著者
金井 求 生長 幸之助 豊邉 萌
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.33-37, 2023-02-01 (Released:2023-02-01)
参考文献数
11

アミノ酸選択的修飾反応は、天然アミノ酸のうち1種類のみを選択的に修飾する化学反応である。これまでに、システインやリジン側鎖の求核性を活用した反応は数多くの報告があり、これらの抗体修飾への応用は、医薬品(抗体-薬物複合体)として実用化に至っている。一方で近年の発展により、システインやリジン以外のアミノ酸に対する修飾反応も開発されている。しかし、その対象はペプチドや小さなタンパク質が多く、複数のドメイン・サブユニットの複合体である抗体への応用例は少ない。さらに、修飾抗体の機能までを評価した例は限られている。本稿では、アミノ酸や反応剤のレドックス活性を利用したチロシン、トリプトファン、メチオニン選択的修飾法をとりあげ、それらを抗体修飾法へと応用し、機能評価を行った事例について紹介する。
著者
坂井 健太郎 生長 幸之助 金井 求
雑誌
日本薬学会第140年会(京都)
巻号頁・発行日
2020-02-01

【目的】医薬品候補化合物の構造中にC(sp3)が多いほど臨床段階での開発成功確率が向上することが知られているように、C(sp3)-H官能基化は医薬品開発において望ましい反応形式の一つである。触媒的C(sp3)-H官能基化を実現する手法として近年、可視光レドックス触媒(PC)と水素原子移動(HAT)触媒からなるPC-HAT触媒系が、温和な反応条件、優れた官能基許容性から注目を集めている[1]。既存のPC-HAT触媒系の多くでは化合物中の最も反応性の高いC(sp3)-H結合、つまり、最小の結合解離エネルギー(BDE)を有する結合やヒドリド性の高い結合が変換されていた。化合物依存の反応性ではなく、触媒制御の反応位置選択性を実現する戦略として、特定の結合のBDEを低下させる結合弱化触媒の利用があげられる。結合弱化現象は主に錯体化学の分野で研究されており、触媒的に有機合成に用いられた例は限られている[2,3]。しかも広く研究されている低原子価金属の配位による結合弱化は、酸化的な条件であるPC-HAT触媒系を阻害する恐れがあった。そこで、PC-HAT触媒系によるC(sp3)-H官能基化に適応可能な新規結合弱化触媒の開発に取り組んだ。【結果】モデル反応としてアルコールα位C-Hアルキル化を開発することとし、アルコールの水酸基と相互作用することによって結合弱化が起きる化合物群を探索した。DFT計算を行ったところ、ケイ素化合物がエタノールと5配位のアニオン性シリカートを形成した場合に結合弱化が起きることを見出した。この計算結果を基にケイ素触媒の探索を行ったところ、下図のスピロシラン[4]が新規結合弱化触媒として機能し、PC-HAT触媒系によるアルコールα位C-Hアルキル化を促進することを見出した[5]。(1) (a) Shaw, M. H.; Twilton, J.; MacMillan, D. W. C. J. Org. Chem. 2016, 81, 6898. (b) Capaldo, L.; Ravelli, D. Eur. J. Org. Chem. 2017, 2056.(2) Tarantino, K. T.; Miller, D. C.; Callon, T. A.; Knowles, R. R. J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 6440(3) For the precedents of bond-weakening phenomenon used in the cooperation with PC-HAT hybrid system, see: Jeffrey, J. L.; Terrett, J. A.; MacMillan, D. W. C. Science 2015, 349, 1532.(4) Perozzi, E. F.; Martin, J. C. J. Am. Chem. Soc. 1979, 101, 1591.(5) Sakai, K.; Oisaki, K.; Kanai, M. Adv. Synth. Catal. 10.1002/adsc.201901253.
著者
金井 求
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

当量のホウ素化合物を用いたカルボン酸の求核的活性化を既に見出している。本予備的知見を踏まえ、ホウ素化合物の触媒化と世界初のカルボン酸をドナーとする触媒的不斉アルドール反応の実現に注力した。まず当量反応条件を確立した。ホウ素上の置換基のチューニングにより、電子求引性のリガンドを用いたときに、芳香族、脂肪族双方のアルデヒドに対して有効に機能するカルボン酸アルドール反応を見出した。触媒の電子密度と立体障害、配位飽和度等を最適化し、生成物と触媒の解離を加速することで触媒再生を促進することを試みた。その結果、トリフルオロメチルケトンを基質として用いると、カルボン酸アルドール反応でホウ素触媒の回転が観測された。この基質依存性の原因を探るべく、トリフルオロメチル基を含む2級アルコールと3級アルコールをそれぞれ共存させて反応を行ったところ、3級アルコール存在下では触媒回転が達成できたのに対して、2級アルコール存在下では触媒回転が見られなかった。以上の結果は、アルドール生成物の立体項が触媒回転の有無に重要な役割を果たしていることを示している。この知見をもとに、今後、ホウ素上の置換基を立体的に嵩高くすることにより基質一般性のより高い触媒回転の実現を目指して行く予定である。この研究で開発した方法を用いると、カルボン酸類が化学選択性高く求核的に活性化することができる。カルボン酸は特に医薬等の生物活性化合物に数多く含まれる官能基であり、医薬のlate-stage構造変換に有用な反応が開発できたと考えている。
著者
金井 求 松永 茂樹 生長 幸之助 清水 洋平
出版者
社団法人 有機合成化学協会
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.71, no.5, pp.433-442, 2013-05-01 (Released:2013-06-12)
参考文献数
63
被引用文献数
2

In general, biologically active drug lead molecules are structurally complex, bearing multiple functional groups and chiral sp3 carbons. Our aim in developing new catalysis is to promote a concise, robust, and clean drug lead synthesis. To do so requires catalysis allowing for the design of concepually new retrosynthesis independent of functional groups. Here we summarize our first step toward such a goal. First, we describe a Cu(I)-catalyzed enantioselective condensation of ketones and hemiaminals that can produce versatile chiral building blocks for alkaloid synthesis. The hard anion-conjugated soft metal (HASM) catalysis concept is the basis for the reactivity. Second, two Cu-catalyzed cross-dehydrogenative coupling (CDC) reactions are discussed. The radical-conjugated redox catalysis (RCRC) concept leads to the development of a very early example of catalytic asymmetric aerobic CDC. Third, the Rh-catalyzed aldehyde cross aldol reaction and the Co-catalyzed C-4 selective alkylation of pyridines, both of which are mediated by means of hydride transfer, are described. Unique reactivity in the latter two topics is partly due to the redox activity of the transition metal catalysts.