- 著者
-
豊見山 和行
- 出版者
- 琉球大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2001
本研究の目的は、近年注目され、かつ多くの成果をあげつつある漂流・漂着という歴史的事象に着目し、琉球史の再構成を図ることにある。漂流・漂着という歴史的事象は、偶発的な海難事故である。しかし、前近代において、それらの難船した船舶や人員に対して各国がどのように対応、処遇していたかという点では、それぞれに差異があった。その差異を検討することは、それぞれの前近代国家が海上交通や海域をどのように認識し、陸の権力として海上交通や海域をどのように処理していたかを明らかにすることにつながると言えよう。そのような問題意識から本研究では、琉球史における漂流・漂着の事例を探索することと同時に、漂流・漂着の前提となる琉球における海運の問題へのアプローチを行うこととした。これまでの琉球史における漂流・漂着の研究は、それ相応の蓄積が行われてきた。それらは、主に琉球列島へ漂着した日本船、朝鮮船、唐船、そしてオランダ船などである。他方、琉球船が中国、朝鮮、東南アジアなどへ漂流・漂着し、それらがどのように処遇され、送還されたかの議論も積み重ねられつつある。しかしながら、日本へ漂着した琉球船に関する研究は十分なものとは言えない状況にある。そのため、このような研究状況を打開するには、まず日本へ漂着した事例とそれに関する史料の探索が必要となる。そのような視角で史料探索した結果、四点の漂着関係文書を発掘することができた。旧来、注目されることのなかった史料であり、今後、琉球船の漂流・漂着関係を検討する上で重要な位置を占めるものと言えよう。本報告書は、第一部<論考篇>と第二部<史料篇>で構成されている。その第二部に上記四点の漂着関係史料を収録した。本研究のもう一つの柱は、琉球における海運の研究である。漂流・漂着という事象の前提には海上交通がある。つまり、海上交通・海運の状況が漂流・漂着という事象を生み出すのであり、漂流・漂着と海運は表裏の関係にあると言えよう。そのような視点で琉球の海上交通・海運を回顧した時、旧来の研究において琉球列島域内の海上交通研究はけっして豊かなものとは言えないことが分かる。むしろ、不十分な研究状況が続いており、そのような研究状況を打開する上でも関係史料の探索・発掘は不可欠の作業と言えよう。そのため、本報告では論考篇では海上交通、海運に関する論考を中心に編むこととした。さらに、史料篇においても三点の海運関係史料を収録した。