著者
角田 明良
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.14-21, 2023 (Released:2022-12-27)
参考文献数
12

目的:温水洗浄便座(BT)による洗浄と便失禁(FI)の関係をみる.方法:FI 85例でBTの洗浄方法をLikert scaleで評価した.患者は再診まで洗浄の中止を指導した.FIはFI Severity Index(FISI)で評価し,follow-upのFISI scoreがbaselineの1/2以下で実質的改善(SI)とした.結果:再診例は81例(95%)で,洗浄中止期間は4週(2-20週)であった.FISI scoreはbaselineよりfollow-upで減少し[18(8-49)vs. 12(0-43);p<0.0001],SIは46%(37/81)であった.follow-upでは38%(31/81)でFIが消失した.FIのSIは随意収縮圧と,baselineのFISI scoreは洗浄の頻度と相関した.結論:BTによる洗浄はFIの要因であることが示唆された.
著者
山名 哲郎 高尾 良彦 吉岡 和彦 味村 俊樹 角田 明良 勝野 秀稔 前田 耕太郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.371-379, 2014 (Released:2014-05-31)
参考文献数
40
被引用文献数
6 2

【はじめに】便失禁はQOLに大きな影響を及ぼす排便障害の一つであるが,これまで有効な治療法が確立されていないのが現状である.仙骨神経刺激療法は便失禁に対する有効性が認められ,欧州では1994年から,米国でも2011年に承認され使用されている.本邦でも本治療法の導入が望まれ,このたび承認申請にむけた前向き多施設共同研究を行ったのでその結果を報告する.【方法】便失禁の頻度が週2回を超える患者を仙骨神経刺激療法の適応とし,各施設の治験審査委員会の承認を得た上で,インフォームドコンセントのもとに治験を行った.最初に仙骨神経刺激用のリード埋め込みを行い,体外式刺激装置による2週間の試験刺激で50%以上の症状改善を認めた症例に,体内埋め込み型刺激装置(InterStim II,米国Medtronic社)を留置した.便失禁の症状は患者自身による排便日誌をもとに評価した.肛門内圧検査は術前および術後1ヵ月,3ヵ月,6ヵ月の時点で施行した.術前と比較して便失禁回数/週が50%以上減少した場合に治療有効と判定した.【結果】2011年1月から11月の間に治験に参加した22人の患者にリード埋め込み術を施行した.便失禁の原因は不明(特発性)10例,直腸術後8例,分娩外傷2例,その他2例であった.試験刺激による症状改善が50%未満であった直腸癌術後の1例はリードを抜去,症状改善が50%以上であった21例(男性9例,女性12例,平均年齢66.6歳)に刺激装置の埋め込みを行った.術後6ヵ月のフォローアップの時点で85.7%の症例が治療有効と判定された.平均便失禁回数/週は術前が14.9回,術後6ヵ月が3.1回と有意に減少した(p=0.0135).肛門内圧検査では術前の肛門管最大静止圧の平均値が28.4mmHg,術後6ヵ月の平均値が39.1mmHgと有意に上昇した(p=0.0026).リード埋め込みおよび刺激装置埋め込みによる重篤な合併症は認められなかった.【結語】便失禁に対する仙骨神経刺激療法は安全で有効な治療法である.
著者
平井 菜穂 角田 明良
出版者
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会
雑誌
日本ストーマ・排泄リハビリテーション学会誌 (ISSN:18820115)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.106-113, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
15

【目的】骨盤底筋協調運動障害を呈する便排出障害(骨盤底筋協協調運動障害)に対する肛門筋電計を使用したバイオフィードバック療法(Biofeedback Treatment,BFT)の介入効果を検証する。 【方法】対象は2016年7月~2019年5月に骨盤底筋協調運動障害と診断されBFTを行った患者。BFT施行回数は原則1ヵ月に1回計5回行った。治療効果の評価には、Constipation Scoring System(0-30)(CSS) スコア、Obstructed Defecation Syndrome (ODS) スコア、Patient Assessment ofConstipation Quality of Life(PAC-QOL)調査票を使用した。 【結果】対象者14例の年齢は73歳(58-85歳)で、男性が12例、女性2例であった。脱落例1例を除き13例で効果の検討を行った。CSSスコアはBFT前14(4-18)からBFT後8(3-15)と有意に改善し(p=0.007)、ODSスコアはBFT前16 (7-21)からBFT後7 (0-17)と有意に改善した(p=0.002)。PAC-QOLのOverallはBFT前1.9(1.0-3.6)からBFT後0.8(0.2-2.5)と有意に改善した(p=0.002)。 【結論】骨盤底筋協調運動障害患者を呈する便排出障害には、肛門筋電計を用いたバイオフィードバック療法が、便秘症状ならびに生活の質を有意に改善するため有用である。
著者
張 仁俊 澁澤 三喜 角田 明良 神山 剛一 高田 学 横山 登 吉沢 太人 保田 尚邦 中尾 健太郎 草野 満夫 田中 弦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.254-259, 1997 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

