著者
植木 努 曽田 直樹 山田 勝也 河合 克尚 藤橋 雄一郎
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第26回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.39, 2010 (Released:2010-11-02)

【目的】 これまでに体幹筋の機能に関して多くの報告がされている。腹部表在筋は体幹運動におけるトルクの発揮に関与し、深部筋は腹圧を高め脊柱の安定性に関与しているといわれている。しかし、深部筋の機能に関してはまだ不明な点が多い。そこで本研究の目的は腹筋群の筋厚と体幹筋力及び性差の関係から、腹筋群の特徴を明らかにすることである。 【方法】 対象は健常男性31名、健常女性26名の計57名とした。筋力はバイオデックス及びマイオレットを使用し、各速度30、60°/sでの体幹屈曲最大筋力を測定した。筋厚は超音波画像診断装置を用いて、背臥位にて臍両側の腹直筋と前腋窩線上における腸骨稜近位の外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋を測定し、画像解析はImageJを用いて行った。統計学的分析は、筋力と筋厚の関連性にはPearsonの相関係数、男女間の比較は筋厚及び筋力を対応のないt検定を用いて行った。また被検者には本研究の目的を十分に説明し、参加の同意を得て実施した。 【結果】 体幹屈曲筋力(kg/m)の平均は男性14.80±3.39、女性9.20±2.13、全体11.73±4.64、筋厚(cm)の平均は腹直筋男性1.46±0.30、女性1.10±0.18、全体1.30±0.32、外腹斜筋男性1.00±0.33、女性0.84±0.26、全体0.93±0.31、内腹斜筋男性1.29±0.38、女性1.01±0.30、全体1.16±0.37、腹横筋男性0.66±0.22、女性0.58±0.19、全体0.63±0.20であった。筋力と各筋の筋厚の相関は、腹直筋(r=0.48)、内腹斜筋(r=0.30)、外腹斜筋(r=0.45)は有意な正の相関を示し(p<0.05)、腹横筋は有意な相関は示さなかった。また男女間での比較では、筋力、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋においては、男性が女性に対し有意に高い値を示したが(p<0.05)、腹横筋に有意差は見られなかった。 【考察】 本研究の結果より腹横筋の筋厚は筋力や性差に影響を受けないことが示唆された。その理由として腹横筋は腹圧を高めることで腰椎の安定性に関与し、体幹屈曲作用は少なく表在筋の運動の補助的な役割であるため、筋力に反映されにくいのではないかと考えられる。
著者
曽田 直樹 堀 信宏 大場 かおり 山田 みゆき 長谷部 武久 石田 裕保 河合 克尚 藤橋 雄一郎 田島 嘉人
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第23回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O007, 2007 (Released:2007-11-02)

【目的】股関節内旋筋及び外旋筋は、股関節を回旋させる以外の機能として歩行時に同時収縮による安定性の役割や遠心性収縮による制御としての役割などがある。そのため両筋群の筋出力の優位性を把握することが必要である。股関節内外旋筋出力の優位性は、一般的に外旋筋出力の方が高いとされている。しかし、股関節伸展位(解剖学的肢位)での報告が多く、関節角度や姿勢変化に応じた筋出力の優位性についての報告はまだない。適切な評価や治療を施行するためには、異なる肢位での筋出力の優位性を把握することは重要であると考える。そこで今回、運動肢位の違いによる股関節内旋筋と外旋筋の筋出力の優位性について若干の考察を加え報告する。 【対象】対象は、下肢に既往のない健常な成人84名とした(平均年齢22.5±4.7歳、平均身長168.3±7.2_cm_、平均体重61.7±9.8_kg_)。全員には、本研究の趣旨を十分説明した上で同意を得た。 【方法】運動課題は最大等尺性股関節内旋・外旋運動とし、股関節屈曲位(椅坐位)と股関節伸展位(背臥位)での条件で筋出力の測定を行った。その際、股関節内外旋中間位・外転10°膝関節90°屈曲位とした。筋出力の測定には、バイオデックス社のシステム3を使用し、各条件でそれぞれ1回測定した。測定は3秒間行い、測定間には10秒間の休息を入れた。代償動作の防止のために、ベルトにて体幹、骨盤、大腿骨をシートに固定した。両上肢は座面両端の手すり、あるいは支柱を把持した。測定順序は、ランダムに行った。統計処理は対応のあるt検定を用い、有意水準は1%未満とした。 【結果】股関節伸展位での内旋筋出力は58.9Nm、外旋筋出力は74.8Nmであった。また股関節屈曲位での内旋筋出力は98.2Nm、外旋筋出力は80.6Nmであった。伸展位では外旋筋出力、屈曲位では内旋筋出力が有意に高い値を示した。 【考察】今回の測定では股関節屈曲位と伸展位では内外旋筋出力の優位性が逆転する結果となった。要因として肢位が異なることにより股関節内外旋に参加する筋が異なることが伺えた。一般的に股関節内旋筋の主な動筋は、小殿筋前部線維・中殿筋前部線維・大腿筋膜張筋であるが、KAPANDJIらによると梨状筋は股関節屈曲60度以下では外旋筋,60度以上では内旋筋として働くと報告している。またDelp SLらは大殿筋上部線維・中殿筋後部線維・小殿筋後部線維・梨状筋は伸展位では外旋筋として働き屈曲位では内旋筋として働くと報告している。つまりこれらの筋作用の逆転が今回の結果に大きく関わったと思われた。
