著者
青山 夕貴子 吉村 正志 小笠原 昌子 諏訪部 真友子 エコノモ P. エヴァン
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.3-14, 2020 (Released:2020-05-21)
参考文献数
36

ハワイにヒアリSolenopsis invictaが侵入・定着した場合の経済的損失額を推定した既存文献をもとに、沖縄県にヒアリが侵入・蔓延した場合の経済的損失額を推定した。試算は、行政による根絶や分布拡大防止のための積極的な対策が行われず、ヒアリは沖縄県の生息可能な地域全域に拡大したと仮定して行った。その結果、市民生活や農業、インフラ整備、ゴルフ・リゾート等の娯楽に係る損害と、行政による最小限の対策費用を足し合わせた直接的な経済的損失は、約192億4,800万円と算出された。またヒアリによって阻害される、地域住民および旅行者による野外活動の経済的価値は、約246億1,000万円と算出された。合計で、年間の損失額は約438億5,800万円と推定された。本試算結果は、ヒアリ対策の必要性や予算を検討するにあたって、その経済的インパクトを評価する重要性を示すものである。ただし、日米間の社会構造の違いなどのため評価しきれなかった部分も多く、日本におけるより正確な被害額の推定のためにはさらなる精査が必要である。
著者
吉村 正志 諏訪部 真友子 池田 貴子 小笠原 昌子 ECONOMO Evan
出版者
北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)
雑誌
科学技術コミュニケーション (ISSN:18818390)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.39-56, 2020-03

市民のヒアリ監視活動への参画,および外来種リテラシーの向上を目指した体験型ワークショップ(以下,WS)を開発した.ヒアリの日本国土への定着を阻止するためには,専門家だけでなく市民ひとりひとりがヒアリ監視のスキルと意識を持つことが,きわめて有効なリスク対策となる.本WS は,外来種問題という社会が抱える喫緊課題に対する問題解決の手段としての側面と,市民が身近な自然の生物多様性を学ぶ環境学習の側面を併せ持つ.そのため,ヒアリや外来種に対する危機意識の醸成だけではなく,生き物への純粋な興味や知識欲をくすぐるエンターテイメント性を意識してプログラムをデザインした.加えて,生物を扱うWS で最も講師のスキルと経験が求められるパートである野外観察・採集と顕微鏡観察を省略するために,アリ類の精密拡大模型を作成した.これにより,専門性を担保しつつも,専門家でなくとも実施可能な比較的手軽で汎用性の高いWSとなった.WS のコンパクト化を実現したことで,危機管理WS の命題である実施範囲の拡大へとつながった.ヒアリ対策のニーズの高い沖縄県において継続的にWS を実践し,改良を重ねて本WS が完成した.WS の前後でとった参加者へのアンケート調査結果から,本WS の最適な実施対象は小学校中学年であること,参加者の「ヒアリ」のキーワード認識率はWS 前から高い水準にあること,そしてWS 参加によって「ヒアリ」および「外来種」のキーワード認識率が上昇することが明らかになった.
著者
吉村 正志
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

本年度は3年計画の最終年度であった。3年間で国内所蔵の東南アジア雄アリコレクションの概要がほぼ明らかになったと言えるだろう。だが、同時に、さらなるインベントリー情報の整備が検索システム構築には不可欠な要素であることも明らかになった。東南アジアにおける雄アリ検索システムの完成には到らなかったものの、その基礎となる知見や環境整備は3年間で大きく前進したといえる。今年度はこうした研究成果を英・和文の論文5編、著作1編、雑誌記事1編、国際学会発表1編、国内学会発表3編として公表した。昨年より本格的にカリフォルニア科学アカデミーとの共同研究を行ない、インベントリー情報が整備されたマダガスカル地域の雄アリ検索システムを構築し、このうちハリアリ亜科については発表に至った。さらにカギバラアリ亜科の研究を進めており、亜科内の翅脈の比較形態について国際学会で発表した。また、日本産アリ類の分類学的な研究を進め、アギトアリ属とウロコアリ属について発表した。また、屋久島調査の過程でハリアリ属に新知見が見出されたため、屋久島の調査報告とともに発表した。今年度は分類学的な研究と並行して、これまで蓄積された学術的な情報を分類研究者以外の研究者や一般社会へ還元するための、Web公開型データベースの整備に力を入れた。日本産アリ類画像データベースの改訂については昨年から進めていたもので、これを7月に2007年ベータ版としてWeb上に公開した。また、Web公開情報の安定的な保存と普及をさらに進め、学術的な引用に耐える環境を整備するため、新たなコンテンツを加えたデータベースを2008年CD-ROM版として、3月に出版した。また、データベースの改訂と運営を通して、現在のWeb公開型データベースが抱える問題点と展望を発表した。