著者
中畑 龍俊 依藤 亨 足立 壮一 林 英蔚
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

造血幹細胞の発生、性状、増殖・分化機構とその異常、サイトカイン受容体の異常と白血病発症との因果関係、白血病発症の分子機構が明らかにすることを目的に研究を行い以下の成果が得られた。(1)ヒト造血幹細胞を容易に受け入れるNOD/SCID/γ_c^<-/->(NOG)マウスを開発した。このマウスに移植したヒト臍帯血CD34+細胞からサイトカインの投与なしに顆粒球、赤芽球、マクロファージ、巨核球、血小板、T, B, NK, NKT, DC,肥満細胞を含む全てのヒト型血球分化が認められた。ヒトT細胞の初期分化は主に胸腺内で行われ、一部胸腺外分化も認められ、血清中にヒト型のIgM, IgG, IgAが観察された。(2)造血幹細胞増殖支持能を持つストローマ細胞株を樹立した。このストローマ細胞株上でサルES細胞を培養すると非常に多くの血球が出現することから造血幹細胞を生み出すのに必要な分子も発現している可能性が示唆された。(3)G-CSFR遺伝子異常を持ちKostmann症候群のモデルとなる2種類のTgマウスを作成した。変異G-CSFR-TgマウスへG-CSFを1年間連日皮下すると、3血球系とも著明に増加した状態が続いたが、白血病の発生は見られなかった。(4)サルES細胞から胎児型の血液細胞と成体型の血液細胞の両者および血管内皮細胞を誘導することが可能となった。サルでもマウスと同様、血液と血管内皮の共通の母細胞であるhemangioblastの存在が明らかとなった。
著者
足立 壮一
出版者
日本小児血液・がん学会
雑誌
日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.224-230, 2015 (Released:2015-10-21)
参考文献数
22

日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)は,2003年に4つのグループ(TCCSG,CCLSG,KYCCSG,JACLS)の共同研究組織として,全国統一の臨床研究を推進することを目的として発足した.2002年に厚生労働科学研究費として採択された「小児造血器腫瘍の標準的治療法の確立に関する研究」班(主任研究者;堀部敬三)のもとに,データセンターが整備され,日本小児血液・がん学会疾患登録事業の登録システムと連動し,web登録システムを導入して,質の高い臨床試験登録を遂行中である.また,中央診断システム(病理,免疫,分子診断等)を確立し,余剰検体の細胞保存も行っている.急性白血病では,2004年から,乳児急性リンパ性白血病(ALL),フィラデルフィア染色体(Ph1)陽性ALL,急性骨髄性白血病(AML)(急性前骨髄性白血病(APL),ダウン症候群に合併した急性骨髄性白血病(ML-DS),ML-DS以外の初発のde novo AML)で全国統一臨床試験を施行し,それぞれ後継の臨床試験を遂行中である.T細胞性ALL(T-ALL)は,2011年から成人の日本白血病研究グループ(JALSG)と共同研究でALL-T11を開始し,2012年から小児がんの中で最も患者数の多いB前駆細胞性ALLに対する全国統一臨床試験(ALL-B12)の臨床試験を遂行中である.再発白血病(ALL, AML),に対する臨床試験も遂行中で,2015年5月31日現在で,2209例の臨床試験登録が行われた.
著者
足立 壮一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.134, no.4, pp.184-191, 2009 (Released:2009-10-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

癌治療において細胞死の機序を解明することは,新規治療法の開発や耐性化の克服などの治療成績の向上や,副作用の軽減など,患者治療に直結する重要な研究である.In vitroの培養系における各種白血病や癌細胞株の研究から,細胞死の1つであるアポトーシスについては機序の解明が進んでいる.しかしながら,生体内での細胞死の機序は不明のことが多く,また固形腫瘍における細胞死では,近年,アポトーシス以外の細胞死が注目されている.我々は,白血病,固形腫瘍いずれにおいても以下の系において,アポトーシス以外の細胞死の1つである,オートファジーの関与を証明した.(1)難治性白血病であるBcr-Abl陽性白血病(フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病,慢性骨髄性白血病)に対して,従来から上記白血病の特効薬とされている,imatinib mesylateよりも有効な薬剤INNO-406によるin vitroにおける細胞死の機序にオートファジーが関与し,in vivoにおいても非アポトーシスの細胞死がみられること,(2)難治性固形腫瘍rhabdoid腫瘍におけるin vitroおよびin vivoでのHDAC阻害薬(depsipeptide)による細胞死の機序にオートファジーが関与し,AIFの核からミトコンドリアへの偏移がオートファジーに関与すること,の2点である.いずれの系においても,オートファジーを抑制すると細胞死が増強されたことから,オートファジーの抑制は難治性白血病,固形腫瘍の治療ターゲットとなりうる可能性が示唆され,オートファジーに関与する新薬の開発が望まれる.