著者
山内 昌和 西岡 八郎 江崎 雄治 小池 司朗 菅 桂太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.85-106, 2020-03-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
60
被引用文献数
1

本稿の目的は,沖縄県の合計出生率が本土よりも高くなるメカニズムを解明することである.分析では,筆者らが独自に実施した質問紙調査や,政府統計の1つである第4回全国家庭動向調査等を資料として,沖縄県と本土の出生行動を比較した.その結果,沖縄県の合計出生率が本土よりも高いのは,沖縄県に特有の文脈効果の影響,具体的には,多くの子どもを持つことを望ましいとする価値観,結婚前に子どもを授かることへの寛容さ,家系継承が父系の嫡出子に限定されるという家族形成規範の3つの家族観が出生行動に影響を及ぼし,沖縄県の有配偶女性の子ども数が多くなるからであった.考察では,沖縄県における3つの家族観の内実にゆらぎがみられること,所得水準や待機児童などの出生に関連する沖縄県の社会経済状況が本土より劣位にあることを踏まえ,沖縄県の合計出生率が今後低下して本土の水準に近づく可能性があることを論じた.
著者
江崎 雄治 西岡 八郎 鈴木 透 小池 司朗 山内 昌和 菅 桂太 貴志 匡博
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.255-267, 2013 (Released:2014-03-13)
参考文献数
8
被引用文献数
2

本稿は,国立社会保障・人口問題研究所の『日本の地域別将来推計人口(平成25年3月推計)』の手法と結果について解説するものである.まずコーホート要因法による将来人口推計は,コーホートの安定的な経年変化を将来に延長することをその手法の基礎に置いていることから,少なくとも近い将来に関する限り,かなり高い精度を有することを説明する.2025年までの推計結果については,特に非大都市圏の人口減少の加速とともに,大都市圏郊外地域における急激な高齢化について指摘している.さらに大都市圏では,その後の死亡数の増加により,2040年までの期間に非大都市圏の後を追う形で人口減少局面に入る.
著者
阿藤 誠 津谷 典子 福田 亘孝 西岡 八郎 星 敦士 田渕 六郎 吉田 千鶴 岩間 暁子 菅 桂太 中川 雅貴 曺 成虎
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

研究成果の概要(和文):本研究では第一に男性の未婚化・晩婚化は非正規雇用の増大により引き起こされ、女性の未婚化・晩婚化は高学歴化に伴う賃金稼得力の上昇と関係がある。第二に結婚や家族に対して非伝統的な価値意識を持つ人ほど出生力が低く、反対に伝統的な意識を持つ人ほど出生力が高い。第三に男性と比べて女姓は結婚・出産を経験すると家事や育児を極めて多く遂行するようになる。第四に高齢の親に対しては男性よりも女性の方が心理的、経済的支援をより多く行っており、特に配偶者の親よりも自分の親に対して顕著である。また、孫がいない夫婦より孫のいる夫婦の方が祖父母から様々な支援をより多く受けていることが明らかとなった。
著者
山内 昌和 江崎 雄治 西岡 八郎 小池 司朗 菅 桂太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2009年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.109, 2009 (Released:2009-12-11)

