- 著者
-
越川 葉子
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.101, pp.5-25, 2017
<p> 過去30年間にわたる「いじめ問題」の社会問題化過程において,学校非難の語りは強まる一方である。こうした社会状況において,「いじめ問題」の当事者性を担う教師は,公的な場で自らの実践の論理を主張することができない状況へと追い詰められている。<br> 本稿の目的は,公的な言説で語られる「いじめ問題」のリアリティに対し,教師の語りが描く学校現場のリアリティを対置することで,生徒間トラブルについて異なるリアリティが構築されうることを実証することにある。教師の語りから明らかとなった学校現場のローカル・リアリティは,今日の「いじめ問題」に次の示唆を与える。<br> 第一に,学校は「いじめ」事件の社会問題化以前も以降も,「いじめ問題」として生徒間のトラブルには対応していないということである。学校にとって大事なことは,「いじめ」という言葉でトラブル状況を定義するかどうかでなく,今,何を最優先に生徒らに働きかけていかなければならないのかを判断し,対応することなのである。<br> 第二に,学校は社会問題化以降も,生徒らの将来的な地域での生活を見据え,被害生徒はもとより,加害生徒らにも学習支援を行なっていることである。また,親同士の謝罪の場も設け,学校は,当事者間の調整役としての役割を果たしていた。こうした学校の対応は,「いじめ問題」を教師の語りから捉えなおすことではじめて理解が可能になるものである。</p>