著者
高良 倉吉 狩俣 繁久 赤嶺 政信 山里 純一 豊見山 和行 池田 栄史 真栄平 房昭
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

歴史学分野では戦後のアメリカ統治期の約5年間に与那国島を南の拠点とし、口之島を北の拠点とする密貿易・密航ルートが先島諸島・沖縄諸島・奄美諸島・トカラ列島そして九州にまたがって形成されていたことから、トカラ列島の問題を前近代史に限るのではなく、現代史にも位置づけ直す必要がある点が確認された。沖縄県立博物館所蔵の古図の分析を本格的に行ない、同図が15世紀中期に朝鮮で作成された琉球国之図に近似していること、原図作成者と見られる中世の九州海商がすでに九州・トカラ・奄美そして琉球に至るネットワークを形成し、彼らの活動舞台に関する詳細な情報を入手していたことなどが明らかとなった。この古図の分析結果は中世日本史の分野に対する十分な問題提起になりうると思う。トカラ列島中之島を対象とする民俗学的調査では過疎化や住民の交替などにより古層を伝える伝承者がすでに存在せず、むしろ能動的な民俗変容こそ問題とすべき段階にあることが葬墓制の事例研究などから明らかとなった。言語学的にみてトカラ方言が九州方言と琉球方言をつなぐ重要な位置にあり琉球方言形成史解明のための手がかりを与える方言であることが確認された。研究の最終作業として行なわれた2度にわたるワークショップでは、トカラ列島の位置づけをめぐって薩摩・九州からの視点と奄美・沖縄からの視点だけでなく、中国をふくめた環東シナ海における位置づけが重要であるなどの論点と今後の主要な課題が確認できた。
著者
玉城 政美 赤嶺 政信 高橋 俊三 狩俣 繁久 大胡 太郎 久万田 晋
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、宮古諸島で伝承されている儀礼歌謡を良質な映像と音声で記録し、恒久的に保存することを第一の目的として、来間島、池間島、伊良部島、多良間島などで実践した。記録方式としてデジタルビデオ、デジタル録音テープなどの機器を使用した。次に、活字化された歌謡資料や現地で収集した映像・音声資料から歌詞を翻字し「歌詞データベース」を作成した。あわせて、既存の文献に収録されている歌詞を翻字して「歌詞データベース」に加えた。デジタルテキスト化したことで今後の研究に大いに貢献するであろう。次に、「宮古歌謡語辞典」の基盤を整備した。この辞典は「見出し語」「漢字」「語釈」「用例」などが主要な項目を構成する。宮古歌謡語は、方言と同様に各地域で著しく差がある。そのため発音通りの見出し語では、同じ語を同じ項目にまとめることが不可能となる。見出し語を琉球祖語で表記することによってこの問題は解決できる。こうすることで既刊の『沖縄古語大辞典』と比較検討することが可能となった。つまり、他の諸島の歌謡語と同じ次元で比較検討することが可能となったので、研究の飛躍的な進歩が期待できるようになった。だが、祖語に復元できない未詳語が数多く存在する。宮古歌謡語の研究はこの辞典が土台になるのであるから、やむを得ない面もある。研究の出発点を提示して今後多くの研究者のアクセスをまつことにしたい。なお「語釈」においては『宮古島の歌』に記録された注釈が大いに参考になった。次に、明治期に記録された田島利三郎の『宮古島の歌』を翻刻した。この文献は、原本であり、かつ、宮古歌謡研究の嚆矢というべきものであるにもかかわらず、これまで無視されてきた。従来は、原本ではなく、これの写本が尊重されてきたが、文献学的には非常識な扱いであった。今度の翻刻によって、今後はこの原本が活用されるであろう。