著者
谷本 芳美 渡辺 美鈴 河野 令 広田 千賀 高崎 恭輔 河野 公一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.52-57, 2010 (Released:2010-03-25)
参考文献数
27
被引用文献数
43 63 12

目的:高齢者の介護予防に向けた健康づくりを支援するために,日本人を対象とした大サンプル数の調査から筋肉量を測定し,部位別に筋肉量の加齢による特徴を明らかにすることを目的とした.方法:18歳以上の日本人4,003人(男性1,702人,女性2,301人)を対象者とし,平成19年5月から平成20年9月にかけて上肢,下肢,体幹部および全身筋肉量の測定を行った.対象者は大都市近郊や農村在住の住民,大学の学生や教職員,民間企業の職員,地域の既存施設(図書館,老人福祉センターなど)の利用者である.マルチ周波数体組成計MC-190(タニタ社)を使用して筋肉量を測定し,性,年齢別に検討した.結果:筋肉量はすべての部位において年齢に関わらず男性が女性よりも有意に多く,また,加齢に伴う減少の割合は男性の方が女性よりも大きいことを示した.部位別の特徴として,下肢は20歳代ごろより加齢に伴い著明な減少を,上肢は高齢期より緩やかな減少を,体幹部は中年期頃まで緩やかに上昇した後減少を示した.さらにこれらの総和である全身筋肉量は中年期頃まで微量に増加あるいは横ばい状態から減少した.このように筋肉量の加齢変化は部位により異なり,減少率が最も大きいのは下肢で,次に全身,上肢,体幹部の順であった.結論:本研究では日本人筋肉量の部位別の加齢変化が明らかとなった.特に下肢筋肉量は早期より加齢に伴い大きく減少することから,高齢期の健康づくりにおいて下肢筋肉量に注目した支援の必要性が示された.
著者
谷本 芳美 渡辺 美鈴 杉浦 裕美子 林田 一志 草開 俊之 河野 公一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.60, no.11, pp.683-690, 2013 (Released:2014-01-10)
参考文献数
26
被引用文献数
6

目的 本研究では高齢者の介護予防に向けた健康づくりを支援するために,わが国の地域高齢者を対象とし,筋肉量,筋力および歩行速度から判定したサルコペニアと関連する要因について明らかにすることを目的とした。方法 大都市近郊に在住する65歳以上の高齢者1,074人を対象にバイオインピーダンス法を使用した筋肉量測定と握力,通常歩行速度の測定を行った。また,自記式質問紙で,属性•慢性疾患の既往と過去 1 年間の入院歴,生活習慣に関する項目,心理状況,口腔の状況および食事の状況を調査した。サルコペニアの判定には筋肉量,握力,通常歩行速度を用いた。筋肉量は測定した四肢筋肉量を身長2 で除して補正四肢筋肉量(kg/m2)として扱い,若年成人における平均値から 2 標準偏差以上低い場合を低筋肉量とした。握力と通常歩行速度については対象者の 4 分位の最下位をそれぞれ低筋力および低身体機能とした。サルコペニアの分類は低筋肉量かつ低筋力または低身体機能の者をサルコペニア,低筋肉量でも低筋力でも低身体機能でもない者を正常,そしてサルコペニアでも正常でもない者を中間と分類した。結果 男性の13.7%,女性の15.5%がサルコペニアに該当した。男性のサルコペニアではかめない者,および食品摂取の多様性がない者が有意に多いことを示した。女性のサルコペニアでは独居者,運動習慣のない者,健康度自己評価において健康でないとする者,かめない者が有意に多いことを示した。さらに,単変量解析においてサルコペニアと関連する因子を説明変数としたロジスティク回帰分析では,男性においてサルコペニアと正常との比較では年齢(オッズ比1.24:95%信頼区間1.13–1.36)および食品摂取の多様性(オッズ比3.03:95%信頼区間1.17–7.86)がサルコペニアに有意に関連した。女性ではサルコペニアと正常との比較において年齢(オッズ比1.26:95%信頼区間1.19–1.33)と咀嚼(オッズ比3.22:95%信頼区間1.65–6.29)がサルコペニアに有意に関連し,中間と正常との比較においても,中間にはこれら 2 項目が関連した。結論 地域高齢者において,サルコペニアには,男性と女性での年齢,男性での食品摂取の多様性,女性での咀嚼が関連することが明らかとなった。このことから高齢期の健康づくりにおけるサルコペニアの予防には食品摂取や咀嚼といった栄養に関する要因に注意を払う重要性が示唆された。
著者
広田 千賀 渡辺 美鈴 谷本 芳美 河野 令 樋口 由美 河野 公一
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.647-654, 2008 (Released:2009-01-29)
参考文献数
25
被引用文献数
6 21

