著者
小林 憲正 遠西 寿子 坪井 大樹 酒井 貴博 金子 竹男 吉田 聡 高野 淑識 高橋 淳一
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.39-46, 2008-03-31

炭素質コンドライトや彗星中に種々の複雑有機物が検出されていることから,地球外有機物が生命の誕生に重要な役割を果たした可能性が議論されている.隕石・彗星中有機物の起源としては,分子雲中の星間塵アイスマントル中で宇宙線・紫外線エネルギーにより生成したとするモデルが提案されて いる.われわれは模擬星間物質に重粒子線を照射することにより高分子状の複雑有機物に結合したアミノ酸前駆体が生成することを見いだした.このような高分子状結合型アミノ酸は遊離アミノ酸と比較して宇宙環境で安定であること,円偏光照射によりアミノ酸エナンチオ過剰を生じうることなどが わかった.これらの知見をもとに生命の起源にいたる新たな化学進化シナリオを提案する.
著者
金子 竹男 小林 憲正 矢守 章
出版者
日本惑星科学会
雑誌
日本惑星科学会秋季講演会予稿集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.69-69, 2003

炭素質隕石からアミノ酸、核酸塩基を含む生体有機化合物が検出されていることから原始地球への有機物質の多くが地球圏外起源であったとする可能性が示唆されている。しかし、地球外有機物の地球への持ち込み時の安定性が問題である。これまで彗星や隕石による有機物の地球への持ち込み時の反応を調べる為に衝突実験(_から_2km/s)、アミノ酸の加熱分解実験およびシリカを共存させたアミノ酸の昇華実験が行なわれてきた。しかし、より速い速度での衝突実験は余り行なわれていない。我々は世界最速である宇宙研の電磁加速装置「レールガン」を用い高速衝突実験を行なっている。今回はグリシン水溶液および彗星を模擬したメタノール、アンモニア、水の混合物に高速衝突させた生成物について検討した。<BR>10mM グリシン溶液はステンレス製ホルダーに、また彗星を模擬したアンモニア、メタノール、水の混合物は金メッキしたステンレス製ホルダーに封入し、ドライアイスで冷却後、液体窒素で冷却しながらこれにポリカーボネート製の飛翔体を衝突させた。衝突速度は2.5_-_6.4 km/sであった。生成物の一部を6 M HCl, 110℃で24時間加水分解し、陽イオン交換樹脂で脱塩後、アミノ酸をN-アセチル-L-システインとo-フタルアルデヒドでポストカラム誘導体化する島津LC-6Aアミノ酸分析計で同定・定量した。またアミノ酸の重合物は加水分解前の試料を0.45μmのメンブランフィルターでろ過後、イオンペアクロマトグフィーおよびMALDI_-_TOF MSにより分析した。<BR>グリシンを用いた実験では、加水分解前にはグリシン重合物のピークは観測されなかったが、ジケトピペラジンの生成が示唆された。衝突速度の違いによる生成物の差は見られなかった。海底熱水系を模擬したフローリアクター実験から、グリシンの重合物およびジケトピペラジンの生成が報告されている。イオンペアHPLCの結果から、衝突による高温・高圧状態では、フローリアクター実験で報告されている通常の重合物と異なる物が生成していると考えられる。MALDI-TOF MSの結果からは、2環アミジンの生成が示唆された。これは耐熱性があり、衝突でも残存し、加水分解することでアミノ酸になることが分かった。<SUP>1)</SUP><BR>メタノール、アンモニア、水の混合物を用いた衝突実験では、生成物を加水分解することにより、セリン、グリシンなど多種のアミノ酸が生成することが分かった。<BR>高速衝突でグリシンから海底熱水系模擬実験や昇華実験とは異なる2環状アミジンの生成が示唆され、アミノ酸の一部は重合物を生成することにより衝突による分解を免れることが示唆された。彗星を模擬したメタノール、アンモニア、水の混合物から種々のアミノ酸が生成したことから、彗星の高速衝突によりアミノ酸前駆体が生成する可能性も示された。今後、模擬星間物質を用いた衝突実験を行ない、原始地球への地球圏外起源有機物質の持ち込みについて考察していく予定である。<BR>1)金子竹男、小林憲正、矢守章、スペース・プラズマ研究会平成14年度、79-82 (2003).
著者
小林 憲正 奈良岡 浩 三田 肇 橋本 博文 金子 竹男 高野 淑識 VLADIMIR A. Tsarev
出版者
横浜国立大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

模擬星間物質に重粒子線などを照射して合成した「模擬星間有機物」と、炭素質コンドライト中の有機物を分析し、両者と生命起源の関連について考察した。模擬星間環境実験では分子量数千の複雑態アミノ酸前駆体が生成する。これが星間や隕石母天体中での放射線・紫外線・熱などでの変性により隕石有機物となったことが示唆された。原始地球へは宇宙塵の形で有機物が供給された可能性が高く、その分析が必要である。宇宙ステーション上で宇宙塵を捕集する条件を検討中である。