- 著者
-
伏見 譲
- 出版者
- 埼玉大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2002
耐熱性T7RNAポリメラーゼを用いて1.4Mトレハロース存在下で50℃の等温過程でDNA/RNAを増幅する系を構築した。この系で、A, T, Gの3塩基からなるランダム領域を含み3SR増幅機構をコードしたライブラリーを初期プールとして、適応度を比増殖速度とする自然淘汰型進化リアクターを運転した。勝ち残る配列はランダム領域がAT-richとなる傾向を示す。また、以前からしばしば観測された、より速い増幅機構であるRNA-Z増幅機構をコードした突然変異体が進化してくることはなかった。また、T7プロモータの50℃の最適配列をRNA-Z法進化リアクターを用いたin vitro selectionで求めた。37℃の野生型プロモータとハミング距離2だけ離れた配列であった。in vitro virusのゲノムに載せるべき初期ランダムライブラリーは、終止コドンを含んでいてはならず、また、対象に応じてアミノ酸組成が自由に設計できることが望ましい。DNA合成機を3台並列に運転してスプリット合成するMLSDS法は配列多様性が10^<16>に達する。このライブラリーの実際の合成物を複数種いろいろな評価関数で評価しその高品質なことを確認した。また、長鎖化法を検討した。人為淘汰型や自然淘汰型の進化リアクター中で、富士山型やNKモデル型などの適応度地形を山登りするダイナミクスを理論的に研究した。突然変異率と集団サイズで決まるゆらぎの効果を「進化温度(T)」というパラメターで表す。いずれの地形でも、Tが高いときは、歩行者は適応度(W)最大を目指すのではなく、「自由適応度(G)」の最大をめざすというリャプノフ関数Gを定義できる。また、獲得したシャノンの意味の情報量(情報のextent)以外に、ΔW/Tは獲得した適応度情報量(情報のcontent)、ΔG/Tは進化の過程で獲得した生命情報の量、という解釈ができることがわかった。以上を統合して、生存アルゴリズムを自動的に創出する人工生命というべき自律的に進化するin vitro virusを実体として構築するまでには至らなかった。