から、複合曝露による相加・相乗的影響の問題が懸念される。本研究をさらに発展させ、内分泌撹乱物質が次世代に及ぼすホルモン撹乱作用とこれに基づく障害の実態を明らかにしていきたい。
著者
宮崎 育子 村上 真樹 菊岡 亮 磯岡 奈未 北村 佳久 浅沼 幹人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-225, 2017 (Released:2018-03-29)

農薬ロテノンやパラコートへの曝露がパーキンソン病発症率を高めることが報告され,これらの農薬はパーキンソン病発症に関与しうる環境要因として注目されている.ロテノン慢性曝露は中枢神経系,末梢消化管神経系にパーキンソン病様の病態をもたらすことから,モデル作製に用いられている.これまでに,農薬ロテノンを慢性皮下投与したパーキンソン病モデルマウスにおける中枢(黒質線条体,嗅球)・末梢(上行結腸)神経障害とアストロサイト(様細胞)活性化の部位特異性・時間依存性について報告した.今回,初代培養細胞を用いてロテノン誘発ドパミン神経障害におけるアストロサイトの関与について検討した.妊娠15日齢の胎仔中脳からの神経細胞単独培養あるいは神経細胞+アストロサイト共培養にロテノンを添加した.中脳神経細胞単独培養ではロテノン添加によるドパミン神経毒性は認められなかったが,中脳神経細胞+アストロサイト共培養ではチロシン水酸化酵素陽性ドパミン神経細胞数が有意に減少した.また,あらかじめロテノンで処置したアストロサイトの培養液を中脳神経細胞単独培養に添加したところ,ドパミン神経障害が惹起された.以上の結果より,ロテノンにより惹起される中脳ドパミン神経障害は非細胞自律性の障害であり,アストロサイトが関与することが示唆された.
著者
青木 正美 須藤 雄介 宮本 実
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-183, 2017 (Released:2018-03-29)

血中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)及びグルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GLDH)は、肝障害のバイオマーカーとして使われているが、毒性試験では肝臓に病理組織学的変化がみられなくても上昇するケースがしばしば認められ、肝臓以外の由来を考慮する必要がある。しかし、毒性試験に使用される動物種の臓器・組織におけるこれらバイオマーカーの発現分布及びその分布の動物種差に関する情報は限られている。本研究では、ラット及びサルの全身諸臓器・組織におけるALT、AST及びGLDHの分布について、各酵素の活性値及びタンパク質発現量(ALT及びASTはアイソフォームとして)を含めて多角的に解析を行った。ALTは、イヌについても諸臓器・組織におけるタンパク質発現量を調べた。その結果、ASTはラット、サルともに肝臓特異性が低く、骨格筋、心臓、舌等の多くの臓器・組織に広く分布していた。GLDHは肝臓特異性が非常に高く、肝臓が最も主要な由来臓器であると考えられた。ALTは肝臓特異性が比較的高かったものの、種間でいくつかの興味深い相違が認められ、例えばラット小腸におけるALT1タンパク質及びALT活性はサルやイヌのそれらと比較して著明に高値を示しており、血中ALT活性上昇に寄与し得ると考えられた。このことは薬剤が消化管障害を惹起する場合に、同じく障害を受けても血中ALT活性が変動する種としない種が存在する可能性を示唆しており、検査結果を評価する際にはこれらの種差に十分留意する必要があると考えられた。本研究では、各動物種における肝逸脱酵素の詳しい臓器・組織分布が明らかになったとともに、血中の変動への影響が考えられる毒性評価上も重要な種差を見出した。これらの情報は、毒性試験における血液生化学的検査データをより正確に解釈することに貢献すると期待される。
著者
松本 晴年 安藤 さえこ 深町 勝巳 二口 充 酒々井 眞澄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-75, 2017 (Released:2018-03-29)

