- 著者
-
藤正 巖
- 出版者
- 一般社団法人 日本老年医学会
- 雑誌
- 日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
- 巻号頁・発行日
- vol.49, no.1, pp.14-26, 2012 (Released:2012-03-29)
- 参考文献数
- 12
目的:日本の社会の現実を眺めると,現在と未来のシステムとの間に大きな溝が見られる.その溝の一つは将来の社会構造の確定的な部分の誤認である.社会構造は,通常の人の集団とそれを取り巻く生存空間という三次元世界の上に,社会構造を意図的に変動させるための政策的な次元である時間が加わり,四次元の世界を作り出している.ここでは,そのような四次元空間を解析する手法を開発するのを目的としている.経済学的立場では,それを「構造派の経済学理論」と名付ける.方法:ここでは自己開発の社会構造推計エンジンを用い,3種の出生関数(1990年~2008年モデル,出生率1.4固定モデル,2004年~2008年モデル)を用いたモデルを作成し,日本の2100年までの社会構造を推計した.結果:日本総人口は2005年に極大値に達した後,継続的に人口減少が起こり,働き盛りの人口である25歳から54歳の人口と55歳から84歳の人口がほぼ同数で推移する.1950年ころから1970年ころにかけての20年間の経済成長は,国民所得の実質で年10%を超え,丁度それは25歳から54歳の人口が年2.5%以上も増加し続けた期間と一致している.将来の経済推計では,これから世紀末の間の90年間で,実質国民所得の推移は総人口の減少割合とほぼ一致している.しかし,一人当たりの国民所得は殆ど減少しない.考察:人口は25~54歳と55~84歳が今後同数になっているにもかかわらず,加齢はしたが,ほとんどが健康者で占められる高齢グループは労働力ではないのかという疑問がある.知識と経験を備え,多少生産性は低くなるが,総合的な生産能力のあるこの膨大な人口を,社会運営から除外しておくことはできない.ここでは社会時間設計により,生産年齢の年齢幅を十歳高齢にする提案を行った.