著者
藤橋 雄一郎 小林 修 山下 政和 三浦 早紀 吉村 学
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】厚生労働省は2025年を目途に可能な限り住み慣れた地域で,自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう,地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)を構築するとしている。地域包括ケアシステムでは介護,医療,予防,住まい,生活支援の5つのサービスを一体的に受けられる支援体制を構築するとしており,各保健医療福祉の多職種が密に連携することが望まれている。そのためには,他の職種を理解し尊重すること,情報を的確に伝えるコミュニケーション能力が必要となる。現在の若者は,経験・特に対人関係の経験不足,対人関係能力の未成熟な学生が年々増加している等の報告がなされており,早い段階から他者とのコミュニケーションを図る必要性が求められている。前述の状況から,近年は多職間種連携教育(IPE)や多職種協働(IPW)が様々な場所で行われている。養成過程時にIPEを経験することで,他の職種に対する理解や重要性,卒業後の医療・福祉現場における他の職種へのギャップを減らすことができると考える。また,コミュニケーション能力の向上にも有効であると考える。今回,医療施設でのIPE研修会を実施し,社会的スキル及び自己効力感を測定した。その内容の報告及びアンケート調査による考察を含め報告する。【方法】IPE研修会の参加者は13名で男性6名,女性7名あった。参加者の職種内訳は医学6名,看護4名,理学療法2名,言語聴覚療法1名であった。IPE研修会は4泊5日の行程で行われた。1日目はオリエンテーションと懇親会が行われた。2日目は担当事例のカルテ閲覧,他職種からの情報収集による担当症例評価,他職種同行研修が行われた。3日目は,2日目の内容に加え,症例事例検討,地域住民宅へのホームステイを実施した。4日目は,同日夜に実施する地域住民との座談会において健康に関する講義を実施するための準備を行った。5日目は,IPEグループワークを実施し,研修会の振り返りを行い終了した。調査は初日のオリエンテーション時と最終日に自記式質問紙法を用いて実施した。自記式質問紙法には,看護領域などで用いられている「対人関係を円滑に運ぶ為に役立つスキル」Kikuchi's Scale of Social Skills:18items(Kiss-18)と個人が自己効力感をどの程度認知する傾向にあるのかを測定するGeneral Self-Efficacy Scale(GSES)を用いた。得られたデータより,Kiss-18とGSESの初日と最終日の平均値を算出した。Kiss-18とGSESのそれぞれの初日,終了日の関連性をSpearmanの順位相関係数,Wilcoxonの符号付順位検定を用い比較し,有意水準を5%未満とした。【結果】調査協力を得た13名を分析対象とした。有効回答率は100%であった。Kiss-18の平均値は初日59.8±9.7,最終日67.1±10.6(初日最大値71,初日最小値43,最終日最大値88,最終日最小値47)であった。GSESの平均値は初日7.7±2.2,最終日8.4±2.6(初日最大値12,初日最小値5,最終日最大値13,最終日最小値4)であった。Kiss-18の初日と最終日にはr=0.6 p=0.03と有意な相間が認められた。GSESの初日と最終日にはr=0.35 p=0.25と有意な相間は認めなかった。Kiss-18とGSESの初日と最終日の比較では,初日に比べ最終日において有意に高くなっていた(p<0.05)。【考察】調査より得たKiss-18とGESEの初日及び最終日の平均値を用い,Kiss-18とGSESの標準値と比較した。Kiss-18の標準値は,成人男子61.82±9.41,女子60.1±10.5,大学生男子56.4±9.64,女子58.35±9.02,である。本結果と比較し,初日は大学生男女を,最終日は成人男女を上回る結果となった。GSESの標準値は,成人9.59±3.89(男性10.12±3.78,女性9.12±3.93),学生6.58±3.37である。本結果と比較すると,成人の標準値よりは低いものの,学生の標準値を上回る結果となった。このことから,今回実施した4泊5日のIPE研修会は,参加学生の社会的スキル,自己効力感を向上させたと言える。今回の研修会では,担当事例に対しカルテ閲覧,情報収集,同行研修を行ったことで,より細かな情報が得られた。また,他職種が注意していることを同行研修において確認できたことで,初日と最終日でKiss-18,GSESのスコアが向上したと思われる。【理学療法学研究としての意義】医療機関でのIPEは,他職種とのコミュニケーションを図ることで,自らの知識不足や他職種の理解が深まり,学生の社会的スキル,自己効力感を向上させ更なる意欲の向上に繋がる。