著者
足立 浩基 埴淵 知哉 永田 彰平 天笠 志保 井上 茂 中谷 友樹
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
pp.2018, (Released:2021-02-03)

目的:本研究では,iPhoneのヘルスケアアプリのスクリーンショット画像から日常生活上の歩数を得る遡及的調査方法を開発した。インターネット調査を利用し,COVID-19の緊急事態宣言下での歩数変化を例として本調査方法の実用性の検討を本研究の目的とした。 方法:調査会社の登録モニター集団から日本全国に居住する20~69歳のiPhoneの日常的利用者1,200名を抽出し,過去3カ月間のスクリーンショット画像を回収した。画像解析により歩数を読み取るツールを開発し,2020年2月中旬から5月中旬までの平均歩数の推移のデータを取得した。固定効果モデルを用いて緊急事態宣言前後の歩数変化を地域別・性・年齢階級別に推定した。 結果:約79.9%の画像が歩数データの計測に利用可能であった。エラーの要因は操作ミスや画像の低解像度化であり,調査事前に対策し得るものであった。分析の結果,1日あたりの平均歩数が緊急事態宣言後に減少していると推定され,首都圏における先行研究と整合する結果を得た。さらに地域および性・年齢階級による違いを観察し,三大都市圏20代の男性は約2,712歩減,女性は約2,663歩減と最も顕著な減少を確認した。 結論:インターネット調査でスクリーンショット画像を回収し,画像から歩数を読み取る方法は,歩数から推測される身体活動の変化を遡及的かつ客観的に把握する有用な方法として期待される。
著者
永田 彰平 高橋 侑太 足立 浩基 中谷 友樹
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2023年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.205, 2023 (Released:2023-04-06)

Ⅰ.研究の背景 2019年12月に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が現在まで続いており,感染拡大期には,各国でロックダウンによる感染の封じ込めが試みられた.日本においても,2020年4月に1回目の緊急事態宣言が全国で発出されて以来,各都道府県の流行状況に応じて,緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実施され,外出の自粛や飲食店に対する休業あるいは時短営業が要請された. ロックダウンなどの非薬物的介入(NPIs: non-pharmaceutical interventions)による人流変化と感染推移の関係は各国で多く検証されており(Zhang et al. 2022),日本では,1回目の緊急事態宣言下での人流抑制と感染緩和の有意な関連が示されている(Yabe et al. 2020; Nagata et al. 2021).しかし,先行研究の多くは流行初期を対象としているため,デルタ株が流行しワクチン接種が進んだ第5波や,オミクロン株が流行した第6波以降のNPIs実施に伴う人流変化と感染推移の関連は確かめられていない. 本研究は,流行初期から第7波におけるNPIs実施の人流抑制を介した感染推移への効果を都道府県ごとに検証した. Ⅱ.方法 1. 人流変化指標の作成 まず,流行前の全国の4次メッシュを性別・年齢階級別滞留人口の時間的な変化パターンに基づき排他的な6類型(低密度住宅地区,過疎・山間地区,居住無し昼間流入地区,高密度住宅地区,職住混在地区,オフィス街・繁華街)に分類した.次に,COVID-19流行下における各都道府県の日別・地区類型別滞留人口を流行前のものと比較し,人流変化指標を作成した.滞留人口データは,株式会社ドコモ・インサイトマーケティング提供のモバイル空間統計を用いた. 2. NPIsの効果検証 感染拡大指標を被説明変数,NPIs(緊急事態宣言,まん延防止等重点措置)の実施を説明変数,各地区類型での人流変化指標を媒介変数として媒介分析を実施した.それぞれの変数は日単位の時系列データとして整理され,状態空間モデルによりパラメータ推定を行った.なお,ワクチン接種の普及や変異株の出現により,NPIsの効果が時期で異なることが想定されたため,分析期間をデルタ株流行前(第1~4波: 以下I期),デルタ株流行+ワクチン接種普及期(第5波: 以下II期),オミクロン株流行以降(第6波以降: 以下III期)に分けた. Ⅲ.結果 媒介分析の結果,I期の東京都では,NPIsの実施がオフィス街・繁華街での夜間の滞留人口を減少させ,感染抑制に寄与したことが示された.また,NPIs実施の感染抑制効果のうち,オフィス街・繁華街での人流低下による効果は19%であったと推定された(95%ベイズ信用区間: 6% - 35%).一方,II期やIII期では,NPIsの実施が人流を低下させたものの,感染抑制への効果は認められなかった. 宮城県や大阪府でも同様に,I期においてはNPIsの実施によるオフィス街・繁華街での人流低下が感染抑制に寄与したが,II期以降のNPIsの効果は認められなかった. Ⅳ.考察 流行初期はNPIsによる人流抑制が感染緩和を規定する主な要因であったが,ウイルスの伝播性の変化やワクチンの普及,自粛疲れなどにより,NPIsによる人流抑制が感染推移に及ぼす影響は小さくなったことが示唆された. 参考文献 Nagata, S., et al. 2021. Mobility change and COVID-19 in Japan: mobile data analysis of locations of infection. J. Epidemiol., 31(6), 387-391. Yabe, T., et al. 2020. Non-compulsory measures sufficiently reduced human mobility in Tokyo during the COVID-19 epidemic. Sci. Rep., 10, 18053. Zhang, M., et al. 2022. Human mobility and COVID-19 transmission: a systematic review and future directions. Ann. GIS, 28(4), 501-514.
著者
足立 浩基 埴淵 知哉 永田 彰平 天笠 志保 井上 茂 中谷 友樹
出版者
日本運動疫学会
雑誌
運動疫学研究 (ISSN:13475827)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.172-182, 2021-09-30 (Released:2022-07-12)
参考文献数
19

目的:本研究では,iPhoneのヘルスケアアプリのスクリーンショット画像から日常生活上の歩数を得る遡及的調査方法を開発した。インターネット調査を利用し,COVID-19の緊急事態宣言下での歩数変化を例として本調査方法の実用性の検討を本研究の目的とした。方法:調査会社の登録モニター集団から日本全国に居住する20~69歳のiPhoneの日常的利用者1,200人を抽出し,過去3か月間のスクリーンショット画像を回収した。画像解析により歩数を読み取るツールを開発し,2020年2月中旬から5月中旬までの平均歩数の推移のデータを取得した。固定効果モデルを用いて緊急事態宣言前後の歩数変化を地域別・性別・年齢階級別に推定した。結果:約79.9%の画像が歩数データの計測に利用可能であった。エラーの要因は操作ミスや画像の低解像度化であり,調査事前に対策し得るものであった。分析の結果,1日当たりの平均歩数が緊急事態宣言後に減少していると推定され,首都圏における先行研究と整合する結果を得た。更に地域および性・年齢階級による違いを観察し,三大都市圏20代の男性は約2,712歩減,女性は約2,663歩減と最も顕著な減少を確認した。結論:インターネット調査でスクリーンショット画像を回収し,画像から歩数を読み取る方法は,歩数から推測される身体活動の変化を遡及的かつ客観的に把握する有用な方法として期待される。