課題 沖縄県の出生率は、少なくとも沖縄県が日本に復帰して以降、都道府県別にみればもっとも高い値を示す。2007年のTFRは全国の1.37に対し、沖縄県は1.78であった。 沖縄県の高い出生率の背景に夫婦の出生力の高さがあることは知られているが(例えば西岡・山内2005)、さらに踏み込んだ検討はほとんどなされていない。こうした中で、Nishioka(1994)は、1979年に沖縄県南部地域で行われた調査データをもとに、沖縄県の夫婦の出生力が高いのは家系継承者として父系の長男に固執するという家族形成規範があることを実証した。同研究は沖縄県にみられる出生行動とその要因を指摘した重要な研究といえる。しかし、近年の沖縄県の出生率が低下傾向にあることを踏まえるならば、現代の沖縄県の出生率の高さを沖縄県特有の家族形成規範で説明できるのかどうか慎重であるべきだろう。他方、Nishioka(1994)は言及していないが、沖縄県の高出生率は人口妊娠中絶率の低さとも関わっている。このため、妊娠が結婚・出産に結びつきやすいことも沖縄県の高出生率の一因となっている可能性がある。 以上を踏まえ、本研究ではNishioka(1994)で利用された調査データの対象地域を含む地域で改めて調査を実施し、近年の沖縄県における出生率の高さの要因について検討する。 方法 出生行動を把握するための独自のアンケート調査を実施し、その結果を分析する。アンケート調査は調査員の配布・回収による自計式とし、20~69歳の結婚経験のある女性を対象として2008年10月下旬から11月中旬にかけて実施した。対象地域は沖縄県南部のA町の複数の字であり、全ての世帯(調査時点で1,838)を対象とした。 結果 調査票は20~69歳の結婚経験のある女性1,127人1)に配布し、有効回収数は946(83.9%)であった。 分析対象とした調査票は、有効票のうち、Nishioka(1994)や全国の出生行動についての調査結果(国立社会保障・人口問題研究所2007)との比較可能性を考慮し、夫婦とも初婚であり、調査時点で有配偶であること、子どもの数とその性別構成が明らかであること、さらに複産・乳児死亡を含まないという条件を満たす706である。分析の結果、以下の点が明らかになった。 (1)45~49歳時点の平均出生児数は2.9人で全国の2.3人(国立社会保障・人口問題研究所2007)よりも多かったが、1979年の4.7人(Nishioka1994)よりも減少した。 (2)かつてみられた強固な男児選好は弱まっていたが、夫ないし妻が位牌を継承した(或いは予定のある)ケースでは男児選好が強く、多産の傾向がみられた。このため、沖縄県特有の家族形成規範と出生行動との関連は弱まっているものの、依然として一定の影響を与えていることがわかった。 (3)第1子のうち婚前妊娠で生まれた割合が全体で4割を超え、明瞭な世代間の差もみられなかった。このため、妊娠が結婚・出産に結びつきやすい傾向は少なくとも数十年間は継続していると考えられる。 以上から、沖縄県の高出生率をもたらしている夫婦の出生力の高さの要因として、沖縄県特有の家族形成規範と妊娠が結婚・出産と結びついていることの2点を挙げることができる。ただし、沖縄県特有の家族形成規範と出生行動との結びつきは弱まっており、今後は沖縄県の出生率がさらに低下する可能性もあろう。 なお、本研究の実施に当たって科学研究費補助金(基盤研究B)「地域別の将来人口推計の精度向上に関する研究(課題番号20300296)」(研究代表者 江崎雄治)を利用した。 1) 対象地域の1,838世帯の全てに調査を依頼し、協力を得られた1,615世帯(87.9%)に対して聞き取りを行い、対象者を特定した。
著者
小池 司朗 菅 桂太 鎌田 健司 山内 昌和
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会秋季学術大会
巻号頁・発行日
pp.60, 2018 (Released:2018-12-01)

国立社会保障・人口問題研究所は2018年3月,「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」(以下,地域推計)を公表した。この地域推計は,2015年の国勢調査人口を基準として,2045年までの地域別人口を男女5歳階級別に推計したものである。推計手法はコーホート要因法を採用し,推計に必要となる仮定値は過去に観察された出生・死亡・人口移動の地域差を反映させて設定している。したがって,人口移動の地域差が推計結果に大きな影響を与えていることはいうまでもないものの,出生力と死亡力の地域差も推計結果に無視できない影響を及ぼしていると考えられる。本研究では,地域推計の仮定値を利用し,出生力と死亡力に地域差が存在することによって,将来人口にどの程度の差が生じるかについて検証する。 地域推計においては,出生に関する仮定値として子ども女性比,死亡に関する仮定値として男女年齢別生残率を,それぞれ用いている。そこで,仮に子ども女性比と男女年齢別生残率が全国一律の値であったとした場合,具体的には国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(出生中位・死亡中位仮定)から得られる全国水準の子ども女性比と男女年齢別生残率を各地域に一律に適用した場合の推計値を試算し(以下,出生死亡地域差なし推計),地域推計の結果と比較することによって,出生力と死亡力の地域差が将来推計人口に及ぼす影響を抽出した。また,出生力と死亡力それぞれの地域差の影響をみるために,死亡力のみ地域差が存在しないとした場合の推計値も併せて試算した。なお,両推計値の試算に必要となる人口移動に関する仮定値は地域推計と同じ値とした。 出生死亡地域差なし推計による2045年の人口の試算値を基準とする同年の地域推計の人口との乖離について,出生力と死亡力それぞれの地域差の影響を変化率の形で表すと,都道府県別にみれば,出生力の地域差による影響が最もプラスなのは沖縄県(+9.1%),最もマイナスなのは東京都(-3.3%),死亡力の地域差による影響が最もプラスなのは長野県(+1.2%),最もマイナスなのは青森県(-2.5%)となった。沖縄県以外でも,九州の各県では出生力の地域差による変化率が+2~+5%にのぼり,相対的な高出生率が人口減少の緩和に少なからぬ効果を持っていることが明らかになった。
著者
阿藤 誠 津谷 典子 福田 亘孝 西岡 八郎 岩間 暁子 田渕 六郎 星 敦士 菅 桂太 中川 雅貴
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、国連欧州経済委員会により組織された「世代とジェンダー・プロジェクト(GGP)」に参加し、各国共通のパネル調査(GGS)を実施し、各国共通枠組みに従って社会経済・家族政策等に関する時系列データを収集することによって、日本の少子化の背景要因を比較分析し、少子化是正のためには、仕事と子育ての両立支援、長時間労働慣行の是正、若者の非正規労働化の是正、子育ての経済支援が有効であるとの結論をえた。
著者
山内 昌和 江崎 雄治 西岡 八郎 小池 司朗 菅 桂太
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.109, 2009

