- 著者
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谷岡 一郎
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- no.32, pp.76-86, 2007-10-20
2010年には新しい裁判員制度-アメリカの陪審制に類似のもの-が日本でスタートするようである.現在までのところ,刑罰の決定(量刑)は専門の裁判官によってなされており,その決定は専門家による「さじかげん」をもとにしている.たとえば「罪を認めている」,「反省」,「生い立ち」などの明文化されていない要素や,その重みづけによるさじかげんである.従って犯罪や刑罰にそれほど詳しくない裁判員による新制度がスタートしたとき,具体的かつ客観的な量刑の評価基準,もしくはガイドラインが必要となるだろう.日本では近年,司法システムに若干の変更や改変がなされた.特に厳罰化の方向,つまり刑を重くする方向である.新しい犯罪類型が定義され,いくつかの犯罪において,最高刑が引き上げられもした.ただしこの厳罰化については,単に最高刑を引き上げるより,刑罰の「確実性」を増やす方が効果的ではないかとする議論がある.本稿でも司法制度および刑罰論の観点から,厳罰化の意味を考える.日本の刑法は明治時代初期に作られた.以来,当時には予想しえなかった多くの行為類型が犯罪と定義されてきた.しかし刑法典も時代によるほころびが見え,現代風の反社会的行為に対応しきれていないのではないか.少なくとも大衆の感覚ではそうである.司法制度全般を議論すべき時期が来ているように思う.本稿がその端緒となればこれにまさる幸せはない.