クローン病による消化管膀胱瘻は比較的まれで本邦では62例の報告がある.今回,著者らは教室においてクローン病による消化管膀胱瘻を2例経験したので報告する.症例1は32歳,男性.腹痛,発熱,混濁尿のため慢性膀胱炎として治療を受けていたが,糞尿が出現したため入院となった.小腸造影,注腸造影にて直腸S状結腸瘻,回腸直腸瘻がみられた.膀胱造影にて造影剤の漏出を認め,腸管膀胱瘻が強く疑われた.症例2はクローン病のためsalazosulfa-pyridineの内服治療を受けている28歳の男性.血尿,気尿,発熱を主訴に入院.膀胱造影にて直腸が造影され,クローン病による直腸膀胱瘻と診断した.いずれの症例も中心静脈栄養や成分栄養剤,prednisolonの投与等の内科的治療が奏効せず腸管切除と瘻孔部を含めた膀胱部分切除術を施行した.
著者
味村 俊樹 山名 哲郎 高尾 良彦 積 美保子 遠藤 智美 勝野 秀稔 松岡 弘芳 大毛 宏喜 角田 明良 吉岡 和彦 貞廣 荘太郎 前田 耕太郎
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.109-117, 2012 (Released:2012-03-27)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

目的:多施設共同による本邦における便失禁診療実態調査に伴って,仙骨神経刺激療法(sacral nerve stimulation,以下SNS)の適応に関して検討した.方法:2009年の1年間に便失禁を主訴に9施設を初診した患者を対象に, SNSの適応に関して調査した.結果:対象症例は293例で,女性214例,初診時平均年齢65歳であった.266例(91%)に何らかの治療が行われ,症状改善率44~93%と,ある程度良好な成績をおさめていた.しかしそれでもSNSの適応に関して,「良い適応」8例,「適応になるかも知れない」73例と合計81例(28%)に,更なる治療としてSNSの適応ありとされていた.適応ありとした理由は,「現在の治療法では症状の改善が不十分だから」が47%,「SNSの効果に期待するから」が38%であった.結語:多くの症例に検査や治療が行われていたが,症状改善が不十分でSNSの効果に期待する症例が28%いた.今後,本邦へのSNSの導入・普及によって便失禁治療の選択肢が拡がることを期待する.
著者
角田 明良 安井 昭 西田 佳昭 熊谷 一秀 渡辺 敢仁 増尾 光樹
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.14-18, 1988

過去4年6カ月間に当施設において,大腸多発癌症例を5例経験したので,臨床病理学的に検討し,文献的考察を加えた.<BR>癌巣数は,癌巣を2個有するものは2例,3個以上有するものが3例に認められ,占居部位は大腸全域に分布していた.全例に腺腫性ポリープの合併を認め,全ポリープ数13個のうち6個に癌巣の併存を認めた.壁深達度は第1癌はpm以上の進行癌であり,第3癌以後は早期癌の頻度が高く,とくにm癌が多かった,他臓器重複癌の合併は2例にみられ,重複癌臓器は共に胃癌である.同・異時性大腸多発癌例には癌家族歴が認められた.<BR>大腸多発癌は,進行癌の口側に存在する早期癌の場合,術前検査での診断は困難となるため,手術に際しての術中内視鏡が有用であり,ポリペクトミーによる迅速診断が術式の決定に有効であった.
著者
角田 明良 渋沢 三喜 草野 満夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.8, pp.1457-1460, 2002-08-01
被引用文献数
3

1996年10月から2001年4月までに,著者自身が主治医となった癌患者235人のうち癌告知を行ったのは221人(94%)で,この間に癌病死した患者は45人である.これらを対象として,計画的なinformed consent(IC)と緩和ケアが未確立であった前期と確立した後期に分けて,患者が死を迎えた場所を調査した.前後期に亡くなった患者はおのおの10人,35人であった.死を迎えた場所は,前期では大学病院8人,緩和ケア施設と他院がおのおの1人であったのに対し,後期では大学病院のほかに緩和ケア施設16人,自宅6人,癌専門病院4人と多様であり,その分布は前後期で有意の差が認められた(p=0.019).大学病院の比率をみると前期80%(8/10),後期21%(8/35)で後期は前期より有意に低頻度であった.これは計画的なICと緩和ケアの確立によって,多くの患者が死を迎える場所を自己決定したためと考えられた.