著者
諸田 裕子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.69-80, 2000-07-31 (Released:2010-05-07)
参考文献数
19

「少子化問題」をめぐる政策において、近年、「不妊問題」への言及が行われ始めている。本稿では、こうした現象を「不妊問題」の社会的構成の一つの局面としてとらえ、その局面を特徴づける論理を政策レベルの言及やマス・メディア空間に流通する「不妊問題」言説を手がかりに描き出すことを目的としている。少子化への政策レベルの対応における「主体的な選択」「自己決定」というレトリックの採用は、個人が尊重されながらも問題解決の責任が個人へと帰責されてしまうという両義的な帰結を予見させる。それは、 “経験の告白” による問題の克服が問題の個人化をもたらし、結果、社会の側の変革への志向が閉ざされるという、マス・メディア空間に流通する「不妊問題」言説の特徴によっても強化されてしまう。私たちは、「主体的な選択」を根拠にした「不妊問題」への社会的対応の行方について今後も議論を展開していく必要がある。