著者
広瀬 正史 重 尚一 久保田 拓志 古澤 文江 民田 晴也 増永 浩彦
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.5, pp.1231-1252, 2021 (Released:2021-10-29)
参考文献数
58
被引用文献数
6

全球降水観測(GPM)計画主衛星搭載二周波降水レーダ(GPM DPR)による降水の統計は入射角に依存した系統的なバイアスによって過小評価となっている。5年間のGPM DPR Ku帯降水レーダ(KuPR)Version 06Aデータによる降水量は、衛星の直下付近における統計に比べて陸では7%、海では2%少ない。本研究では、直下付近の観測データを参照して、低高度降水強度鉛直分布(LPP)と浅い降水の見逃し(SPD)の影響を推定した。 はじめに、降水の構造的な特徴や環境変数で分類した直下付近のデータベースを用いてLPPを更新した。高標高域や中高緯度等、高度2km以下で下方増加傾向の降水プロファイルが卓越する場所では、LPP補正によって降水量が増加しており、全球平均降水量は5%増加した。続いて、降水頂2.5km以下の降水データの検出数に見られる入射角間の差異をもとに、SPDによる全降水量への寄与を推定した。SPDに関する影響はLPP補正の結果と同程度であった。本研究では、地表面クラッターの干渉しない最低高度と空間的に平均した浅い降水の割合に対するSPD補正のルックアップテーブルを作成し、3か月間の0.1度格子の統計にSPD補正を適用した。SPD補正の結果、浅い降水が卓越する亜熱帯の少雨域や高緯度の降水量が50%ほど増加した。これらの2つの補正により、陸の降水は8%、海の降水は11%増加することが分かった。北緯60度から南緯60度におけるKuPRの降水平均値を他のデータと比較すると、補正によって衛星・雨量計合成データとの差異は−17%から−9%へ、陸の雨量計のみのデータとの差異は−19%から−15%へと縮小した。
著者
青木 俊輔 重 尚一
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.5-25, 2021 (Released:2021-02-28)
参考文献数
48
被引用文献数
5

本研究は、空間変動の大きい中高緯度大陸西岸の降水に焦点を当て、全球降水観測計画(GPM)主衛星搭載二周波降水レーダ(DPR)Ku帯降水レーダ(KuPR)およびCloudSat衛星搭載雲レーダ(CPR)を用いてアラスカ南岸の気候学的な降水分布や降水メカニズムについて調査した。高緯度では地表へ落下する降水粒子の相を判別することが降水を評価するうえで不可欠である。海岸線からの距離によって衛星降水プロダクトを分類することで、海岸線を挟んだ海側と陸側で降水特性が大きく異なっていることを示した。沿岸の海上では、地形効果で強化された乱層雲からのCPR反射強度7dBZ以上の比較的強い降水が頻繁にとらえられており、KuPRでもとらえられている。一方、海岸山脈上では、CPR反射強度11dBZ以下の弱~中程度の降雪が頻繁に発生していることが、CPRでとらえられているがKuPRではほとんどとらえられていない。この雪は主に海岸域より移流してきた乱層雲や地形効果を受けて強まった浅い対流雲によってもたらされている。夏季を除いて顕著な降水の日周期変動はなく、さらに夏季の日周期変動の振幅も総降水量と比べると特に海上で小さく、総観規模の水蒸気輸送が年間を通して多くの降水をもたらしていることを示唆している。事例解析と季節解析により、アラスカ湾から到来する温帯低気圧に伴う前線システム及び水蒸気の流れが、海岸沿いで地形によりブロックされて停滞し、沿岸に長く持続した降水をもたらしていることが示された。本研究の結果は、降雨・降雪の両方が発生する地域の降水気候値を評価するには、これら2つのレーダの相補的な情報を用いることが重要であることを示している。
著者
岡本 謙一 重 尚一
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.91, no.7, pp.723-733, 2008-07-01
被引用文献数
6

熱帯降雨観測衛星(TRMM:Tropical Rainfall Measuring Mission)は,1997年11月28日に打ち上げられて以来,現在に至るまで,約10年以上も順調に,熱帯.亜熱帯降雨の観測を継続している.TRMMは,世界で初めてのアクティブフェイズドアレー方式の降雨レーダ(PR)を搭載しており,台風などをはじめとする様々な降雨システムの三次元構造の観測にその威力を発揮してきた.論文では,TRMM衛星のミッションの目的,搭載センサの概要,TRMM降雨レーダシステムの概念設計時の諸検討,TRMM降雨レーダシステムの概要,TRMM降雨レーダデータ解析処理アルゴリズムシステム,様々な観測成果(台風,潜熱加熱など),TRMMを継承する全球降水観測計画(GPM:Global Precipitation Measurement)主衛星搭載2周波降水レーダ(DPR)並びに更に次世代の衛星搭載の降雨レーダ技術についての展望などについて解説する.