著者
今村 詮 藪下 聡 大作 勝 斉藤 昊 諌田 克哉
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

本研究は、昭和61年度、62年度、63年度の3段階に分けて進められた。以下に各年度毎の進展状況を示す。1.昭和61年度.この年度は、まず、繰り込み摂動法を拡張ヒュッケル法のレベルで定式化し、それに対応するプログラムを作成した。そして、ポリアセチレンの炭素の一個がチッ素原子におきかわった系(いわばソリトンの系)、ポリアセチレン系ードーパント系、ポリアセチレン鎖間相互作用系に適用した。そしてこの各々の系に対する信頼性を、通常の拡張ヒュッケル法による強い結合の近似での計算との比較によって調べ、充分に高いことをたしかめた。2.昭和62年度.前年度の満足すべき結果を基礎にして、この繰り込み攝動法を、電子間反発積分をあられに含めたAb Initio SCF法の摂動理論へ拡張し、定式化した。また、この定式化にもとづいて、高分子の摂動項をくりかえし解くAb Initio法のプログラムを作成した。このような系に対する定式化およびプログラム作成は、世界で初めてなされたことを強調したい。そして、水素分子が一次元的に配列している仮想的な高分子系に適用し、十分信頼性の高い結果を得たが、系によっては収束に問題のある場合があることがわかった。3.昭和63年度.前年度の研究の結果、収束に問題があることがわかったので、これを摂動項を部分的に変分的に取り扱う方法、および大行列式を小行列式に分割してよい零次の項を求める方法によって、うまく対応できることを示した。以上、3年間にわたって繰り込み摂動論を発展させ、体系化に成功し、信頼性が充分に高い結果を与えることがわかった。今後、これを具体的に高分子設計に用いていく予定である。
著者
藪下 聡 岩田 末廣
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

原子や分子の光イオン化過程を理解するには、通常の電子束縛状態だけでなく連続状態も定量的に記述する必要がある。この目的のために、解析的微分法で最適化した複素数軌道指数を持つスレーター型(cSTO)基底関数を数個用いることでクーロン関数を表現する計算手法を開発し、同時に最適化された軌道指数が、複素平面上で円弧上に分布するという面白い特徴を分析した。分子への応用を目的に、cSTO基底関数をN項のガウス型基底関数で展開する方法(cSTO-NG基底関数)を開発し、He原子の自動イオン化過程や水素分子の2電子励起状態自動イオン化状態の複素エネルギーの計算に応用し高精度な結果を得た。
著者
藪下 聡
出版者
日本コンピュータ化学会
雑誌
Journal of Computer Chemistry, Japan (ISSN:13471767)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.43-49, 2014-03-21 (Released:2014-03-21)
参考文献数
16
被引用文献数
2

重原子系電子状態計算手法の一つとして,1成分L-S基底を多電子配置関数として用いるスピン軌道配置間相互作用法(SOCI法)を開発・応用してきた.特に計算効率を高くするには,群論を効果的に用いることが重要である.まずU (2n)群の生成演算子の結合定数をGUGA法によるセグメント積で表現した.さらに偶数電子系に対しては,通常のMs固有関数形のスピン関数の代わりに,時間反転操作に対して不変である「実数スピン関数」を用いることにより,SO相互作用を含むハミルトニアン行列を実対称行列に変換し,さらに二重群の意味で特定の既約表現ブロックだけの計算を可能とした.奇数電子系においても,計算効率を維持したまま,直接法による大規模SOCI計算を可能とする方法を用いている.