著者
青木 俊輔 重 尚一
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.1, pp.5-25, 2021 (Released:2021-02-28)
参考文献数
48
被引用文献数
5

本研究は、空間変動の大きい中高緯度大陸西岸の降水に焦点を当て、全球降水観測計画(GPM)主衛星搭載二周波降水レーダ(DPR)Ku帯降水レーダ(KuPR)およびCloudSat衛星搭載雲レーダ(CPR)を用いてアラスカ南岸の気候学的な降水分布や降水メカニズムについて調査した。高緯度では地表へ落下する降水粒子の相を判別することが降水を評価するうえで不可欠である。海岸線からの距離によって衛星降水プロダクトを分類することで、海岸線を挟んだ海側と陸側で降水特性が大きく異なっていることを示した。沿岸の海上では、地形効果で強化された乱層雲からのCPR反射強度7dBZ以上の比較的強い降水が頻繁にとらえられており、KuPRでもとらえられている。一方、海岸山脈上では、CPR反射強度11dBZ以下の弱~中程度の降雪が頻繁に発生していることが、CPRでとらえられているがKuPRではほとんどとらえられていない。この雪は主に海岸域より移流してきた乱層雲や地形効果を受けて強まった浅い対流雲によってもたらされている。夏季を除いて顕著な降水の日周期変動はなく、さらに夏季の日周期変動の振幅も総降水量と比べると特に海上で小さく、総観規模の水蒸気輸送が年間を通して多くの降水をもたらしていることを示唆している。事例解析と季節解析により、アラスカ湾から到来する温帯低気圧に伴う前線システム及び水蒸気の流れが、海岸沿いで地形によりブロックされて停滞し、沿岸に長く持続した降水をもたらしていることが示された。本研究の結果は、降雨・降雪の両方が発生する地域の降水気候値を評価するには、これら2つのレーダの相補的な情報を用いることが重要であることを示している。