著者
塚田 全彦 岡本 美津子 田中 眞奈子 貴田 啓子 小椋 聡子
出版者
東京藝術大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2023-04-01

日本国内ではこれまでに多数のセル・アニメーションが制作され、その過程で制作されたセル画は膨大な数に上る。近年アニメーションの文化的価値が認知され、セル画を含む中間制作物の保存の重要性が認識されている。しかし、合成樹脂を含む複合材料で制作されたセル画の保存に必要な各構成材料の劣化の機序、各材料が劣化した際の他の材料への相互影響については十分に検証されているとは言い難い。本研究ではセル画の保存に関する現況を調査するとともに、各材料に対して周辺環境がおよぼす影響と材料間の相互影響を評価し、セル画の長期保存に最適な環境の条件の解明を目指す。これを基にセル画を保存する際の環境の指針の提案を試みる。
著者
貴田 啓子 北田 正弘
出版者
公益社団法人 日本金属学会
雑誌
日本金属学会誌 (ISSN:00214876)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.158-164, 2010 (Released:2010-03-01)
参考文献数
8
被引用文献数
11 7

The deterioration mechanism of ferric ferrocyanide (Fe4[Fe(CN)6]3·xH2O) which is called Prussian blue, used as a blue pigment in Ukiyo-e printed in late Edo period, has been investigated. The two Ukiyo-e of the same design differ in their degree of deterioration; one print has good color, but the other is seriously discolored. The conditions of their blue areas are compared. The composition of the Ukiyo-e color pigments are analyzed by EDS (Energy Dispersive X-ray Spectroscopy). FT-IR (Fourier Transform infrared Spectrometer) is used to identify the functional group in the chemical compound. Areas of good blue color in the Ukiyo-e contain Fe, which is the main element in ferric ferrocyanide. In the FT-IR spectra, the absorption peak of around 2090 cm-1 corresponding to the CN triplet combination of ferric ferrocyanide (Fe4[Fe(CN)6]3·xH2O) is recognized. The Fe concentration in the faded blue area in the discolored sample is reduced to one-third that in the nondiscolored sample at the same position. The peak corresponding to the CN group has disappeared. A non discolored sample is subjected to accelerated ageing under the condition of high temperature and high humidity (353 K, 65%rh). The peak intensity of reflectivity in the aged sample decreases gradually with ageing.
著者
貴田 啓子 岡 泰央 稲葉 政満 早川 典子
出版者
マテリアルライフ学会
雑誌
マテリアルライフ学会誌 (ISSN:13460633)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.41-48, 2016

<p>紙や絹を基底材とする絵画などにおいて,銅含有彩色材の緑青が使用されている文化財資料では,緑青により基底材の劣化が進行し,褐色に変色する「緑青焼け」と呼ばれる劣化現象が観察される.本研究では,室町時代制作の仏画であり,「緑青焼け」が顕著にみられる絹本絵画について,修理にあたり取り除かれた2層の旧裏打紙を分析の対象とし,セルロースの分子量分布に着目し,劣化の状態を調べた.紙のセルロース分子量については,2層の裏打紙ともに,「緑青焼け」の箇所において,無着色部分よりも分子量が低下していることがわかった.さらに,「緑青焼け」の影響がみられる裏打紙中において,無着色部分の裏打紙よりも銅Cuを多く検出した.顔料に由来するCuは,2層の裏打紙に移動し,これらが,裏打紙の分子量低下をも促進していることが示唆された.また,絹本絵画の水洗浄に用いた吸取紙においてもCuを検出したことから,Cu成分の一部が水溶性であることがわかった.</p>