著者
村井 紀元 村上 雅彦 東 弘志 加藤 博久 草野 満夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.103-107, 2009-02-28 (Released:2011-05-12)
参考文献数
14

房総半島沿岸地域において,一般に食される,カタクチイワシにより急性腹症をきたした3例を経験した.主訴はいずれも腹痛,嘔気,嘔吐であり,食後3~5時間で発症した.腹部所見では,腹部全体におよぶ強い圧痛を認め,腹部単純X線写真ではいずれも小腸ガス像を認めた.血液検査所見では,いずれも白血球数の増加を認めたが,発熱はみられなかった.また,腹部エコー・上部消化管内視鏡検査では特に異常所見はみられなかった.全例ともに絶飲食による保存療法により,1~3日以内に症状は消失した.魚類摂食後の腹痛の原因としては,寄生虫によるもの,食中毒によるものなどが挙げられるが,今回の症例ではアニサキス症などは否定され,便培養の結果で有意な所見なく,発症までの時間的経過や,大量摂取という状況より,ヒスタミン中毒によるものと推察された.ヒスタミン中毒とは,ヒスタミンの蓄積した赤身魚を摂食後,数分から数時間以内に様々なアレルギー様疾患を起こす病態のことをいう.マグロやサバ,イワシなどが主な原因食として挙げられ,カタクチイワシもヒスタミン中毒魚の一種である.ヒスタミン中毒による症状は,比較的軽度とされており,その診断には問診が重要ともいわれている.今回のように腹部所見の強い症例では,緊急手術の要否の判断に難渋する可能性もあり,急性腹症の患者の診察においては,ヒスタミン中毒も念頭において,問診,診断,治療にあたる必要があると思われた.
著者
加藤 博久 村上 雅彦 新井 一成 草野 満夫
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会 関東支部
雑誌
消化器内視鏡の進歩:Progress of Digestive Endoscopy (ISSN:03899403)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.156-157, 1996-06-07 (Released:2015-03-20)
参考文献数
4
被引用文献数
1 1

It has been reported that one of the effects of proton pump inhibitor (PPI) is inhibition from exocrine pancreas. We treated two cases of reflex esophagitis due to total gastrectomy with PPI and they were cured soon. Case 1 : A 71-year-old man was operated upon total gastrectomy (6-interposition) for early gastric cancer. He had felt aphagia and heart burn from ten days after operation. We had been following up him for three years with camostat mesilate, but his symptoms had been unchanged and the endoscopy had revealed esophagitis which was Savary-Miller (SM) stage III. Case 2 : Total gastrectomy (Roux-Y) for early gastric cancer was carried out to a woman who was 53 years old. Her symptoms were nausea and heart burn from eight days after operation. She had never been treating by any medicines. Four months after operation, her symptoms had been stronger and endoscopic findings was esophagitis of SM stage III. In both cases, their symptoms were got under control soon and esophagitises were changed to SM stage I-II with single medication of PPI for several weeks.
著者
小野 博美 草野 満夫 二瓶 壮史 林 秀幸 福島 拓 川上 雅人 檀上 泰 長島 君元 清水 勇一 川俣 太 本多 昌平 嶋村 剛 西原 広史
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.115, no.4, pp.385-393, 2018-04-10 (Released:2018-04-10)
参考文献数
19

胃癌の内視鏡的marking法として,リポ蛋白と結合すると蛍光を発する性質を利用したindocyanine green(ICG)蛍光法が有用であるか検討した.手術3日前に内視鏡的に胃癌の周囲にICG溶液を粘膜下層に注入し,開腹時にphotodynamic eye(PDE)カメラで,腹腔鏡下手術では蛍光内視鏡で観察した.さらに術後切除標本を利用して蛍光輝度,蛍光の拡がりを観察した.早期胃癌8例,進行胃癌6例を対象とした結果,全例において術中切除範囲の決定に同法が有用であった.今後ICGの注入量,タイミングの技術的な面での検討が必要と考えられた.
著者
張 仁俊 澁澤 三喜 角田 明良 神山 剛一 高田 学 横山 登 吉沢 太人 保田 尚邦 中尾 健太郎 草野 満夫 田中 弦
出版者
日本大腸肛門病学会
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.254-259, 1997 (Released:2009-06-05)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

クローン病による消化管膀胱瘻は比較的まれで本邦では62例の報告がある.今回,著者らは教室においてクローン病による消化管膀胱瘻を2例経験したので報告する.症例1は32歳,男性.腹痛,発熱,混濁尿のため慢性膀胱炎として治療を受けていたが,糞尿が出現したため入院となった.小腸造影,注腸造影にて直腸S状結腸瘻,回腸直腸瘻がみられた.膀胱造影にて造影剤の漏出を認め,腸管膀胱瘻が強く疑われた.症例2はクローン病のためsalazosulfa-pyridineの内服治療を受けている28歳の男性.血尿,気尿,発熱を主訴に入院.膀胱造影にて直腸が造影され,クローン病による直腸膀胱瘻と診断した.いずれの症例も中心静脈栄養や成分栄養剤,prednisolonの投与等の内科的治療が奏効せず腸管切除と瘻孔部を含めた膀胱部分切除術を施行した.
著者
成田 和広 鈴木 和雄 李 雨元 相田 貞継 普光江 嘉広 村上 雅彦 草野 満夫
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.112-115, 1996-02-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
9

症例は68歳, 男性, 上腹部痛による急性腹症にて入院.上部消化管内視鏡検査にて, 胃体部から前庭部に浅いびらんが多発しており, 急性胃粘膜病変と診断された.絶飲食のもと, ファモチジン20mgを12時間毎に投与開始したところ, 翌日より幻覚, 見当識障害, 夜間徘徊等の異常行動出現した.精神障害症状が持続するため4日目にファモチジンを中止したところ, 24時間以内に速やかに同症状が消失した, H2受容体拮抗剤の副作用に, 可逆性の錯乱状態があるが報告例は少ない.本剤の使用頻度は増加傾向にあり, 日常容易に処方され, その副作用は忘れがちである.状況によっては本例のような副作用の出現もあり, 注意深い使用が必要と思われた.
著者
角田 明良 渋沢 三喜 草野 満夫
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.35, no.8, pp.1457-1460, 2002-08-01
被引用文献数
3

1996年10月から2001年4月までに,著者自身が主治医となった癌患者235人のうち癌告知を行ったのは221人(94%)で,この間に癌病死した患者は45人である.これらを対象として,計画的なinformed consent(IC)と緩和ケアが未確立であった前期と確立した後期に分けて,患者が死を迎えた場所を調査した.前後期に亡くなった患者はおのおの10人,35人であった.死を迎えた場所は,前期では大学病院8人,緩和ケア施設と他院がおのおの1人であったのに対し,後期では大学病院のほかに緩和ケア施設16人,自宅6人,癌専門病院4人と多様であり,その分布は前後期で有意の差が認められた(p=0.019).大学病院の比率をみると前期80%(8/10),後期21%(8/35)で後期は前期より有意に低頻度であった.これは計画的なICと緩和ケアの確立によって,多くの患者が死を迎える場所を自己決定したためと考えられた.