著者
山下 直美 石田 亨 野村 早恵子 早水 哲雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.11, pp.3355-3363, 2002-11-15
被引用文献数
1

電子メールを用いたコミュニケーションは,その情報伝達できる内容の乏しさゆえ,誤解や論争の発生などの問題点が指摘されている.このような問題に対し,これまでのComputer Supported Cooperative Workに関する研究では,人の存在感や雰囲気(すなわち``awareness'')を伝達可能なリッチなメディアを使うことが重要であるとされてきた.しかし一方で,電子メールや電子掲示板という多義性の高いメディア(すなわち``リーンメディア'')でも協調作業が成功する例が報告されている.我々は先にオープンソースソフトウェアの開発を分析し,action-biasedな行動様式が生まれていることなどを明らかにした.本論文では電子メール上の組織的な交渉例(実際に行われた国際会議の統合)を取り上げ,awarenessのない状況でいかに協調作業が成功したかについて分析する.この結果,1. 明確に対立意見を述べながらも対立相手をぼかす無指向性(omuni-directional)なコミュニケーションが頻繁に行われている,2. 電子メール会議の特徴を生かし,少人数グループがアドホックに次々と作られていることが分かった.これらの観測結果は,電子メールにおける``awareness''の欠如を克服しようとした結果,生じた現象であると考えられる.Owing to the characteristics of electronic media, such as lack of socialcontext cues and social presence, various problems may arise when communicating through it. In order to resolve such problems, many CSCW researchers have emphasized ``awareness,'' and proposed several advanced tools. On theother hand, cases do exist which have succeeded in collaboration throughlean media, such as open source software development. In this paper, wedescribe findings from the case where three independent internationalconferences unified successfully only through the email discussions. Thisachievement is particularly impressive as email is not adequate to suchsensitive decision making discussions. From our detailed observation andquantitative analysis of over 800 email messages, following two findingsare presented: 1. avoiding straightforward opinions is effective whendealing with sensitive issues, and 2. ad hoc small group discussions areuseful in achieving agreement among large number of discussion members. Through this research, we found out that lack of awareness can be effective when holding complicated negotiations via electronic media.
著者
船越 要 藤代 祥之 野村 早恵子 石田 亨
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.112-120, 2004-01-15
被引用文献数
7

今後活発になると思われるアジアワイドなソフトウェア開発プロジェクトにおける,機械翻訳を用いた協調作業支援ツールへの要求条件を述べる.問題点を明らかにするために,日中韓馬の4カ国,5大学の教員,学生40人余からなるオープンソースフトウェア開発を延べ16週間実施し,多言語の掲示板と文書共有ツールを提供し,その利用形態を観察した.得られた知見は以下のとおりである.1)機械翻訳は正確な意思伝達を支える十分な品質を持たないが,それにもかかわらず参加者は他の参加者とのコミュニケーションのためには努力を惜しまない.また,2)多言語環境においてはコミュニケーションの局所性が存在し,自言語の参加者と他言語の参加者に対するコミュニケーションの態度が異なる.さらに,3)多言語分散環境におけるソフトウェア開発においては,ソフトウェアの概要を決定する設計の初期段階での機械翻訳利用は有効であるが,モジュール機能を詳細に決定する設計の詳細化段階のコミュニケーションは困難がある.これらの知見に基づき,機械翻訳を用いた協調作業には,1)機械翻訳を利用した参加者の努力を支援するためのインタラクションを考慮した翻訳システム,2)他言語の参加者に対するアウェアネスの維持,および3)特に概要設計からモジュール設計に至る設計段階での協調作業の支援が必要であることが明らかになった.In this paper, we discuss the technological aspects of intercultural collaboration. We suggest the intercultural collaboration via machine translations to develop in the members' first languages. To determine the problems, we had conducted an Asia-wide software development experiment in multilingual environments, ICE2002. The observation showed that (1) the members pay great effort to communicate with other members via the noisy translations, (2) members change the behaviour to the members of the same culture and different cultures, and (3) the software development in a lean and noisy media constrains the detailed design to be difficult. We suggest the implementation of the intercultural collaboration support tools with the following requirements: (1) interactive translation to support the effort for the communication, (2) awareness to other language members according to the psychological localities, and (3) support method for software design phase.
著者
野村 早恵子 石田 亨 船越 要 安岡 美佳 山下 直美
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.44, no.5, pp.503-511, 2003-05-15
被引用文献数
27

インターネットを介したアジアワイドな協調作業を支援するため,異文化コラボレーション実験(ICE2002)を実施した.日中韓馬の5大学からの40名の教員・学生が,日中韓馬英の5カ国語の機械翻訳を組み込んだ多言語ツール,TransBBSとTransWebを介して母国語でオープンソースソフトウェア開発を行った.今後,国際プロジェクトの現場で実用に耐える異文化コラボレーション環境の開発を目指す予定である.
著者
山下 直美 坂本 知子 野村 早恵子 石田 亨 林 良彦 小倉 健太郎 井佐原 均
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.1276-1286, 2006-04-15
被引用文献数
11

機械翻訳を介したコミュニケーションを通じて相互理解を実現するためには,翻訳精度の向上とともに相互作用性の向上が重要である.我々は機械翻訳に対するユーザの適応行動の1 つである原文の書き換えに注目した.本論文では,ユーザが母国語だけを用いて原文の書き換え作業を行う方法として折り返し翻訳を検討し,折り返し翻訳を用いてユーザが書き換え作業をする際の作業量を減らす支援方法を考案する.本研究でユーザの折り返し翻訳作業に関する実験を実施,分析した結果,以下の知見を得た.1) 母国語に関する知識が豊富なユーザほど機械翻訳に容易に適応でき書き換え作業量が少なかった.2) ユーザに事前に「良い翻訳結果を得るためのルール集合」の教示を行うと,母国語に関する知識が豊富でないユーザも機械翻訳に容易に適応できるようになり,書き換え作業量が大幅に減った.3) ただし,原文をどのように変更すべきかを明示しない「操作自由型ルール」に対する教示効果は薄く,これらのルール獲得にかかる書き換え作業量は大きく減少しなかった.原文をどのように変更すべきかを明示した「操作指示型ルール」に対する教示効果は高く,これらのルール獲得にかかる書き換え作業量は大きく減少した.4) ルールの教示は,母国語に関する知識が中位のユーザに最も効果的であった.Translation refinement is often observed when users communicate via machine translation systems. In this study, we analyzed user's translation refinement process through a controlled experiment. In the experiment, users translated sentences using a Japanese-English-Japanese turn-back translation. From the analysis, we discovered the following results: 1) The more knowledge users had about the source language, the better users could refine the original text, 2) Rule instruction was very effective in user's adaptation. Users who were reminded of the rules refined the original text ahead of other users, 3) Instructing operational rules were effective in helping user's adapation, while conditional rules were not as much effective. 4) Rule instruction was most effective to those who had midium knowledge in their source languages.