【背景】これまでに我々は沖縄県産植物のがん細胞への細胞毒性を明らかにした(Asian Pac J Cancer Prev 6: 353-358, 2005, Eur J Cancer Prev 14: 101-105, 2005, Cancer Lett 205: 133-141, 2004)。芭蕉の葉身からの抽出物 (アセトン(A)あるいはメタノール(M)抽出)を用いてヒト大腸がん細胞株に対する細胞毒性とその機序を調べた。【方法】各抽出物をヒト大腸がん細胞株HT29およびHCT116にばく露し、コロニーあるいはMTTアッセイにて細胞毒性を検討した。細胞毒性の程度をIC50値(50%増殖抑制率)にて判定した。アポトーシスの有無と細胞周期への影響をフローサイトメトリーおよびウェスタンブロット法で検討した。【結果と考察】コロニーアッセイでのIC50値は、HT29株では118 μg/mL(A)、>200 μg/mL(M)、HCT116株では75 μg/mL(A)、141 μg/mL(M)であった。MTTアッセイでのIC50値は、HT29株では115 μg/mL(A)、280 μg/mL(M)、HCT116株では73 μg/mL(A)、248 μg/mL(M)であった。アセトン抽出物にはより強い作用を持つ有効成分が含まれると考えられた。HT29株では、アセトン抽出物(100 μg/mL)のばく露によりcontrolと比較してG1期が5.4%有意に上昇し、これに伴ってG2/M期が減少した。つまり、G1 arrestが誘導された。アポトーシスに陥った細胞集団が示すsubG1 populationは見られなかった。HT29およびHCT116株では、アセトン抽出物のばく露によりcyclinD1およびcdk4タンパク発現レベルが濃度依存的に低下した。一方、HCT116株では、p21CIP1タンパク発現レベルが濃度依存的に増加した。これらの結果より、芭蕉葉の抽出物には細胞毒性をもつ物質が含まれ、アセトン抽出物はcyclinD1およびcdk4タンパク発現を減少させ、p21CIP1タンパク発現を増加させることで細胞周期を負に制御すると考えられる。
著者
小峰 昇一 秋山 健太郎 蕨 栄治 正田 純一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-40, 2017 (Released:2018-03-29)

【目的】NAFLDの発症と進展には腸内細菌由来LPSやステロイドホルモンDHEAの産生・分泌が重要な役割を演じる.一方,運動はKCs貪食能の増大やステロイドホルモンの産生・分泌の変化を誘導しNAFLDを改善する.今回は,運動がLPSに対する生体のクリアランスと炎症応答に与える影響を検討した.また,運動によるステロイドホルモンの変動がKCsの表現形質に与える影響を検討した.【方法】In vivo実験 野生型マウス8週齢を安静群と中強度運動群(週5回を3ヶ月間, 10-18m/分, 50分/日)に分けた.運動最終日の翌日に LPS(10µg/kg BW)を尾静脈投与し,経時的に血漿LPS濃度と炎症性サイトカイン濃度 (TNF-αとIL-6)を測定した.KCsのbeads貪食能と貪食に関与する表面タンパク質(CD68, MARCO, SR-A)の発現レベルを解析した.さらに,各種ホルモン(DHEA, testosterone, corticosterone, estradiol)濃度を測定した.In vitro実験 RAW264.7に対してステロイドホルモンを添加し,beads貪食能とNfkB-p65のリン酸化に及ぼす影響を検討した.【成績】In vivo実験 血中LPS濃度のAUCは,安静群に比して運動群では有意に減少した.LPS投与後のTNF-α,IL-6濃度は,安静群に比して運動群で低値を示した.KCsの除去を施したマウスでは,運動によるこれらの効果は消失した.KCsのbeads貪食能は運動群において増加した.また,運動群においてCD68, MARCO, SR-Aの発現レベルは有意に増加した.各種ステロイドホルモンの血中濃度の変動を測定した結果,DHEAのみが運動群で増加した.In vitro実験RAW264.7にDHEA(10µg/ml)を添加すると,beads貪食能は増大し,LPS添加によるNfkB-p65のリン酸化は有意に抑制された.【結論】中強度運動の継続はDHEAの産生増加を介して,KCs貪食能の向上によるLPSクリアランスの増大と炎症応答の低下を誘導した.本効果は運動がNAFLDの病態改善に有用であることの分子メカニズムの一つであると考えられた.
著者
徳本 真紀 李 辰竜 藤原 泰之 佐藤 雅彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-50, 2017 (Released:2018-03-29)