目的:Trail Making Test(以下TMT)は,欧米において遂行機能の指標として研究されてきた.しかし,日本においてTMTに関する研究は少ない.本研究では地域在住高齢者の健康づくり支援を目指して,TMTの特徴と身体機能との関連を明らかにし,TMTの有用性について検討することを目的とした.方法:大都市近郊T市に在住している65歳以上の高齢者175人(男57人,女118人)を対象とした.TMTと8項目の身体機能を測定した.身体機能は介護予防項目として通常歩行,Timed Up & Go test(以下TUG),開眼片足立ち,握力の4項目,移動·歩行機能項目として最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の4項目である.TMTの評価には⊿TMTを用い,身体機能との関連は性と年齢を共変量とした多項ロジスティック回帰分析を行った.結果:⊿TMTの中央値は男性58.61秒,女性65.67秒で,男女とも年齢群間に有意な差を認め,特に80歳以上が高値であった.性差は観察されなかった.身体計測項目と⊿TMTとの関連について,⊿TMTの不良なものはTUGと握力の成績が有意に低かった.移動·歩行機能項目では,⊿TMTの不良なものは,最大歩行,課題付加TUG,階段昇降,障害物歩行の成績が有意に低かった.また,最大歩行の「中間/高い」比較でも,⊿TMTの不良なものは有意に成績が低かった.結論:TMTはより認知の必要な複雑な歩行機能と関連したことから,高齢期の健康づくりにおける遂行機能の評価指標としての有用性が示唆される.
著者
谷本 芳美 渡辺 美鈴 河野 令 広田 千賀 高崎 恭輔 河野 公一
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.383-390, 2009-06-15
被引用文献数
6

<b>目的</b> 高齢期における介護予防のための口腔機能の維持・向上を目的に,地域高齢者における咀嚼能力の客観的な評価方法として色変わりチューインガム(以下,色変わりガムとする)が有用であるか検討する。<br/><b>方法</b> 2007年 4 月~5 月に T 市に在住する65歳以上の高齢者210人(男性69人,女性141人)を対象に色変わりガムを用いた咀嚼能力と残存歯数および咬合力の測定を行い,同時に自記式質問紙調査を用いて咀嚼能力の主観的評価を行った。調査実施前に,5 人の高齢者について色変わりガムの測定方法の精度を検討した。測定は「普段の食事をするようにガムをかんでください」と指示し,2 分間咀嚼させた後,色彩色差計を用いて色変わりガムの「赤み」を示す咀嚼能力 a∗値(以下,a∗値とする)を測定した。質問紙項目は①食物が普通にかめるか②かたい食物がかめるか③まぐろのさしみ,かまぼこ,らっきょう,ビフテキ,ピーナッツの咀嚼の可・不可について調べた。解析は a∗値と残存歯数,咬合力および質問紙調査との関連について行った。<br/><b>結果</b> 対象者 5 人の a∗値の変動係数は2.15~3.75%で,測定方法は高い精度を示した。地域高齢者の色変わりガムの平均 a∗値は男性26.0,女性22.8であった。年齢別では,男性は全ての年齢群で有意な差を認めず,加齢に伴う変化は示さなかった。女性は80歳までは年齢による差を示さなかったが,80歳以上に有意な低下を示した。性別では,どの年齢群においても有意な差を認めなかった。男女とも a∗値は残存歯数および咬合力と正の相関関係を認めた。質問紙調査では,全ての項目で咀嚼可群の方が有意に a∗値が高かった。また,残存歯数が20歯未満の者に限っても咀嚼難易度の低い「まぐろのさしみ」と「ビフテキ」を除く全ての項目において咀嚼可群が有意に a∗値が高く,色変わりガムと主観的な質問紙調査との関連を認めた。<br/><b>結論</b> 色変わりガムの測定方法は簡便で,測定精度が高いことが認められた。また,色変わりガムは残存歯数や咬合力および主観的咀嚼能力評価と関連することを認めたことから,地域高齢者の健康づくりにおける咀嚼能力の客観的評価方法として有用であると考える。