著者
江崎 雄治 西岡 八郎 鈴木 透 小池 司朗 山内 昌和 菅 桂太 貴志 匡博
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.255-267, 2013 (Released:2014-03-13)
参考文献数
8
被引用文献数
2

本稿は,国立社会保障・人口問題研究所の『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』の手法と結果について解説するものである.まずコーホート要因法による将来人口推計は,コーホートの安定的な経年変化を将来に延長することをその手法の基礎に置いていることから,少なくとも近い将来に関する限り,かなり高い精度を有することを説明する.2025年までの推計結果については,特に非大都市圏の人口減少の加速とともに,大都市圏郊外地域における急激な高齢化について指摘している.さらに大都市圏では,その後の死亡数の増加により,2040年までの期間に非大都市圏の後を追う形で人口減少局面に入る.
著者
貴志 匡博
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.45, 2011

1.はじめに<BR> 本研究は,近年の都市に近い農村における若年既婚者のUターンに注目し,その属性と傾向を明らかにするものである。これまでのUターンに関する研究は,農村地域を対象としたものがほとんどなく,対象地域の人口が数十万人規模の研究が多い。 これまでのUターン研究では,20歳代でのUターンが多いとされ,就職と学歴に注目した研究が展開されてきた。例えば,山口ほか(2010)などの研究がある。しかしながら,30歳代といった若年のUターンは結婚後に家族を伴ってなされること事が多く,子どもの存在が集落に活気をもたらすなど,無視できない点も多い。<BR><BR>2.対象地域と調査手法<BR>県庁所在都市より高速道路を経由して2時間の地にある農村地域として,兵庫県多可町加美区を対象とした。多可町は,2005年に加美町,中町,八千代町の3町が合併した。町役場を中町におき,旧町はそれぞれ地域自治区となった。そのうちの加美区の人口は,7204人(国勢調査2005年)である。本研究はこれまでの研究のように高校同窓会名簿によるアンケートではなく,加美区に居住する全世帯に対するアンケート調査に基づいている。この調査は神戸大学経済学研究科と多可町とのまちづくりむらづくり協定,加美区各集落の役員方の協力によってなされた。配布と回収は2009年8月のお盆休みに集落の区長を通じて配布し,町役場へ郵送回収する方法をとった。世帯主から世帯主本人と配偶者,その子に関する移動歴を尋ねる形の調査票を用いた。これにより,農村地域を対象とした全世代的な調査を行った。なお,本研究においてUターンの定義を,加美区出身者が加美区外に転出し再び加美区に戻ることと定義する。調査票は1912票を配布し,うち510票(回収率26.7%)を回収した。うち世帯主で加美区出身者は424人である。<BR><BR>3.結婚後Uターンの特徴と実像<BR>紙幅の関係上ここでは世帯主だけの分析結果をしめす。加美区出身で在住の世帯主419人のうちUターン者数は179人であった。加美区出身者の約4割は他出経験があり,6割近くは他出経験が無いことになる。そのうち移動経歴が正確に把握できた149人において,結婚後のUターン者が67人で半数近くを占めている。未婚者のUターン(以下,未婚Uターン)と既婚者のUターン(以下,結婚後Uターン)では,Uターンのなされるピークが異なっていることがわかる。未婚Uターンのピークは20歳代前半で,結婚後Uターンのピークは30歳代前半である。本研究では以上の点を踏まえ,20・30歳代の結婚後Uターンに注目する。20・30歳代結婚後Uターンを高校と大学の学歴別にみると,学歴によってUターンのなされる時期が異なっていることがわかる。20歳代前半のUターンでは大学卒業者の未婚Uターンが4割を占める。これに対し,30歳代前半では,高校卒業者の結婚後Uターンが約5割,大学卒業者の結婚後Uターンが約3割を占めている。Uターンを誘発させるには,年齢以外にも学歴などの属性に注意を払う必要があると思われる。<BR>次に,就業についてみる。20・30歳代の結婚後Uターン者の4分の1は,教員,公的企業職員を含む公務員系であった。Uターン前後での職業の変化をみると,家業継承とみられる変化が目立つ。正規会社員から家業継承とみられる自営業や会社役員へ約2割が変化している。そのため,Uターンに際し転職を経験している人が多くなっている。本調査を分析した山岡ほか(2011)でもUターンの理由として,イエの継承に関する回答が多かったことがわかっており,職業の変化にも家業継承を確認できる。また,少数ながら20歳代後半と30歳代後半のUターン者で教員,医療,美容師といった専門職もみられ,専門的な技能を身に付け出身地にUターンした事例も見られる。Uターン前の居住地も就業地に対応して兵庫県や大阪府に集中している。兵庫県内居住者を詳細にみると,約3割が多可町周辺市町であった。結婚直後は周辺市町に居住し,その後加美区へ戻るケースと考えられる。これは一般的なUターンのイメージとかけ離れるが,実際のUターンにはこのような移動パターンが存在する。<BR>加美区内において,30歳代結婚後Uターン者の地理的分布を見る。加美区北部の旧杉原谷村で,30歳代結婚後Uターン者が高い割合の集落が集中している。加美区北部の旧杉原谷村は,同じ加美区でも交通アクセスの不便な地域として住民から認知されている。このような地域では本来Uターン者の割合が低くなることが予想される(貴志;2009)。このような結果の背景として,既に行った加美区内の全集落調査から,集落内での行事との関係が考えられる。世代を超えた交流をもたらす祭りなどの行事は集落への愛着を高め,将来のUターンを盛んにしている可能性が高い。