著者
長谷川 千尋 吉次 広如 辻 泰弘
出版者
一般社団法人 日本臨床薬理学会
雑誌
日本臨床薬理学会学術総会抄録集 第42回日本臨床薬理学会学術総会 (ISSN:24365580)
巻号頁・発行日
pp.1-P-A-4, 2021 (Released:2021-12-17)

【目的】COVID-19による世界的なパンデミックを引き起こしているSARS-CoV-2ウイルスの感染プロセスについては、呼吸器感染を引き起こす他のウイルスと類似している一方で異なる点もあげられており、例えばSARS-CoV-2ウイルスの体内での潜伏期間、又はウイルスの放出期間はインフルエンザ等の他のウイルスよりも長いことが知られている [1]。本研究では、SARS-CoV-2のウイルス動態をより理解するため、インフルエンザAを比較対照とし、数理学的モデルによる検討を行った。また、ウイルス動態を踏まえた治療開始のタイミングについても併せて検討した。【方法】数理学的モデルとして、公表されているSARS-CoV-2 [1]及びインフルエンザA/H1N1 [2]のTarget cell-limited modelを選択した。本モデルは、感染の対象となる標的ヒト内皮細胞、ウイルス、そして感染後の非感染性細胞及び感染性細胞の四つの相互関係を表現した数理学的モデルである。本モデルによるシミュレーションには、NONMEM 7.4を用いた。【結果・考察】シミュレーションの結果、SARS-CoV-2ウイルス量の経時推移はインフルエンザA/H1N1よりも緩やかであり、これまでの報告 [1]通り、SARS-CoV-2ウイルスの放出期間が長いことが示唆された。また、モデル構造は両ウイルスについて同じであることから、パラメータ値を直接比較した結果、ウイルスの死滅速度を初めとする多くのパラメータの値は両ウイルス間で同程度(5倍未満)である一方、ウイルスの感染速度はSARS-CoV-2で10倍超、感染性細胞からのウイルス複製速度に至っては1000倍超の値であった。これらの速度の違いが、両ウイルスの放出期間の違いに寄与する可能性がある。また、両ウイルスの動態については異なる点がある一方、治療開始のタイミングについては、いずれのウイルスも感染後2日以内が最も効果的であることが一部のシミュレーション結果(薬効メカニズムとして、多くの抗ウイルス剤でみられるウイルス複製の抑制を想定した場合)から示唆された。【結論】インフルエンザAを比較対照とし、数理学的モデルによる検討を実施した結果、SARS-CoV-2のウイルス動態及び効果的な治療開始タイミングについて定量的な考察を行うことが可能であった。【参考文献】[1] Patel K et al. Br J Clin Pharmacol (2020) Epub ahead of print.[2] Baccam P et al. J Virol (2006) 80, 7590-9.
著者
辻 泰弘 田中 英子
出版者
特定非営利活動法人 日本医療マネジメント学会
雑誌
医療マネジメント学会雑誌 (ISSN:13456903)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.385-388, 2004-09-01 (Released:2011-03-14)
参考文献数
12

近年, 調剤に係わる医療事故が相次ぎ, 薬剤師による処方監査の重要性が再認識されている. 今回, リスクマネージメントの観点から処方せん疑義照会内容を集計し, 検討を行った. 平成14年に医療の質の向上を目的として, 電子カルテ及びオーダリングシステムを核とした診療・調剤支援システムを導入した後, 平成15年1月から12月までの本院処方せん159,354枚 (外来: 125,723枚入院: 33,631枚) において, 疑義照会を行った1,010件 (外来: 679件入院: 331件) を「薬学的疑義照会」と「処方形式的疑義照会」に分類し比較検討した. 総処方せん枚数に対する疑義照会率は0.63% (外来0.54%, 入院0.98%) であり, 入院の疑義照会率は外来の疑義照会率と比較して有意差 (p<0.05) がみられた. 外来・入院双方とも疑義照会発生比率は, 「処方形式的疑義照会」が「薬学的疑義照会」を上回る結果となった. なお, 疑義照会後の処方変更率は外来90.3%, 入院92.1%, 全体で91.6%と高い処方変更率となり, 薬剤師の疑義照会が合理性を持って受け入れられ, 適正な内容であったことを示しており, 副作用防止・相互作用回避など, 医薬品に関わるリスクマネージメントへ貢献していることが示唆された.
著者
福森 史郎 辻 泰弘
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.18-25, 2018-01-25 (Released:2018-04-25)
参考文献数
27

抗菌薬の多くは注射薬により投与されている。しかし、注射薬は速やかに効果が出現する半面、急激な血中濃度の上昇により副作用が出たり、痛みを伴ったりするため、患者にとって最適の投与形態ではない。したがって、注射による投薬を経口に変更することによって、患者の負担を軽減することができる。内服DDS製剤の技術には、プロドラッグ化および分解酵素阻害剤の併用による薬物吸収改善技術と、徐放化システムおよび放出制御システムを用いた薬物放出制御技術が重要な項目となる。本稿では、バカンピシリンやアジスロマイシンなど感染症領域において実際に使用されている内服DDS製剤の特徴および現況について概説する。