- 著者
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谷川 尚哉
- 出版者
- 経済地理学会
- 雑誌
- 経済地理学年報 (ISSN:00045683)
- 巻号頁・発行日
- vol.37, no.1, pp.84-101, 1991-03-31 (Released:2017-05-19)
1980年代は,地理教育にとって大きな変革の時代であった.50年代を第1期の社会科攻撃の時代とすれば,80年代はその第2期と位置付けられる.教科書攻撃として始まった教育の反動化は,議会における自民党の絶対多数という政治状況下で,強権的な政治力により,社会科解体として現出した.第13期中教審で端緒をつけ,続く臨教審路線において「国際化」を大義名分とし,一部の歴史学者の動きを取り込み,最後は教課審において,社会科は地歴科と公民科に分離解体されてしまった.1989年に告示された新学習指導要領による地歴科の地理教育の内容は,無理に地理の「専門性・独自性」を確立し人文科学の一分野として位置付けようとし,資源・産業学習という経済地理的内容を制限し,逆に国際化に対応するとして無批判に文化人類学的な生活・文化の内容を導入するなど問題が多い.今後も戦後の社会科の中の地理教育が築きあげてきた成果を継承してゆかねばならない.