- 著者
-
武内 謙治
- 出版者
- 日本犯罪社会学会
- 雑誌
- 犯罪社会学研究 (ISSN:0386460X)
- 巻号頁・発行日
- vol.40, pp.68-83, 2015
近時の少年司法・矯正改革の特徴としてみられるのは,(1)非行を「社会病理」ととらえる視点の退行,(2)人間行動科学領域の専門知の退行・萎縮,そして(3)(立法の場における)(とりわけ裁判)実務家からポジティブな実務経験が語られることの乏しさ,という現象である.本稿は,非行を社会病理ととらえる視点が,保護処分の処遇上の有効性を正面から問題にする思考や,非行の問題を社会として引き受けることとつながってきたこと,特に結果重大事件における専門知の用い方が悪循環を来していること,(裁判)実務家からポジティブな経験が語られることが少なくなっていることが,「適正」という言葉の理解に反映しており,少年法適用年齢の問題もこれと無関係ではないこと,しかしながら,この傾向を推し進めることは,理念的には,個の尊重や自立的な非行の克服への信頼の軽視ないしは否定を,実際上はケースワークの退行を帰結することを指摘する.それを踏まえて,問題状況を好転させる契機が今次の少年司法・矯正改革に内在しているかを問い,その枠を超えたより抜本改革として,参審制による審判への民衆参加制度を採用する必要性と可能性について論じる.