<B>課題</B> 沖縄県の出生率は、少なくとも沖縄県が日本に復帰して以降、都道府県別にみればもっとも高い値を示す。2007年のTFRは全国の1.37に対し、沖縄県は1.78であった。<BR> 沖縄県の高い出生率の背景に夫婦の出生力の高さがあることは知られているが(例えば西岡・山内2005)、さらに踏み込んだ検討はほとんどなされていない。こうした中で、Nishioka(1994)は、1979年に沖縄県南部地域で行われた調査データをもとに、沖縄県の夫婦の出生力が高いのは家系継承者として父系の長男に固執するという家族形成規範があることを実証した。同研究は沖縄県にみられる出生行動とその要因を指摘した重要な研究といえる。しかし、近年の沖縄県の出生率が低下傾向にあることを踏まえるならば、現代の沖縄県の出生率の高さを沖縄県特有の家族形成規範で説明できるのかどうか慎重であるべきだろう。他方、Nishioka(1994)は言及していないが、沖縄県の高出生率は人口妊娠中絶率の低さとも関わっている。このため、妊娠が結婚・出産に結びつきやすいことも沖縄県の高出生率の一因となっている可能性がある。<BR> 以上を踏まえ、本研究ではNishioka(1994)で利用された調査データの対象地域を含む地域で改めて調査を実施し、近年の沖縄県における出生率の高さの要因について検討する。<BR><B>方法</B> 出生行動を把握するための独自のアンケート調査を実施し、その結果を分析する。アンケート調査は調査員の配布・回収による自計式とし、20~69歳の結婚経験のある女性を対象として2008年10月下旬から11月中旬にかけて実施した。対象地域は沖縄県南部のA町の複数の字であり、全ての世帯(調査時点で1,838)を対象とした。<BR><B>結果</B> 調査票は20~69歳の結婚経験のある女性1,127人<SUP>1)</SUP>に配布し、有効回収数は946(83.9%)であった。<BR> 分析対象とした調査票は、有効票のうち、Nishioka(1994)や全国の出生行動についての調査結果(国立社会保障・人口問題研究所2007)との比較可能性を考慮し、夫婦とも初婚であり、調査時点で有配偶であること、子どもの数とその性別構成が明らかであること、さらに複産・乳児死亡を含まないという条件を満たす706である。分析の結果、以下の点が明らかになった。<BR>(1)45~49歳時点の平均出生児数は2.9人で全国の2.3人(国立社会保障・人口問題研究所2007)よりも多かったが、1979年の4.7人(Nishioka1994)よりも減少した。<BR>(2)かつてみられた強固な男児選好は弱まっていたが、夫ないし妻が位牌を継承した(或いは予定のある)ケースでは男児選好が強く、多産の傾向がみられた。このため、沖縄県特有の家族形成規範と出生行動との関連は弱まっているものの、依然として一定の影響を与えていることがわかった。<BR>(3)第1子のうち婚前妊娠で生まれた割合が全体で4割を超え、明瞭な世代間の差もみられなかった。このため、妊娠が結婚・出産に結びつきやすい傾向は少なくとも数十年間は継続していると考えられる。<BR> 以上から、沖縄県の高出生率をもたらしている夫婦の出生力の高さの要因として、沖縄県特有の家族形成規範と妊娠が結婚・出産と結びついていることの2点を挙げることができる。ただし、沖縄県特有の家族形成規範と出生行動との結びつきは弱まっており、今後は沖縄県の出生率がさらに低下する可能性もあろう。<BR> なお、本研究の実施に当たって科学研究費補助金(基盤研究B)「地域別の将来人口推計の精度向上に関する研究(課題番号20300296)」(研究代表者 江崎雄治)を利用した。<BR><BR>1) 対象地域の1,838世帯の全てに調査を依頼し、協力を得られた1,615世帯(87.9%)に対して聞き取りを行い、対象者を特定した。<BR>
著者
江崎 雄治 西岡 八郎 小池 司朗 山内 昌和 菅 桂太
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、地域別の将来人口推計の方法について検討した。主な成果は以下の通りである。(1)世界各国の実状を調査し、コーホート要因法が標準的手法であることを確認した。(2)人口移動に関するより適切な推計モデルについて検討した。(3)独自の質問紙調査を実施し、将来の出生の見通しについて議論を行った。(4)外国人の出生、死亡の将来人口推計に対する影響は小さいことが確かめられた。(5)市町村別世帯数の将来推計について課題を整理した。