【目的】カドミウム (Cd) は、鉄の体内動態に影響を及ぼすことが報告されているが、その機構はほとんど検討されていない。そこで本研究では、Cdを慢性曝露したマウスにおける肝臓中鉄濃度および十二指腸中の鉄輸送関連遺伝子の発現変動を検討した。【方法】5週齢の雌性C57BL/6Jマウスに300 ppmのCdを含有した餌を21ヶ月間自由摂取させた。経時的に血清、肝臓および十二指腸を採取し、各種解析に用いた。十二指腸は胃の直下2 cmとした。【結果および考察】Cd曝露によりGOT・GPT活性およびBUN値が有意に高値を示したため、肝毒性並びに腎毒性が出現していることが示された。Cd曝露群の肝臓中Cd濃度は300 µg/g以上となり、投与期間に依存して増加したが、肝臓中の鉄濃度は対照群の50%以下となり顕著な低値を示した。次に、十二指腸における鉄輸送関連遺伝子の発現レベルを測定した。非ヘム鉄 (Fe3+) は十二指腸刷子縁膜上でDuodenal cytochrome b (Dcytb) により二価に還元され、Divalent metal transporter 1 (DMT1) により小腸上皮細胞内に取り込まれる。CdはDMT1 mRNAレベルに影響を及ぼさなかったが、Dcytb mRNAレベルを曝露期間を通じて有意に減少させた。また、葉酸輸送体であるHeme carrier protein 1 (HCP1) はヘム鉄 (Fe2+) の輸送にも関与することが知られているが、HCP1 mRNAレベルはCdの曝露期間を通じて有意に低下した。以上の結果から、Cdは十二指腸における鉄吸収機構に影響を及ぼしてヘム鉄・非ヘム鉄の吸収をともに阻害し、生体内鉄蓄積量を減少させることが示唆された。
著者
山田 恭史 浅野 育子 久保田 友成 杉山 美樹
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-159, 2017 (Released:2018-03-29)

【目的】前回当学会で、3系統のモルモットのターンオーバーの違いについて報告したが、今回は別の動物種であるミニブタ及びヘアレスマウスのターンオーバーの違いについて報告する。また、ニキビの治療薬のディフェリンゲル及びダラシンTゲルを塗布し、皮膚ターンオーバーの促進作用を比較検討したので、その結果を報告する。【方法】ミニブタ及びヘアレスマウスの背部皮膚に、蛍光発色剤のダンシルクロライドを塗布し、その蛍光発色の輝度を測定した。蛍光発色が消失した時点を皮膚ターンオーバーの完了とした。また、ダンシルクロライドを塗布した他の部位にディフェリンゲル及びダラシンTゲルをそれぞれ1日1回開放塗布し、蛍光発色が消失した時点を投与終了とした。【結果】蛍光発色の消失は、ミニブタが37日、ヘアレスマウスが16日であった。ディフェリンゲル及びダラシンTゲル塗布部位ではミニブタが23または33日、ヘアレスマウスが9または12日であった。以上の結果、皮膚ターンオーバーが完了するのに必要な期間はヘアレスが非常に早く、ミニブタでは白色モルモットより長い期間を要すると考えられる。また、薬剤塗布部位では両動物種とも皮膚ターンオーバーが正常皮膚よりも早く完了したことから、ディフェリンゲル及びダラシンTゲルに皮膚ターンオーバーを促進作用が確認された。