著者
金澤 真理
出版者
山形大学
雑誌
山形大学法政論叢
巻号頁・発行日
vol.37, pp.1-26, 2007-01-31

はじめに 日本の更生保護制度は、官民協働に特徴づけられる。従来「保護会」と呼ばれてきた更生保護施設は、一八八八(明治二一)年に治山、治水事業家でもあった金原明善らが設立した「静岡県出獄人保護会社」を嚆矢とし、以後一〇〇年以上にわたって民間の篤志家、宗教関係者、退職公務員が中心となり、刑務所を出所した者や仮釈放者となった者に食事や宿泊所を提供してきた。また、政府もこれを奨励した。保護会は、戦前、戦後を通じて刑罰を受けた者の社会復帰に重要な役割を果たしてきたが、経営上の困難、施設の老朽化さらには地域住民からの排斥運動等に遭い、その運営に困難を来す場合も少なくなかった。そこで、一九九五年、更生保護事業法の制定により、更生保護法人制度が創設され、「更生保護施設」として、従来の公益法人としての扱いに比べて税制上の優遇措置を受けられるようになり、他の社会福祉法人と並んで、より公益性の高い法人と位置づけられることとなった。この間、更生保護事業が一貫して主として民間の手によって運営されていたことは特筆に値する。現在、更生保護施設を利用する者の大半が保護観察対象者であり、また、刑務所から仮釈放となった者についても約三人に一人が社会復帰の足がかりとして更生保護施設を利用しており、保護観察や仮釈放の実施上、更生保護施設は必要不可欠の存在となっている。就中、近時、矯正施設の過剰収容が問題となっていることから窺知されるように、施設から出所後、更生保護施設における保護を要する者もまた増加傾向にある。本稿は、更生保護事業における更生保護施設の重要性に鑑み、その運営のあり方につき少しく考察を加えるものである。
著者
土井 政和 岡田 行雄 正木 祐史 渕野 貴生 井上 宜裕 武内 謙治 金澤 真理 佐々木 光明
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究の目的は、(1)社会内処遇について理論的実証的検討を行い、(2)更生保護基本法要網試案を作成することであった。目的(1)との関連では、前年度までの研究の成果として刑事立法研究会編『更生保護制度改革のゆくえ-犯罪をした人の社会復帰のために』(現代人文社・2007年5月)を公表した。いくつかの事件をきっかけに誕生した「更生保護の在り方を考える有識者会議」の提言は、傾聴すべき改善案を含む一方で、監視強化の方向性をも内包したものであった。その方向性は更生保護法にも引き継がれている。それは、指導監督と補導援護を統合し、援助とケースワークを基本に実施してきた従来の実務動向とは逆行するものと評価できよう。本書では、そこに欠けている歴史的視点や一貫した社会的援助の理念、保護観察対象者の法的地位及び国際準則等について分析検討を行った。これらの成果を生かす形で、更生保護立法に対する働きかけも継続的に行った。参議院法務委員会参考人意見陳述(6月5日):土井政和「更生保護法案についての意見」、更生保護法案審議中の参議院法務委員会等に対する「更生保護法案についての意見」提出(2007年5月4日)、「『仮釈放,仮出場及び仮退院並びに保護観察等に関する規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集」(法務省:案件番号300110003)に対する意見書提出(2007年9月4日)、「犯罪をした者及び非行のある少年に対する社会内における処遇に関する規則の制定について(意見募集)」(法務省:案件番号300110006)に対する意見書提出(2008年3月10日)がこれである。目的(2)の達成のため、最終年度における研究会の過半を費やして、要綱試案策定に力を注いだ。その成果は、現在取りまとめ中であるが、龍谷大学矯正・保護研究センター2007年度研究年報に掲載の予定(8月刊行予定)である。