著者
青山 夕貴子 吉村 正志 小笠原 昌子 諏訪部 真友子 エコノモ P. エヴァン
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-14, 2020 (Released:2020-05-21)
参考文献数
36

ハワイにヒアリSolenopsis invictaが侵入・定着した場合の経済的損失額を推定した既存文献をもとに、沖縄県にヒアリが侵入・蔓延した場合の経済的損失額を推定した。試算は、行政による根絶や分布拡大防止のための積極的な対策が行われず、ヒアリは沖縄県の生息可能な地域全域に拡大したと仮定して行った。その結果、市民生活や農業、インフラ整備、ゴルフ・リゾート等の娯楽に係る損害と、行政による最小限の対策費用を足し合わせた直接的な経済的損失は、約192億4,800万円と算出された。またヒアリによって阻害される、地域住民および旅行者による野外活動の経済的価値は、約246億1,000万円と算出された。合計で、年間の損失額は約438億5,800万円と推定された。本試算結果は、ヒアリ対策の必要性や予算を検討するにあたって、その経済的インパクトを評価する重要性を示すものである。ただし、日米間の社会構造の違いなどのため評価しきれなかった部分も多く、日本におけるより正確な被害額の推定のためにはさらなる精査が必要である。
著者
菊地 友則 諏訪部 真友子 辻 和希
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.59-73, 2009-08-31 (Released:2017-07-20)
参考文献数
54

本稿では琉球列島産アリ4種の生態について概説した.ツヤオオハリアリの巣仲間認識行動は,非巣仲間ワーカーに比べ女王に対してより攻撃的になるカースト依存的な発現パターンを示した.これは,産卵能力に関係した女王とワーカー間の受け入れコストの違いによるものと推測された.また,女王とワーカーの形態比較から,ワーカーは女王に比べ相対的に大きな頭部をもつことが明らかになった.ワーカーの形態は,繁殖に係わる個体選択と生産性などに関係したコロニーレベルの選択のバランスによって影響をうけることから,ワーカーの卵巣が完全に退化しもはや個体選択がかからないッヤオオハリアリでは,コロニーレベルの選択によってワーカーの形態が特殊化したと考えられた.二次的に消失した女王カーストの代わりに,受精したワーカー(ガマゲイト)が産卵者として存在するトゲオオハリアリでは,ガマゲイト存在情報は直接接触によってのみワーカーへと伝達される.このような情報伝達システム下で,伝達効率がコロニーサイズとともにどのように変化するのか明らかにするために,ガマゲイトとワーカーの接触確率とコロニーサイズの関係を調査した.その結果,コロニーサイズが大きくなるほどガマゲイトとワーカーの接触確率が低下することが明らかになった.このことは,接触確率が低下する大きなコロニーでは,ガマゲイトが存在しているにもかかわらず,ワーカーは誤ってガマゲイト不在と認識している可能性を示唆している.琉球列島には,ツヤオオズアリとアシナガキアリの2種の侵略的外来アリが侵入,定着している.この2種の外来アリと在来アリの季節的活動性を調査したところ,外来アリは秋から冬にかけて,逆に在来アリでは春から夏にかけて活動性が高くなる傾向が見られた.この様な活動性の違いが,琉球列島において外来アリが在来アリを駆逐し優占化しない理由の一つと考えられた.
著者
吉村 正志 諏訪部 真友子 池田 貴子 小笠原 昌子 ECONOMO Evan
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.39-56, 2020-03

市民のヒアリ監視活動への参画,および外来種リテラシーの向上を目指した体験型ワークショップ(以下,WS)を開発した.ヒアリの日本国土への定着を阻止するためには,専門家だけでなく市民ひとりひとりがヒアリ監視のスキルと意識を持つことが,きわめて有効なリスク対策となる.本WS は,外来種問題という社会が抱える喫緊課題に対する問題解決の手段としての側面と,市民が身近な自然の生物多様性を学ぶ環境学習の側面を併せ持つ.そのため,ヒアリや外来種に対する危機意識の醸成だけではなく,生き物への純粋な興味や知識欲をくすぐるエンターテイメント性を意識してプログラムをデザインした.加えて,生物を扱うWS で最も講師のスキルと経験が求められるパートである野外観察・採集と顕微鏡観察を省略するために,アリ類の精密拡大模型を作成した.これにより,専門性を担保しつつも,専門家でなくとも実施可能な比較的手軽で汎用性の高いWSとなった.WS のコンパクト化を実現したことで,危機管理WS の命題である実施範囲の拡大へとつながった.ヒアリ対策のニーズの高い沖縄県において継続的にWS を実践し,改良を重ねて本WS が完成した.WS の前後でとった参加者へのアンケート調査結果から,本WS の最適な実施対象は小学校中学年であること,参加者の「ヒアリ」のキーワード認識率はWS 前から高い水準にあること,そしてWS 参加によって「ヒアリ」および「外来種」のキーワード認識率が上昇することが明らかになった.
著者
菊地 友則 諏訪部 真友子 辻 和希
出版者
日本土壌動物学会
雑誌
Edaphologia (ISSN:03891445)
巻号頁・発行日
vol.85, pp.59-73, 2009
参考文献数
54

本稿では琉球列島産アリ4種の生態について概説した.ツヤオオハリアリの巣仲間認識行動は,非巣仲間ワーカーに比べ女王に対してより攻撃的になるカースト依存的な発現パターンを示した.これは,産卵能力に関係した女王とワーカー間の受け入れコストの違いによるものと推測された.また,女王とワーカーの形態比較から,ワーカーは女王に比べ相対的に大きな頭部をもつことが明らかになった.ワーカーの形態は,繁殖に係わる個体選択と生産性などに関係したコロニーレベルの選択のバランスによって影響をうけることから,ワーカーの卵巣が完全に退化しもはや個体選択がかからないッヤオオハリアリでは,コロニーレベルの選択によってワーカーの形態が特殊化したと考えられた.二次的に消失した女王カーストの代わりに,受精したワーカー(ガマゲイト)が産卵者として存在するトゲオオハリアリでは,ガマゲイト存在情報は直接接触によってのみワーカーへと伝達される.このような情報伝達システム下で,伝達効率がコロニーサイズとともにどのように変化するのか明らかにするために,ガマゲイトとワーカーの接触確率とコロニーサイズの関係を調査した.その結果,コロニーサイズが大きくなるほどガマゲイトとワーカーの接触確率が低下することが明らかになった.このことは,接触確率が低下する大きなコロニーでは,ガマゲイトが存在しているにもかかわらず,ワーカーは誤ってガマゲイト不在と認識している可能性を示唆している.琉球列島には,ツヤオオズアリとアシナガキアリの2種の侵略的外来アリが侵入,定着している.この2種の外来アリと在来アリの季節的活動性を調査したところ,外来アリは秋から冬にかけて,逆に在来アリでは春から夏にかけて活動性が高くなる傾向が見られた.この様な活動性の違いが,琉球列島において外来アリが在来アリを駆逐し優占化しない理由の一つと考えられた.