著者
蒋 宏偉 佐藤 廉也 横山 智 西本 太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.324-338, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
15
被引用文献数
1

焼畑・漁労・狩猟・採集を生業としているラオス中部の少数民族マンコン集落において,雨季・乾季に分け,成人住民を中心とする生活時間配分調査を行い,主に(1)想起法によって収集した経時的な活動内容の記録,(2)GPSロガーによる生活活動空間情報の記録,および(3)身体活動に費やすエネルギーの加速度計による記録,の3つのデータを収集した.データの分析結果は,労働時間配分における成人男女の分業および男女活動範囲とその相違といった生活活動の時空間パターンを明らかにした.さらに,開発が急ピッチで進んでいるラオス中部地域に生活している焼畑農耕民の各種の生業間の時間配分のつり合いから対象地域の土地利用と生業の変化の解明に重要な手掛かりを提供した.
著者
佐藤 廉也 蒋 宏偉 西本 太 横山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.309-323, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
15
被引用文献数
2

焼畑・漁撈・家畜飼養・狩猟・採集を生業とし,自給的な食生活を維持しているラオス中部のマイノリティ(マンコン)の村において,一年を通じた食生活を把握するとともに,世帯の食料獲得戦略を考察した.データは食事日誌法によって収集し,毎食ごとの主菜・副菜メニューとともに,それらの副食の食材を誰がどこで獲得したのかを記録し,世帯の構成に注意を払いつつ分析した.結果として,子どもが10歳代の時期に世帯の生活収支(生産量から消費量を差し引いた値)もプラスに転じることが推測され,子どもの成長に応じた家計への貢献が重要な役割を果たしていることが示唆された.
著者
横山 智 高橋 眞一 丹羽 孝仁 西本 太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.291-308, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
38
被引用文献数
3

本研究は,ラオス北部の盆地に位置するラオ族が設立した2村において,人口動態と水田所有の変化を3世代にわたって明らかにした.1970年代以降,政府の政策により高地から低地への移住が進められたが,研究対象地域では新しく水田を造成する土地は限られていた.したがって,高地から移住してきた住民であるクム族の多くは,水田を得ることができず,高地に住んでいた時と同様に自給自足的な焼畑農業を継続していた.1970年代以降の水田所有の変化を追跡したところ,水田を入手する一般的な方法は,離村した住民から水田を購入することであり,多くの住民は,その機会を待ちながら,水田の購入資金を準備するために都市へ出稼ぎに行くことが常態化するようになった.このような低地の盆地農村における高地からの移住者は,水田の少ない盆地にとどまるか,都市に移住するかの選択を迫られており,また高地と都市との移住の中継点として盆地農村が機能している.
著者
丹羽 孝仁 西本 太 高橋 眞一 横山 智
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.279-290, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
27
被引用文献数
1

本研究は,ルアンパバーン県HB村の事例分析によって,ラオスの農村地域における人口動態の特徴を農村間人口移動の側面から明らかにした.その結果,農村における人口の変化には,次の3点の農村間人口移動が影響を及ぼしていることが分かった.①移住促進政策や結婚移動などの農村間移動を背景とする社会増減と移動後の自然増減の双方が大きく影響している.②農村間移動において移住先での生計の可能性を最大化できるように,新たな農地の獲得可能性や,従前の居住地にある農地へのアクセシビリティ,血縁・地縁のネットワークの有無が検討されている.③農村間移動が活発な背景には,移動前後で農業を主体とする生業に大きな変化がなく,生計を維持できる可能性が高いことがあげられる.ただし,利用可能な低地水田は限られており,米を十分に獲得することが難しい場合には,出稼ぎによる現金獲得が目指されている.
著者
高橋 眞一 横山 智 西本 太 丹羽 孝仁
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.264-278, 2023 (Released:2023-08-18)
参考文献数
26
被引用文献数
1

ラオス中部に位置する天水田稲作農村において,年率2%を超える長期の人口増加と村びとの生業の対応との関連を世代別に明らかにした.1920年代後半に開村した村の第1世代から第4世代まで,生業の要である水田取得が人口増加とともに開田から,相続,そして購入へと変化した.人口増加による土地の余力がなくなってきた第3世代から他の農村への移動が増加した.さらに人口増加が続いた第4世代になってタイへの出稼ぎ専業層の出現によって,人口増加による水田の不足は軽減された.この村における人口増加への対応は,農業生産性の向上,都市への移動ではなく,ラオス中部の水田拡大を背景とした農村間人口移動の加速とタイ出稼ぎの増加であった.そして近年の家族計画普及による人口増加の終焉は,この地域の農村の生業の方向を変えていくであろう.

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著者
西本 太
出版者
日本文化人類学会
雑誌
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 日本文化人類学会第45回研究大会 (ISSN:21897964)
巻号頁・発行日
pp.30, 2011 (Released:2011-05-20)

ラオスの山地民カントゥは、精霊など不可視の存在への供物としてスイギュウを差し出す場合、いたぶりながら殺す。これは他の動物の殺害では見られない特徴である。本発表では、スイギュウをいたぶることが、スイギュウに仮象された闘争状態を再現する契機になっていて、その闘争によって人間とスイギュウと不可視の存在の境界が揺らぐことを指摘する。